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『和平』

 静かな所だった──


 白い壁に木目の天井板張りの床。


 壁には刀掛けがいくつも並び、多くの木刀や袋竹刀、そして模擬刀が掛けられていた。少し高い位置には槍掛けもあり白樫の棒、同じく木で形を模した薙刀、槍なども掛けられていた。


 壁の真ん中には一つの掛け軸が掛けられていた、どこか厳かで神聖さを感じられる場所。そこは武を心ざす者が己が技を。肉体を。精神を。高めるために鍛錬する場、道場だった。


 かつての武芸者達、その者達が扱ったといわれる戦闘技法。古の武術、兵法、‥‥殺しの技。それを現代までつたえる道場だった。ルールが徹底されすでにスポーツ競技化されてしまった剣道や柔道等の現代武道を教える道場とは違い、平和な今の日本では異端な道場といえた。


 そんな板張りの床の道場の真ん中に一人の少年が座していた。


 稽古着に袴姿の細身の少年、年のころは15才前後だろう。少年は体術的に見ても完全な姿勢の正座で座しており瞑目したまま微動だにしなかった。それは瞑想などの一種の精神的鍛錬だったのかもしれない。座する少年の右手側には黒い漆塗りと柄巻きに収められた常寸の刀が置かれていたそれは偽刀ではなく真剣だった。と──


 風が少年の首があった場所後ろからを一瞬で凪ぐ。しかし少年はそれより一瞬早く刀を掴みつつ斜め前に転がりさらに後ろに向き直りつつ跳んで距離をとる、そして目の前の人物を見つめる。


 「‥‥やはりそう上手くは終わらせられぬか」


 どこか諦念混じりにつぶやいた人物は少年と同じ稽古着に袴の総髪の男性だった、最早老境に差し掛かっている外見だがその物腰が、そして手に構え今しがた少年の首を跳ねんと閃いた身の丈にせまる長さの野太刀が只の老人でない事を物語っていた。

 

 「こんな時でもお前のその目は変わらぬのだな」


 老人の言葉どうり少年の眼は特に感情らしきものを映してなかった。ただその無機質な三白眼で老人を見据えたまま左手に納めたままの刀を下げて自然な構えで立っているだけだった。しかし少年も口を開く。


 「先生」


 それは自分の師への言葉。


 「何故です?今は泰平の時代、この法治国家で僕を殺せばどうなるかわかっているでしょう」


 「無論だ。俺は罪人だろう」


 「だがお前も知っているはずだたとえ罪人として死罪になろうと斬るべき時に斬れぬ者は士道不覚悟のいわれだと」


 「‥‥」


 それでも少年は無感情と姿勢を崩さない。


 「お前には教えられた、凡才と天凛を持つものの違いを俺は数十年の鍛錬の末ここまで来た、しかしお前はもうその歳で´武´の一つの極地と言える『眼』の域に達してしまった」


 「では僕は晴れて免許皆伝と?」


 「あぁ俺もそうしたかった、だがな」

  

 「おまえは人を斬る」


 その言葉を聞いたとき少年の眉がヒクリと動いた。


 「わかるのだ、お前は必ずその手を血に染める、なぜならお前は武術を人殺しの手段としかみていない」


 「お前は武術の鍛錬をおこなっているようでその実人を殺すための鍛錬しかしていない!」


 「武術は確かに殺法だしかしそれはむやみな死を生み出すようなものではない、いやそうあってはならない。」


 「武は生きる人の為のものではなくてなならぬのだ」


 「お前が生きる人に害すろのなら「先生」


 言いかけてた老人の言葉をさえぎり少年は抑制なく言った。


 「殺法は殺法、殺しはただの殺しですよ」


 それを聞いて少年の師であるこの道場の主はもはや言葉もなくその長大な野太刀を八双に構えた。


 少年は師の野太刀に比べるとまるで小刀のように感じる刀を鞘から抜きつつ言葉を紡いだ。


 「先生」


 「僕は先生の教える武術は紛れも無い本物だと認めてました、でも今語ったような貴方の考えかた、ひいては‥‥」


 「俺は貴方の事が大嫌いでした」


 もう言葉は無かった。


 師は野太刀を肩に担ぐような八双の構え、そして少年は半身になって刀を握る手を引いた腰付近にやり刀身を床すれすれに下げる脇構えになったまますり足でお互いに間合いを計る。


 師は思っていた。


 最初の奇襲の一刀が外れた時点ですで絶望的だと。


 普通に考えて常寸の刀と長大な野太刀ではリーチの差から考えてもどちらが有利かなど考えるまでもない、無論扱えこなせる事前提だが。


 しかし師には自分が勝利し生きて立っていろビジョンが想いうかばなかった。もう目の前の少年は自分がどうこうできるレベルではないのだ、自分では遠い武の境地に容易く立った怪物だ。


 しかしその怪物を結果的に育ててしまったのは師でもある、ゆえに初めから自分の命など計算に入れないことにした。


 相打ち覚悟で怪物を討つ!


 すでに互いの間合いは師の野太刀は一刀足で届き、少年の刀は間合いにはほど遠い距離。完全に師にアドバンテージのある距離。次の瞬間──


 師が踏み込みつつ野太刀を繰り出し一瞬遅れて少年も神速で動いた──




      瞬きの間に両者は交錯しそれで勝負は決まった────








 フランはお腹も一杯になり鼻歌など歌いながら上機嫌に歩いていた。


 川上の居場所も咲夜にすでに聞いていた、それでフランは地下図書館に向っていた。もっと川上と遊ぶために。


 「パチュリ~」


 「あら妹様、図書館に来るなんて珍しいわね」


 フランは地下図書館まで来るとパチュリーに声をかけた。


 「どうしたの?またご本でも読んであげましょうか?」


 パチュリーは珍しく柔かい声でそういう。


 「うんん、今はいいよそれよりお兄様しらない?」


 「お兄様?川上のこと?」


 あれはお兄様なんてタマかしら、などとすこしぶつぶつ言ったあとフランに告げた。


 「そこのソファーで寝てるわよ」


 「ありゃ」


 パチュリーの指すほうを見ると確かに置かれてる二人掛けソファーに川上は刀を抱えるように横になり寝ていた。理由は言うまでもなく昨夜フランにつき合わされたための寝不足である。 


 「ん~」


 眠ってるのならどうしようかと考えながら静かに川上の元に近づいて。


 「やー」


 とりあえず川上の腹にごく軽い手刀を落とした。 

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