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タバコが手に入らない‥‥
――紅魔館食堂
川上も含めた紅魔館メンバーは夕食を取っていた。
「今回は人肉ではないんだな」
ふと川上はそう言う。
「まぁそんないつもいつも人肉ばかり食べてる訳じゃないわよ、飽きるしね」
そうレミリアはワインを一口含みつつ川上に返す。
「でもこの肉はなんだ?人ではないが牛とかでもないな」
「それは子羊よ」
川上の疑問に咲夜が答える。
「ふーん、これが子羊ね、結構旨いのだな」
「私は人間のお肉好きだよ!美味しいもん!」
「確かにアレは旨いものだったな俺も味で言ったらどちらかといえばこの子羊よりか人間の方が好みかな」
「だよねー人間は血も美味しいけどお肉も美味しいよねー」
どうやら人肉派のフランの言葉に川上も同調する。
「というか貴方人間の癖に人を食べるのね」
少しずつ食事を食べ進めながらパチュリーがそう突っ込む、小悪魔も人が人を食べると聞きやや驚いた様子だ。
「いやお嬢様が昼食に出してくれた時に初めて食べたんだが」
皆の視線が主のレミリアに向けられレミリアは若干気まずげに目を反らす。
「まぁ、ちょっとした歓迎よ」
レミリアはそう言ったがただの嫌がらせめいたいたずらだと皆解釈していた。
「人を食べる人間って久しぶりに見るわね、傍若無人な霊夢達も何故か人間だけは口にしようとしないし」
パチュリーはそういうが、彼女の言う久しぶりは果たして何十年ぶりくらいなのか?。
「そうですね、咲夜さんも普段も食べませんし、人間は人を何故か食べたくないみたいですね、凄く美味しいのに不思議ですね」
そして会話に加わった美鈴は自身が生粋の妖怪の為食料として人間を食べるのは生きる上で当たり前の事だ、それゆえ彼女は人間が人間を食べるという事への嫌悪感を理解出来ないのだ。
「そうだな、あれだけ美味いのだから食わず嫌いはもったいないと俺も思う」
だがその嫌悪感を理解出来ないのは何も妖怪だけとは限らないらしい、川上はそう言ってのけた。
「本当に美味しいのにねぇ、確かに鳥や牛のお肉も美味しいけどやっぱり人間が一番美味しいと思うのよ、咲夜もその味はわからないかしら」
「いえ‥‥確かに味は美味しいのかも知れませんけど共食いになってしまいますので、お嬢様も同族のお肉は食べたくはないのでは」
「そう言われてみればそうかも知れないわねぇ」
レミリアは咲夜にそう言われてなるほどそういうものかも知れないと思った、人間等の知性ある生き物は共食いを避ける為嫌悪感を覚えるのかも知れないと。
なら、嫌悪感のけの字も見せないこの男は何なのかとレミリアは川上を見る、川上はレミリアの視線に気付いているのかいないのかぼんやりとスープに口を付けている、そして向かいのフランが川上の皿に残った肉の最後の一切れを物欲しそうに見ているのに気付いてフォークで刺してフランに食べさせていた、なんとも自由な振る舞いの川上を見て要は何処か壊れているのだろう、そうレミリアは解釈した。
「フフ、まぁまともじゃ面白くないしね」
「?何、レミィ」
「いいえ、何でもないわ」
独り言に聞き返すパチュリーにそう返しながらレミリアはグラスの血のワインを一口飲んだ、今日は何だかいつもより美味しい気がした。
メインデッシュも一切れフランにあげながらも綺麗に食べスープも飲み干し誰よりも早く食事を終えた川上は席を立った。
「デザートがあるわよ、出しましょうか?」
咲夜はそう川上を呼び止めた、彼女自身も食事中だが場合によっては給仕も務める、少々行儀が悪いが仕方ない、それに彼女の能力なら見かけ上は体裁を保てるから問題はないと言えばない。
「‥‥デザートはなんだ?」
少し考えて川上はそう聞いた。
「バニラアイスよ」
「では遠慮しておく、俺の分は妹様でも食べてくれていい」
「え、食べていーの?」
「あぁ、構わない」
「やった、ありがとう!」
フランは甘い物が好きなのか川上の言葉に嬉しそうにしていた。
「では失礼させてもらう、ごちそうさま」
川上はそう言い残して食堂を一人出ていった。
「何と言うか緊張感のない方ですね」
気負った様子もなく奔放な振る舞いの川上に咲夜はそう感想を漏らす。
「でもあのくらいじゃなきゃここではやっていけないわよ、丁度いい人材じゃない」
「確かにそうかも知れませんね、何だかあの人には変わった安心感みたいなのを感じます」
レミリアの言葉にそれまで静かに食事をしていた小悪魔が川上の印象を述べた。
「‥‥それでもあれはただの人間には変わりないわよ、あまり無茶はさせない事ね」
パチュリーがそう一言忠告する。
「‥‥どうですかね」
それに対し川上と直接対峙した美鈴が含みを持った言葉を漏らす。
「美鈴?」
「あの男、かなり出来ますよ、人間とは思えないレベルでした」
対峙した美鈴は川上の力量をある程度測れたらしいが、美鈴にとって少なくとも今まで相手取ったどの人間とも比べものにならない脅威だった。
「私もー川上は弱くないと思うよ」
少しじゃれついたフランも川上が並ではないと理解していた。
「ふーん、ただの武術使いの人間も結構やるものね」
レミリアは感心したような面白がってるようなニュアンスでそう言った。
「わかってて此処に誘ったのでしょう?」
「フフ、私だってなんでもわかる訳じゃないわよ」
パチュリーにそう言いながらレミリアは血のワインを飲み干した。
「咲夜」
「なんですかお嬢様?」
「アイス」
――紅魔館庭園
川上は食堂を出てそのまま外まで出てきた、ちなみにデザートを遠慮したのは彼が甘いものが苦手な上冷たいものが嫌いだったからだ。
川上は懐からゴールデンバットを取り出すと火を点けた、ゆっくりと吸い込みふぅ、と紫煙を吐く。
ゆっくりと風味を楽しみながら空に浮かぶ月を彼は見上げた、空には青白に光を放つ月が綺麗に三日月を描いている。
それを見上げる川上の無感動な瞳からは何を思っているかは読み取れなかった。