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『破壊』

  ――紅魔館廊下。



 そこで川上は歩いていた、時折先ほど入手した間取り図に目を落とし現在地を確認しながら、館の構造を頭に叩きこんでいく。


 その後に川上は有事の際の最適な動き方、最短で館から脱出するルート等を検討するつもりだった。


 とりあえず今は歩きながらの確認段階、そして間取り図を確認しつつ歩く川上の肩には何故か一人のメイド妖精が乗っていた。


 幼く小さな体躯をメイド服に包み黒髪をセミロングにした妖精は満足げに川上の肩の上を占拠していた。


 ……この館には相当数の妖精がメイドとして雇われているらしく館を歩く川上は何人もの妖精メイドと廊下で遭遇した、そして妖精達の反応も様々なものだった。


 特にどうでもいいのか川上を一瞥すらせずすれ違う者、見慣れない人間である川上に疑問を顔に浮かべるが結局何もせず去っていった者、好奇心旺盛に川上に話しかけてくる者、川上を見て驚いた顔をすると何故か踵を返して逃げていったもの、そして何故か間取り図を確認している川上をみてその体に登り肩の上に居座った変り者、居心地が良かったのか中々降りる気配がないが大して重みも感じず動くのにさして支障は無かったので川上は特に何も言わす確認作業を続けた。


 ちなみにその後にすれ違うメイドは同僚であるメイドを肩に乗せた謎の男川上を目撃するたび、何事かと驚愕していた。


 そして川上は未だメイドを乗せたまま二階のフロアを探索していた、間取り図によるとここら辺の部屋は雇われのメイド妖精達が使っている所か、川上に割り当てられた部屋もこの階層の隅の方にある。


 その時になって川上の肩に乗っていたメイドはぴょんと川上から降り着地した、いい加減飽きたのだろうか?。


 「またねー」


 そう川上に言ってその変り者のメイドはパタパタと廊下を走り去っていった、それを川上は一瞥すらしなかった。


 心持ち肩が軽くなった川上は探索を続ける、そろそろ三階を見てみようか、そう思いながら歩を進めかけ……足を止めた。



 ……空気が変わった、一瞬ピリッ空気が張り詰めた、この先に何かがいる、危険がある、川上は持ち前の高い危機管理能力故にそれを理解した。


 もっとも経験から来るただの直感みたいなものだ、何故そう思ったかと言われても明確には説明出来ない、理屈ではなかった。


 今川上がいる廊下の先は突き当たりで道が左右に続いているT字路だった、この張り詰めた空気を生み出している存在はあの曲がり角の向こうだろうか?。


 ならば話しは簡単だ、引き返して別の道を行けばいいだけの話しだ、それでこの先に危機が有っても簡単に回避できる。






 ……しかし、川上は引き返す素振りすら見せず曲がり角へと向かっていった、まさか彼はどんな危機であろうとも問題はないとでも言うつもりだろうか?。


 いや、彼はこの選択であるいは自分が呆気なく死ぬかも知れない事を理解していた、もっともさっきから川上を襲う危機感の正体は何だかは解らないが。


 ならば何故彼はわざわざ危険に飛び込むような真似をするのか?彼が何を思うのか、その気だるげな表情からは伺いしれない。



 そして川上は曲がり角まで来ると左の廊下に目を向けた。


 そしてそこに居た、この空気を生み出す張本人が。


 その幼い少女は川上からみて後ろ姿だった、しかしその少女が綺麗な金糸の髪を持ち、レミリアのかぶっているものと同タイプの帽子をかぶっているのは確認出来た。



 そして何より、特徴的なのは背中の羽、骨格そのもののような骨状のものが左右から二本生え、その骨格に七色の輝く宝石のようなものが無数にぶら下がっているという異形そのものの羽。


 それはおおよそ羽としては人間が想像も出来ないような歪なものであり―――そして美しかった。




 「あれ?」


 川上の視線に気付いたのか彼女も振り向き川上を見る。


 彼女は全体的に深紅の服装だった、半袖にミニスカートか、そして外見的には10才にも満たない幼い少女そのものの無垢で愛らしい顔をした彼女のその眼は深い紅色をしていた。


 同時に身に纏う空気がただ事じゃない事も川上は理解していた、これがメイド長の言っていたレミリアの妹、フランドール・スカーレットか、川上はそう思った。


 「貴方はだあれ?」



 「貴女が妹様か、俺は今日からこの館に使用人として雇われた川上という、よろしくお願いする」


 川上はそう咲夜に言われていた通り挨拶をこなす。


 「新しい使用人?でも貴方人間よね?」



 「人間だ」



 「ふぅん、珍しいね、人間がここで働くなんて」



 そう、いいながらフランは川上に興味を持ったのか歩み寄ってくる。


 「てことはそんなに簡単に壊れないのかな?」



 そう言った次の瞬間川上とフランの間の5メートルの距離はゼロとなり、数瞬前まで川上の顔面があった空間をフランの抜き手が貫いていた、そしてフランの手を掻い潜りながら抜刀した川上の刀がフランの胸に食い込んでいた。


 「ッつ!」


 次の瞬間フランが顔を歪めた、胸に食い込んだ刀を川上は引いてフラン胸筋をバッサリと裁断したのだ、優しい斬撃であり、肋骨や胸骨を断ち切り胸腔にまで及ぶような致命的で強力な斬撃では無かったが、かなりの深手だ。


 川上は刀を返して今度を首筋に斬撃を落とそうとして、フランはそれに反撃を……行えない事を悟り、爆発的な脚力で一気に10メートルも距離を開ける、目の前から獲物が居なくなったので川上は放った斬撃を途中で止めた。


 

 「あははは、貴方凄いね、咲夜や魔理沙と同じだ簡単に壊れないんだね!」


 フランは何処か嬉しそうにそう言った、その両腕は力無く垂れている、左右の胸筋が断たれた事でそれに連動する両腕もロクに動かせなくなっていた、故に反撃も行えなかったのだ。


 もっとも吸血鬼の再生力なら治癒もすぐだが、現に出血はすでにない。



 「それは違う」



 川上は、言った。



 「人間は君とは違い簡単に呆気なく壊れる、それこそ俺等運が悪ければ廊下を歩いてて転んだだけでも死ぬ事だってある」



 川上は、本心からそう思ってるようだった。



 「でも、貴方は壊れてないじゃない」



 「結果論だ、例えば君の最初の攻撃を受けていたら俺は脳味噌を撒き散らして死んでただけだ、こうして生きているのはたまたまでしかない」



 「ふーん、でも、そのたまたまがいつまでも続けば貴方は壊れないって事ね!」



 フランは笑ってそういい妖力を形にして弾幕を展開した。


 

 「そんな都合のいい話はないけどな」



 川上は形成される妖力弾をみて疲れたように言った。



 そして、フランの展開した弾幕が川上に殺到した―――





  




   ドゴゴゴゴオォォーーーンッ!!



 「って、何事ですか!?」



 レミリア・スカーレットの私室、そこでレミリアと共にいた十六夜咲夜は突然館を震わせた轟音に声を上げる。



 「んー、これはフランかしら、あの男にじゃれついたのかもね」



 レミリアはそう予測する、明らかにじゃれついたというレベルの音ではなかったが。



 「あの、それでしたら多分彼は死んだのでは?」



 咲夜が至極全うな意見をする。



 「多分生きてるんじゃないかしら、あの子簡単には死ななそうだし」



 何となくだけど、とレミリアは付け加える。



 「それならいいのですが……廊下でミンチになっていたら清掃が大変ですので」


 そう咲夜もピントのずれた事を言う。


 

 「ま、気になるんだったら確認して来てみるといいんじゃないかしら?」



 「……そうですね、一応確認して来ます」



 そう言って咲夜は姿を消した、川上の安否確認に赴いたのだろう。



 「……さて、早速一騒動起こしたようね」



 そうレミリアは満足げに笑っていた――

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