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第三王女ヴァレンティーナ〜異世界人の子孫にして王国最後の聖女  作者: 帰り花
第一章

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第4話 僕の可愛い妹が凄すぎる

第二王子マヌエル視点


「ティナ!遊びに来てやったぞ!」

「たぁ!」


ヴァレンティーナの部屋に入りかけた僕は、足元から声が聞こえて驚き、慌てて立ち止まった。

部屋の中ほどにいるだろうと思っていたヴァレンティーナがすぐ目の前の床に座り、僕を笑顔で見上げている。


扉の前で待っていたのか?

早く僕と遊びたくて待ちかねていたのかな?


「まぬぅ!」


ヴァレンティーナが僕の足につかまって立ち上がり、ぎゅっと抱きついてきた。

そしてニコニコ顔で僕を見上げてくる。


いやもう、めちゃくちゃ可愛いな!


「よーし、ティナ!遊ぶぞ!」

「だあ!」

「っとその前に、ティナにプレゼントだ」

「ばぶ」

「このぬいぐるみはベヒーモスちゃんだぞ。可愛いだろ?」

「あぶ!」


ヴァレンティーナは嬉しそうにぬいぐるみを触っているのに、乳母と侍女たちときたら顔を引き攣らせているな。

女の子用だからピンクのぬいぐるみにしてもらって可愛くなってるのに。

それに背中に乗っても大丈夫な作りになっているんだ。

絶対にヴァレンティーナは気に入るはず。


「ティナ。こっちのぬいぐるみは剣だぞ。かっこいいだろ」

「あっぶぅ」


剣のぬいぐるみってのは変?

でもヴァレンティーナは大喜びで掴んだ。


「あー!」


ヴァレンティーナが剣のぬいぐるみを振り回してる。

うん。

まだ赤ちゃんだからめちゃくちゃな振りだけど、ちゃんとそのつもりでブンブン振ってるってことはわかるよ。

やっぱり可愛いな。


しばらく振り回して満足したのか、ヴァレンティーナが剣のぬいぐるみを床に落とした。

そしてベヒーモスちゃんに近づいてぽんぽん叩き、僕の顔を見る。


「あぶ!」

「ん?どうした?」


ヴァレンティーナはその場でハイハイの体勢になった。

そして何かを促すように僕を見て言う。


「ばぶぅ」

「もしかして、競争か?」

「ばぶ!」


今日はぬいぐるみで魔物討伐ごっこをしようと思ってたけど、ヴァレンティーナがやりたがっているから、まずはベヒーモスちゃんを使ってこの前教えてあげた競争を先にやろうか。


「よーし、ティナ!競争するぞ!」

「あぶ!」

「このベヒーモスちゃんをあっちに投げたら競争開始だ。先にベヒーモスちゃんを捕まえた方が勝ち。いいな?」

「ばぶぅ!」

「じゃ、いくぞ!……それ!」

「きゃう!」


僕がベヒーモスちゃんを部屋の中へ放り投げたら、そいつを目指してヴァレンティーナが高速ハイハイを始めた。


あれ?

この前遊んだ時より速くないか?


慌てて僕もスタート。

僕は床に腹這いになって匍匐前進だ。

腕の力だけでヴァレンティーナと競争するってわけ。

やっぱり妹にはハンディをあげなくちゃね。

と言っても、僕は剣術で鍛えているから楽勝。


「ほうら、僕の勝ちだ」

「ぶぅぶぅ」


ヴァレンティーナが悔しがってるみたいな声を出した。

そしてベヒーモスちゃんの足にしがみついて引っ張る。


僕の手から奪おうとしてる?

むうっとした顔で引っ張ってるヴァレンティーナが可愛い。


「ティナ。ベヒーモスちゃんに乗ってみるか?」

「ぶぅ」

「よし。乗せてあげるよ」


僕はヴァレンティーナを抱っこしてベヒーモスちゃんに乗せてあげた。


「きゃは!」


ヴァレンティーナが楽しそうに笑う。

同時に乳母と侍女たちが大急ぎで僕たちに近づいてきた。


そんな顔しなくても、ヴァレンティーナを落とすわけないのに。

僕はもう八歳だし、剣術で鍛えているんだから。


「おっと」

「あきゃ!」


動いていたヴァレンティーナがバランスを崩してベヒーモスちゃんの背中から落ちそうになったけど、僕は余裕で抱きとめてあげた。

こういう時ヴァレンティーナは怖がったり泣いたりしないんだ。

だから一緒に遊んでいてすごく楽しい。


「だあ!」


ヴァレンティーナが何か言いたいみたいだ。

なんだろう。


「ばぶぅ」


ヴァレンティーナがハイハイの格好になって僕を見上げる。


「あぶ!」


そう言ってヴァレンティーナは高速ハイハイを始めた。

向こうに転がっている剣のぬいぐるみを目指しているみたいだ。

あそこまで競争ってことだな。


「ずるいぞティナ!待てぇ!」

「あきゃきゃ!」


僕も匍匐前進でヴァレンティーナを追いかける。

ヴァレンティーナの動きはなかなか速いけど、僅差で僕が逆転勝利。


「また僕の勝ちー。お前のお兄様は腕が長いんだぞ。羨ましいか?」

「ばっぶう!ぶう!」


ヴァレンティーナが僕の腕をぺちぺち叩いてる。

やっぱり悔しがってるのかな?

負けん気が強いのかもね。

いいことだ。

うん。


ヴァレンティーナはまた反対側に向き直ってハイハイの体勢になった。

まだやる気満々みたいだ。


「よし、ティナ。もう一回やるぞ」

「あぶ!」


それからヴァレンティーナは高速ハイハイ、僕は匍匐前進で二往復。

毎回僕が僅差で勝ち、ヴァレンティーナは悔しがってる。


あきらめて投げ出さないところが凄いな。

こうなったら最後にもう一回やってヴァレンティーナを僅差で勝たせてあげようか。


「ティナ。最後にもう一回だけやるか?」

「あぶ!」

「よーし。それじゃ、あっちのベヒーモスちゃんまで競争だ」

「だあ!」


ヴァレンティーナが猛烈な高速ハイハイを始める。

僕も匍匐前進で続く。

すぐにヴァレンティーナと並んでちらっと顔を見ると、ヴァレンティーナは真っ赤な顔で口元を引き結んだ。


こんな顔のティナも可愛いな。


と思った瞬間。



え?

ティナが消えた?



「きゃう!」


声が聞こえた方に目をやると、ヴァレンティーナがベヒーモスちゃんに抱きついていた。



え?

どゆこと?



ヴァレンティーナは僕を見て笑った。

すごく嬉しそうだ。

どうだ、参ったか、という声が聞こえてきそうなくらい得意気な顔をしている。


「すごいぞ、ティナ。僕の負けだ」

「ばっぶう!」


僕はニコニコ顔のヴァレンティーナに追いついて、頭を撫でてあげた。



いや、それよりも、今の出来事に理解が追いつかない。

何なんだ?今のは。


落ち着け、マヌエル。

冷静に考えてみろ、マヌエル。

今のは何だ?


ヴァレンティーナが瞬間移動したのか?!


身体強化か?

いや、消えた、と思ったから、転移魔法かもしれない。

身体強化して速度を上げたんだったら僕の目で捉えられたはずだ。

ヴァレンティーナはまだ赤ちゃんだもんな。

転移できるとしても、ほんの少しの距離だけだろう。

うん。

たぶん転移魔法だ。

いや凄すぎないか?

僕の自慢の妹は転移魔法まで使えるんだ!

これはすぐにも父上や兄上に報告しなくちゃいけないな。

きっとヴァレンティーナの新しい力の発見を喜んでくださる……はず……。



いや、待て待て。

これは大変なことだぞ。

とんでもない所へ転移してしまったら困るよな?

周りの者を置き去りにしてヴァレンティーナひとりで転移しちゃうってことだよな?

もし危ない所に転移したら?

例えば……剣術の稽古をしているど真ん中に転移しちゃったりしたら?


「うわぁ!それはやばい!」


いきなり僕が大声をあげたからヴァレンティーナがびっくりして僕を見上げた。


「ああ、ごめんよ。ティナ。何でもないんだ」

「ばぶ」


ヴァレンティーナがせがむのでベヒーモスちゃんの背中に乗せてやる。

喜んで動いているヴァレンティーナに注意を払いながら、僕は乳母の顔を見た。


「今の、見たよね?」

「はい。一瞬消えて、そのぬいぐるみの側に突然現れたように見えました」

「やっぱりそうだよね」

「マヌエル殿下はこれがどのような能力かおわかりですか?」

「たぶん転移魔法だ」

「転移……ですか?」

「そう言えばサムエーレは月に一度ティナの様子を見に来るんだよね?」

「はい。次は三日後の予定です」

「じゃ、その時に確かめてもらった方がいいな」

「むにゅ……んままぁ」


ヴァレンティーナが何かをねだった。


「ヴァレンティーナ殿下はお腹が空いたのですね」

「んーま」

「すぐ用意いたします」


侍女が器と匙を乗せたお盆を持ってきた。

ヴァレンティーナは乳母の前に座り込み、口を開ける。

その姿もやっぱり可愛い。


「すぐに陛下と兄上に報告しようと思う」

「コンチェッタ殿下にはわたくしどもからお知らせいたします」

「そうだね。そうしてくれ。これは凄い能力だけど、ティナのことだ。すぐに転移する範囲が広がってしまうと思う。部屋の外へ転移できるようになるのはあっという間のことかもしれない」

「え……?」

「実際に行ったことがある所ならどこでも転移できるんじゃないかな」

「つまり……おひとりで?」

「そういうこと」

「それは……」


乳母は青褪めて絶句した。


とにかくひとりで危ない所に転移しないように対策してあげなくちゃいけない。

まず兄上に報告だ。

今日のこの時間帯なら兄上の仕事の邪魔をすることにはならないはず。


「ティナはまだ後宮から出たことはないよね?」

「はい」

「僕らの部屋に来たことはないけど、場所を知っている可能性は?」

「ございます。後宮内の散歩中に、外出なさるニコレッタ殿下と殿下の部屋の前で鉢合わせしたことがございました。場所と、部屋の扉の装飾を覚えていらっしゃるかもしれません」

「そうか。庭はこの部屋の前庭だけ?」

「はい」

「あとはコンチェッタ殿下の部屋くらいかな?」

「はい。殿下の部屋には何度か入ったことがございます」

「むーにゃ……」


ぱくぱく食べていたヴァレンティーナの顔が眠そうになっている。

半分目を閉じてゆらゆらしては、はっと目を覚まして口をもぐもぐ動かす。

可愛い。


初めて転移魔法を使ったからいつもより魔力を消費したんだろう。

たくさん競争もしたしね。


乳母に口の周りを拭いてもらうと、ヴァレンティーナは僕に抱きついてきた。


「ばぶ……」


まだ遊び足りないんだろうな。

でも眠気には勝てないようだ。


「このまま眠ってしまうかな?」

「そのようですね」

「それなら今日の遊びはここまでにして、僕は王宮に戻って兄上の所へ行こう。先触れを出してもらえる?」

「すぐ手配いたします」


ヴァレンティーナの目が閉じる。


うん。

寝顔もやっぱり可愛い。


寝顔を見つめていると、ヴァレンティーナの目が開いた。

眠そうだけど、僕の顔を見て一所懸命目を開こうとする。


「まにゅ」


そう言うのが精一杯で、ヴァレンティーナはまた目を閉じた。

そして今度こそ眠りに入った。


ヴァレンティーナの転移には驚いたけど、初めて転移魔法を使う瞬間を目撃できたってのは幸運だったな。

きっとヴァレンティーナは他にもいろんな魔法が使えるんだろう。

楽しみでもあり心配でもある。

でもヴァレンティーナのために僕ができることは何でもやってあげよう。



すやすやと眠るヴァレンティーナをしばらく見つめてから、起こさないようにそっと乳母に渡す。

僕はヴァレンティーナに囁いた。


「魔物討伐ごっこは次にしよう。今度はコカトリスちゃんを持ってきてやるからね。楽しみにしておいで。おやすみ、ティナ」


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