第1話 第三王女ヴァレンティーナ誕生
第一王子エドアルド視点
私はフォンタナ王国第一王子エドアルド、十二歳。
弟妹は三人いて、年齢順に第一王女デルフィーナ、第二王子マヌエル、第二王女ニコレッタ。
私たちの父母は国王シルヴァーノと王妃アンナベッラだ。
そして今日、もう一人、妹となる第三王女が生まれた。
名はヴァレンティーナ。
父は国王シルヴァーノ。
母は側妃コンチェッタ。
つまり腹違いの妹だ。
側妃コンチェッタは五、六百年前ならば間違いなく『聖女』と呼ばれていただろう。
治癒魔法、回復魔法に優れ、広範囲に結界を張ることができる。
瘴気の浄化も得意だ。
魔力量は桁外れで魔力の型は全型。
子爵家の令嬢だったが、その圧倒的な能力に加えて類稀なる美貌の持ち主であったため、王家が保護するまで様々な思惑に翻弄され苦労した人だ。
国王シルヴァーノは正妃アンナベッラの強い勧めにより、コンチェッタを側妃として迎えた。
父と母は政略結婚だったが、いつしか相思相愛の仲となり、すでに子は四人もうけていて夫婦仲に何も問題はなかった。
だが、フォンタナ王家には守るべき血筋というものがある。
我が王国があるこの大陸において、六百年ほど前まで神聖国キドエラとベネドリナ王国、ナルサス王国、ラドゲル王国の四カ国が勇者や聖女と呼ばれる人々を異世界から強制召喚していた。
これは異世界の人間を肉体ごとこの世界に問答無用で拉致してくるもので、しかもその人々を奴隷以下の人外扱いして強制的に働かせていたのだ。
なぜそのようなことをしていたのか。
それは異世界から強制召喚された人間の持つ力がこの世界の人間より圧倒的に強く、優れていたからだ。
その力を瘴気の浄化、怪我や様々な病気の治癒、魔物討伐に使うだけでなく、他国を蹂躙することにも使った。
勇者を使い、異民族の王を魔王と偽って討伐させ、あるいは他国同士を裏で煽って争わせ疲弊させ、そこへ聖女を貸し出して恩を売り、マッチポンプによって自分たちだけがより強くより裕福になる。
そういう使い方をしていたのだ。
異世界から強制召喚された人々は、自分の身に何が起きたのかもわからないうちに召喚した側に囲い込まれ、お前は勇者だ、聖女だと勝手に祭り上げられ、生き方を強制されこき使われた挙げ句、力を失ったら遺棄された。
そしてまた強制召喚によって異世界から新たな人々が拉致されてくる。
その繰り返しだった。
だが異世界人たちは次第にこの世界には同じような目に遭った仲間が存在していることに気づき、互いに探し当て、やがて連携していった。
彼らのこの世界に対する怨みは深かった。
そして六百年ほど前、とうとう彼らはこの大陸にあったすべての強制召喚魔法陣を破壊し尽くした。
同時に強制召喚に関わった者らには死をもって償わせた。
強制召喚魔法陣に関する資料なども徹底的に葬り尽くした。
この大事件は現代では『禁忌魔術大暴走』という名で知られているが、元凶である強制召喚魔法陣のことは秘され、それは彼らが秘密裏に研究していた禁忌魔術が原因だった、ということにされて伝えられ続けている。
この大事件で神聖国キドエラは消滅した。
ベネドリナ王国、ナルサス王国、ラドゲル王国では強制召喚魔法陣を秘していた聖堂が魔法陣とともに完膚なきまでに破壊された。
さらに強制召喚に関わった教皇、国王や側近らは死をもって償うこととなり、国は混乱を極めた。
異世界人に対する扱いが大陸中で最も苛烈で卑劣な国であったベネドリナ王国は、破壊と魔力汚染によって王都が壊滅状態となり人が住めなくなった。
最終的に生き残った王族は王弟フォンタナ大公ただ一人。
そのフォンタナ大公だけが異世界人の強制召喚に反対し、忌み嫌っていた。
そして搾取され過ぎてボロボロになり遺棄されかけた強制召喚聖女ミカ様を助け出し、保護した。
このお二人が我がフォンタナ王国の祖にあたる。
そう。
私たちはベネドリナ王家の血と強制召喚された異世界人、両者の血を引いているのだ。
強制召喚した側とされた側の両方の血。
それを思うと複雑な気持ちになる。
たとえ私たちが強制召喚に反対していたフォンタナ大公の子孫であるとしても、だ。
だがフォンタナ王家としては、この血筋を次世代へと繋いでいかなくてはならないことも確かなことだ。
フォンタナ大公から続く我がフォンタナ一族は、聖女ミカ様とは別系統の異世界人の子孫の血筋を折々取り込み、異世界人の血筋を確実に繋いでいく役目を担い続けてきた。
だがフォンタナ大公が生きた時代からおよそ六百年が過ぎ、異世界人の持っていた能力の発現は減り続け、子孫の系図はどんどん失われている。
側妃コンチェッタは先祖返りと言われるほどの強い能力が発現したため、魔力の型が全型であること、強制召喚された異世界人の血を引いていることが判明した。
そこで初めて系図を調査し、これまでフォンタナ一族に取り込まれることがなかった異世界人の血筋であることがわかった。
そしてフォンタナ一族の血に異世界人の新たな血筋が入ると、それが契機となって、先祖返りと言われるような強力な能力あるいは特殊な能力を持つ者が生まれる、という経験則がある。
これがコンチェッタを側妃として迎え、陛下との間に子をもうける理由となった。
こうして生まれたヴァレンティーナは強制召喚された異世界人とその子孫の血筋をもっとも多く受け継いだ王国唯一の存在なのだ。
ヴァレンティーナは生まれてすぐ、魔力の型が全型だと確認された。
人間の魔力の型は四つの型に分類されている。
起源が大陸アヌム由来の人間の魔力は一型、大陸ノヌム由来の人間の魔力は二型に分類され、その混血の三型があり、この三つの型にかつて聖女あるいは勇者と呼ばれた人(強制召喚された異世界人であることは秘されている)の血が入った人々は四型に分類される。
一型と二型の魔力は安定型だが互いに親和性が低く、混血である三型と四型は生まれてくる子の魔力量と強さに大きなブレがある。
そしてこの四つのどの型にも親和性があり、強さで上回るのが全型で、ごく稀にしか生まれない魔力の型だ。
その機序はまだ判明していない貴重な型。
異世界人の血筋を繋いできたフォンタナ一族でもほとんどが四型であり、フォンタナ大公の時代から現フォンタナ王家に至るまで、全型の人間は聖女ミカ様を含めても十人に満たない。
そしてもうひとつ。
魔力の型が全型の人間は、昔で言うところの『聖女』なのだ。
これは男女を問わない。
禁忌魔術大暴走後、聖女や勇者といった呼称は忌避されているため今はそういった呼び方はしないが、聖女の能力を持つ側妃コンチェッタは高位治癒師の称号を与えられている。
その子であるヴァレンティーナも全型。
すなわち『聖女』。
この世界にも昔から治癒魔法や回復魔法、防御魔法を使える者はいた。
ただし治癒や回復は一対一で使うものであり、防御は結界と異なり限定的なものだ。
一方、『聖女』は治癒や回復を一度で範囲内にいる対象者すべてにかけられるし、広範囲に強固な結界を張れる。
圧倒的で桁違いの能力だ。
ヴァレンティーナは生まれる前から、突出した能力を持っているに違いない、と期待されていた。
魔力の型が全型と確認された瞬間から様々な期待と重荷を背負わされた第三王女。
私の腹違いの妹。
ヴァレンティーナは普通の王女のように他国へ嫁がせることも国内の貴族に降嫁させることもないだろう。
その能力を最大限に発揮することで、フォンタナ王国全体の力となることを求められるからだ。
さらにその血筋を確実に後世に繋いでいくことも求められる。
あらかじめ生き方を定められているようなものだ。
王家に生まれた者として当然のことだが。
かくいう私はやがて王太子となり、国王となる定めを背負っている。
立場上、兄として妹を守りたいという気持ちを捨て、公のためにヴァレンティーナを働かせなくてはならない場面に遭遇することもあるだろう。
その時には私心を捨て、決断しなくてはならない。
今日、私は、妹の誕生を喜び祝うと同時に、上に立つ者としての新たな覚悟を持つことにもなった。




