雪封(ゆきじるし)の留守電
冬の札幌。伯父の遺品から古い留守番電話機を持ち帰った大吾の部屋に、知らない男の声で警告めいた留守電が入る──「二分後に鍵が鳴る、開けるな」「鏡の裏に耳を当てろ」「黒い線を二度だけ切れ」。指示どおりに動くほど部屋の“音”は増え、やがて録画も接続もないはずの機械が、大吾の生活の先回りをし始める。伯父の作業日誌に残された「南沢旧隧道」の崩落事故、行方不明者、換気坑の空洞……点が線になった大吾は、禁じられた場所へ足を踏み入れ、そこで“未来の自分の声”に出会う。輪のように繰り返される留守電の助言、「開けるな」「行くな」「帰るな」「おかえり」。逃げ帰った大吾は録音の輪を断ち切ろうと機械を封じるが、声は形を変えて隣室へ、街へと滲み出す。最後に残るのは、雪の下で途切れない“ピピッ”という小さな合図──そして、どこかの玄関で回る鍵の音。
南沢旧隧道の
2025/09/07 09:13