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第5話 戦う準備と覚悟

 狼の撃退に成功した俺とアルマは、焚き火を挟み向かい合うように座り込んだ。夜の森に包まれながら、炎の揺らめきが二人の影を幾重にも重ねる。枝を焼くパチパチという音と、ほのかに漂う焦げた木の匂いが、緊張から解かれた身体に染みわたるようだった。


 ふと気が抜けると、急に疲労が押し寄せる。あれだけ神経を張り詰めていたのだから無理もない。俺は深く息をつき、再び燃え盛る炎を見つめた。


「アルマはどうしてこの森に? 狼もいたり、危ない森だと思うけど……」


 火を挟んで向かい合った彼女に、俺は問いかける。森は昼と夜でまったく違う表情を見せる。今のような深夜帯に、人がうろつくにはあまりにも危険すぎる。


 アルマは火に照らされた顔を少しだけ傾け、小さく肩をすくめた。


「私は普段、山菜や薬草を採る仕事をしているの。普段はこんな時間に森へ入ることなんてないよ? 今日だって、森に入ったときはまだ日が高かったし」


「でも、いくら日が高かったっていっても、丸腰で入るのは……ちょっと不用心なんじゃないか?」


 俺は疑問をぶつける。彼女の服装は動きやすい軽装だったが、明確な武装の気配は見られなかった。


「護身用のマチェットはあったんだけどね。狼に遭遇したて、色々あって落としちゃったの。それで一度は撒いて、しばらく身を潜めてたんだけど……やっぱり見つかっちゃった」


 そう言って、アルマはくすっと笑った。可愛らしいというより、あまりに肝が据わりすぎていて、逆にゾッとする。


「暗くなるし、絶体絶命だったよ。でも逃げてるときに、遠くに明かりが見えてね。紡の焚き火だよ。それを目印に、なんとかここまでたどり着いたってわけ。危険な目にあわせてごめんね、紡」


 彼女はわずかに目を伏せ、申し訳なさそうに微笑んだ。その表情が妙に愛らしくて、胸の奥がくすぐったくなる。


「紡はここで何をしてたの? それに、その服……ちょっと変わってるよね」


 突然の問いに俺は一瞬言葉を詰まらせたが、嘘をついたり誤魔化す理由もなかった。

素直にこの話をしたのは、俺自身不安を誰かと共有したかったのかもしれない。


「んー、変な話かもしれないけど……俺、記憶がないんだ。ここに来る前のことも、自分の名前以外は何も。で、起きたら白い空間にいて、神様を名乗る存在から『お願い事がある』って言われて……」


 焚き火の炎が揺れる中、俺はぽつぽつと語り始めた。世界を支配する二体の「分体」のこと。その討伐が俺の使命であること。そして、それを果たすために与えられた《想創神域》とその能力のことも。


 アルマは、神の話には目を丸くして驚いていたが、「分体」の話をしている間、その表情が強張った。何か知っているような気配も含まれていた。


「……その話、もっと詳しく聞かせてほしいけど……」


 言いかけた彼女は、ふと焚き火の外、暗がりを警戒するように目を向ける。


「さっきの狼、戻ってくるかもしれない。あのリーダー格のやつ、あのまま引き下がるとは思えない。今度はもっと手強くなるよ」


 俺も思わず辺りを見回した。夜の森には、何かが潜むような気配が確かにあった。静かすぎるのが、逆に怖い。


「紡、その能力が本当の話なら、《想創神域》で武器って作れない? できれば、ちゃんとしたやつ。こっちも対策しなきゃ」


できれば俺も戦いたくはない、いま初めて会った相手と命を託し、戦うなど創造もできないのだから。


「逃げるのは……無理そうか?」


「夜の森を移動するのは無謀だよ。今のうちに準備しないと」


 俺は軽くうなずく。今度は俺も戦わなくちゃいけないだろう。正直怖いが腹を決めなくてはいけない。


「形さえ言ってくれれば作れるよ。ただし、今ある素材って言ったら……せいぜい石か木材くらいだけど」


「十分! 強度と切れ味があるなら石でも問題ないよ!」


 アルマが即答した。


 俺は一呼吸し、立ち上がると、集めた石と木に手をかざした。

強度か…… 石を固くするためにはどうすればいいだろう。

密度を上げるとかか?でもそれなら重量も増えるだろうしな……


「……《想創神域》」


 静寂が訪れ、空気がぴたりと張りつめる。周囲の音が一瞬消え、俺の周りを光の輪が囲う、そして意識を集中させる。


 想像しろ――刃は硬く、鋭く、割れにくく。刀身は石で、柄は木製。石の塊を密度を限界まで高めて圧縮し、強度を確保する。

強度を上げるために、使用する石の数を増やした。これで俺の推測が正しければ、刀の強度は上がっているはずだ。


 そうして石の塊が組みあがり、鋼のように輝く刀が姿を現した。


「……すごい、本当に剣ができた」


 アルマが目を輝かせ、慎重に刀を手に取る。そしてすぐさま、そばにあった頭ほどの石を高く掲げ、勢いよく刃に打ちつけた。


 ゴッ――鈍い音が鳴り、打ち付けた刀をアルマは見る。刀身は微動だにしないが俺はいきなりのアルマの行動にすこし驚き苦笑いする。今度は刃に指を滑らせ、うっすらと甘皮を切る。


「硬さも切れ味も問題ない。これなら戦いの中で折れる心配もないと思う。ちょっと重いけど問題ないよ。ちゃんと扱える。振り回すんじゃなくて、一撃に力をこめればいいだけだし」


 素振りをして感触を確かめるアルマ。その太刀筋は素人ではないことが伺える。


「じゃあ、次は紡の武器ね。こんな感じの、できる?」


 アルマがスケッチのように形を指で示す。


「紡の武器は、まず短剣、長剣は重くて振りが遅くなるだろうし、槍は長くて取り回しに不便だからね、それに今回は反撃まで頭に入れる必要はないから。」


俺はそれを参考に、ショートソードとバックラーを創造した。


「基本は私が数を減らす。紡は盾で受けるのに専念して。狙うのはリーダー格、そいつを倒せば、他の狼は逃げるはず。そしたら、今晩は大丈夫」


 アルマは真剣な瞳で俺を見る。


 火の粉が空へ舞い、夜風が髪をなびかせた。背後には漆黒の森。静けさの裏に潜む殺気に、再び戦闘の緊張が戻ってくる。



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