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第2話 能力を紐解く

 サラサラと流れる川の音が聞こえる。

 俺は眼を開け、上体を起こし周りを見渡した。

 どうやら川辺で寝ていたようだ、しかし辺りは一面森でどこからきたのか、どうやってでるのかもわからない。


 先程までの神との会話は覚えている。覚えているが……。


「どうしたもんかなぁ……」


 わかっていることは――3つだけある。

 俺の名前。

 分体ってやつを倒さなきゃいけないってこと。

そして、神様から《想創神域》っていう能力をもらったってことだ。


 俺自身については記憶はおいてきたらしく、悩んだところで思い出せる気もしない。

 分体とやら、についても情報がまったくない。2体いる、ということしかわからず見た目や人間にとってどんな害があるか、俺を敵視するのかもわからない。

 能力《想創神域》、今はこれを試せと言った神の言葉を信じて、いろいろ作ってみるしかないのか…


 しかし、今は突然一方的に使命を告げられ、頭の混乱と気づかれでただ何をするでもなくボーッと木々の間から見える空を眺めていた。


 空を見ていても、何も起きるわけもなく。

 時間を確認しようにも、スマホも時計もない。

 持ってるのは、今着てるパーカーとジーンズ、それにスニーカーくらいだ。

 どうしようもなくなり、また空を眺めボーッとする。


「喉乾いたなぁ……」


 誰に言うでもなく、俺はひとり呟いた。

 川を見る。きれいな川だ。でも川の水は流れのあるきれいなところでも、飲むには結構危ないらしい。

 ここで腹を壊しでもしたら、誰にも見つけてもらえず最悪死ぬ、川の水に手を出すのは避けたい。


 あ、これは能力《想創神域》で飲水を作れというお告げかもしれない。

 俺は早速立ち上がり、尻を払うと、手頃な平たい石の上に手をかざした。


「水よ!来たれ〜っ!」


 水は出ない。


「じゃあ牛乳〜!コップに入った新鮮な牛乳〜っ!!」


 やっぱり出ない、かざした手の指先に力を入れすぎて痛くなってきた。

 俺は立ち上がり一人愚痴る。


「なんだよ、《想創神域》って……」


 その瞬間、俺は周りの音が消えるような感覚になった。川のせせらぎが、すっと遠ざかる。

 風の音も、鳥の声も聞こえない。

 俺の中だけが、異様に静かになった。

 足元から光が輪になって広がる。


「すごい…… これならなんか創れそうな気がする……!!」


 俺は《想創神域》を展開した状態で先程まで手をかざしていた石を拾い、その石をコップに変えるイメージをした。

 すこしばかりの体力を持っていかれる感覚と共に、石は粘土のようにぐにゃぐにゃと形を変え、俺のイメージ通りのコップへと姿を変えた。


「うわぁぁっ!!すっげぇっ!!《想創神域》すっげぇぇ!!」


 俺は興奮し、作った石のコップをいろんな角度から眺める。

 陶芸家の気持ちが少しわかった気がしたが、今俺に必要なのは飲水であって、コップは手段だ。

 俺は作った石のコップに、手で蓋をするように覆う。次のイメージは水、掌から水を出すイメージ。俺の手は蛇口だ。

 しばらく掌に集中し、イメージを続けていると、今度はごそっと体力が抜け落ちる感覚があった。

そのあとに手に水が触れた感触があり、コップを覗くと、中には水が入っているのが見えた。

 中の水を一口で飲み干す。乾いた喉に潤いが戻り、俺は飲み干した勢いで、そのまま大の字で倒れ込んだ。


「しっかし水を作る労力に対してリターンが割に合わねぇ〜、コップを作るときはこんな大変な思いをしなかったんだけどなぁ……」


 空を眺め、しばらく考える。石から作ったコップ、その中に水を創り出した……

 コップは石という素材の形を変えたけど、水はなにかを水に変えたわけじゃない…… 試すのはそこか……?

 俺はガバっと身体を起こすと、手元にある石を掴む。


「《想創神域》」


 音が消え、足元に光の輪が広がった。

俺は手の石を、ナイフに変えるイメージをする。

 石は先程のコップ同様、ぐにゃぐにゃと形を変え、石のナイフへと姿を変えた。

 うん、想定通り。やはり体力的な疲れはほとんどない。素材を使い、別のものを創り出すということに関してはこの能力は燃費がいいみたいだ。


 次は素材を使わず、何かを創り出す。試してみるのは火だ、使い道もあるし、他に検証してみたいこともある。

 俺は《想創神域》の範囲の中にある石を見つめ、石の上に火を創り出すイメージをする。

 あれ…? 体力が削られる感覚がない。石の上では小さな火が現れた。


「あれ?火は体力が減らないのか……? まぁ他にも試すことはある、この火を光の輪の範囲から外してみると……」


 火は光の輪から外れると、次第に小さくなって消えてしまった。俺は手に持った石のナイフを見る。


「素材を使い、形を変えて創り出した物は、《想創神域》を解除しても残る。でも火は消えた、この火は《想創神域》から外れたから消えたのか、燃え続けるための材料がないから消えたのか、どっちなんだ……?何かを作るときの体力の消費の違いもわからないし、一つづつ試すしかないか……」


 枯れ木を集めた俺は再度《想創神域》を発動し、枯れ木の上で火を造りだした。

 しばらく間を置き、枯れ木に火が移ったであろうタイミングで《想創神域》を解除すると……


「おぉっ!!燃え移ってる!能力で創り出した火は燃やすための材料があれば燃え続けるのか!」


 俺はこの結果に歓喜した。火が維持できるということは、石のコップ、火、川の水があるということは水を煮沸できる。飲水を大量に作れるからだ。



 しかし、飲水問題が解決し、歓喜の小躍りをしている俺の腹がグーッと鳴き、今度は食糧問題と対面したのであった。


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