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第6話 共犯関係


 ソウジたちがいる地下拠点から八十キロ近く進んだ先にクシュリアリという都市がある。そこでは多くの人々が暮らしており、クリーチャーに侵入されないように中心部を巨大な壁で囲んであった。その周辺にもおこぼれに与るスラム街ができあがっている。


 都市はクリーチャー対策として二つの対抗手段を有している。まず第一に銃火器による制圧攻撃。弾薬を気にするような戦い方ではなく、圧倒的な物量と高性能な銃火器を利用してクリーチャーを討伐する。


 ただこれでは様々な分野で使用されるクリーチャー由来の素材が手に入らず、また費用的にもよろしくない。そのため都市はクリーチャーを発見すると自分たちは最終防衛ラインをスラム街の真ん中あたりに引いて防衛に専念し、それより先のエリアでの討伐をハンターに依頼することになった。これが第二の手段だ。


 都市から近い最終防衛ラインまでのエリアを都市の所有する防衛隊が、それ以降のエリアをハンターたちが担当している。強いハンターほどクリーチャーが多く出現するエリアを任され、死骸をハンターギルドに売却する機会を得ている。


 ただ、ハンター個人に防衛を任せていると体調などの不特定要素が絡んで都市に危険が迫る可能性が高い。そこで都市はレギオンと呼ばれるハンターたちのチーム単位で担当エリアを分けて対応させることにした。つまりは都市の周辺エリアでのクリーチャーはレギオンが優先権を得ていることになる。


 ところがレギオンに所属せずに個人で活動しているウズメたちは荒野を独自に調査して索敵エリアを形成するつもりだったという。クリーチャーの死骸は資源であり、それを奪おうとすることはレギオンと敵対することを意味している。都市の事情に疎いソウジであってもウズメの告白は驚くべきものだった。


「それってレギオンに喧嘩売ってるだろ。大丈夫なのか?」


「多分、大丈夫……じゃないかも」


 ソウジの地下拠点付近はレギオンが都市から管理を任されたエリアの外側に位置している。よって、現在地付近でクリーチャーの討伐をしてもレギオンと敵対する意思があるとは見なされない。理屈ではそうなっている。だがクリーチャーは大勢の人間が生活する都市に向かう傾向があり、レギオンの管理エリアの外側にいるクリーチャーも潜在的にはレギオンのターゲットだと考えられていた。


 ただし、それを許してはレギオンに所属していないハンターがクリーチャーを倒す機会がなくなってしまう。クリーチャーの独占が進み、レギオンに所属していない有望な新人ハンターの登場を阻むことになる。そのような状況は、強いハンターを求める都市が望む状態ではない、というのは周知の事実だった。


 とはいえ自前の索敵機器を用いたクリーチャーの討伐が明るみになれば明白にレギオンとの敵対行動と見なされるだろう。それはソウジにも理解できることだった。都市の面子を気にしてレギオンが表立ってハンターの活動を制限することはなくても、裏で動くことは十分に考えられた。


(でもちょっと待てよ。組織的にクリーチャーを狩ったら確実に目を付けられるだろうけど、俺みたいに単独だったら倒す数もそこまでじゃないし、レギオンも気にしないんじゃないか。索敵情報があれば活動時間を短くできるし、奇襲を受ける心配がなくなる。結構大きいよな……)


 思考を整理して、ソウジがウズメに問う。


「ちょっと聞きたいんだけど、このことを知ってる奴は他にいるのか?」


「ふ、普通はこんなこと誰にも話さないけど、ゼーブル側の事情までは私には分からない。少なくとも私は誰にも言ってない。作業自体も見られてない。万全とは断言できないけど、部品の購入も色々と迂回したから大丈夫……だと思う」


 ソウジがウズメをじっと見つめている。ウズメにもソウジの言いたいことは伝わっている。ゼーブルがいるはずだったポジションに自分をいれろと要求しているのだ。これから作る予定だった索敵エリアを自分に使わせろと言っているのだ。


(レギオンに敵視される可能性はゼーブルと組んでもソウジと組んでもそんなに変わるわけじゃない。それにまだソウジに殺される可能性だってあるんだし……)


 ウズメが意志を固め、大きく息を吐いた。


「ソウジは私の索敵機器を使いたい、ってことだよね?」


 ソウジが頷いて補足する。


「そうなれば俺たちは同じ秘密を共有することになる。俺とウズメは共犯関係になるな。俺にとってはウズメを殺すより都合がいいし、ウズメにとっても……いや、殺されないってだけじゃ条件としてはちょっと弱いか。それならクリーチャーを換金した一部をウズメに渡すってのでどうだ?」


 殺されないだけでも御の字だったのが仕事の話にすり替わっている。ウズメにとっては、まさかの好条件だった。


「一緒にクリーチャーを倒すなら頭割りでもいい。どうだ? 悪くない条件だと思うが」


「……そうだね。十分納得できるもの、かな。合意したってことでいいんだよね?」


 ウズメは恐る恐るソウジに手を差し出した。ソウジがそれに応える。


「そ、それじゃあ索敵機器の管理は私に任せてね。自作のだから普通とは違う調整でやってるし、他の人が使ったら壊れちゃうかもしれないから」


「そこらへんは任せる」


 ソウジが何気なしに了承すると、ウズメはようやく一息つくことができた。索敵機器を設置したら用済み、というのがウズメが考えた最悪のシナリオだった。利用されたあげくに殺されるのは絶対阻止しなければならないことだった。


「それならさっそくだけど、これから索敵機器の設置しに行かない? 近くに索敵機器を載せた車を隠してあるの」


 鉄は熱いうちに打たねばならない。索敵機器を地中に設置したという事実をもって共犯関係を確実にしようとウズメは提案する。


「それは明日でいいんじゃないか? 天気が怪しいし」


「そ、そうだね。もう暗くなってきてるから危ないよね。で、でも一応この建物の周りだけでも設置しておかない?」


 ウズメの車には索敵エリア構築には関係のない単体で起動する索敵機器が内臓されている。それを使えば周辺の警戒くらいはできるのだが、それを伝えずにウズメが索敵機器を設置しようと引き下がる。


「悪いけど明日にしてくれ。俺は夜間の戦闘なんてしたことないから、そういうリスクは負いたくない。それに体を再生すると腹が減るし、今さっきの戦闘で色々疲れてる。だからさっさと飯食って寝る。ウズメはあっちの部屋を使ってくれ」


 ソウジが奥の部屋を指さした。ウズメはソウジの発言に何か引っかかっていた。人を殺したばかりで普通に食事をするのもそうだが、より気になることがあった。


「……ちょっと聞きたいんだけど、ひょっとしてソウジってハンターの登録とかってしてないの?」


「してない。するつもりはあるけど、今までは年齢制限に引っ掛かってたからな」


 思いもよらない解答にウズメは目を丸くする。


「えっ? じゃあソウジってまだ十六歳じゃないんだ……」


「いや、最近なった。クシュリアリに行く途中で色々あってここにいるだけだ」


「へぇ、そうだったんだ……」


 ウズメは頷きながら思案していた。


(ってことは、ソウジは武器を持ってないってことだよね。それでも私より強そうなんだけど……まあ、それは置いといて。だったら私のを渡して信頼を得る方が良いかも)


 ウズメは自分の武器をソウジに差し出した。


「武器、ないんでしょ? これは知ってる?」


 ソウジは100cmほどの剣を受け取って答える。


{ACソードだろ」


「そう。ソウジは正式なハンターじゃないから持ってないと思うけど、さっきの動きは間違いなくハンターのものだった。それも結構才能が有りそうな感じの」


 ウズメはソウジの表情を窺いながら話を続ける。


「明日索敵機器を地中に埋めるときに戦闘になるかもでしょ。だからこのACソードはソウジが持ってて。切断時にAC細胞を活性化させれば、それが伝わってクリーチャーに対して大ダメージを与えられるようになる、らしいよ。私のメイン武器は車に積んであるし、そもそも接近戦に向いてないからそれはソウジが使って」


「それじゃあ遠慮なく」


 ソウジはウズメががっかりするほどあっさりとACソードを受け取った。ソウジはお返しとばかりに、荒野で拾った古いスティック型の携帯食料を取り出してウズメに差し出した。ウズメは空腹など微塵も感じていなかったが、それを受け取った。


 ソウジはあっという間に食べ終わって睡眠に向かう。ウズメがそれに待ったをかけた。


「私が言うのもなんだけど、私のことを放って寝るつもりなの? 寝込みを襲われるとか考えてないの?」


「考えてないわけじゃないけど……なんていうかさ、俺にはウズメを殺さない方がいい理由ができたし、ウズメにだって金は必要なんだろ? だったら俺を殺さない方がいいのかなって。まあ、全部演技だとしたらどうにもならないけどな」


 口ではそう言っているが本心ではなさそうだ。ウズメは引きつった表情を隠してソウジを見送った。

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