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第3話 嘗ての名残

 

 ソウジは一人、荒野を歩いていた。


 目的地はクシュリアリという都市で、ソウジを含めたハンター候補たちが元々向かっていた場所だ。そこでハンターとして認められてACソードを受け取ることが目的だが、とはいえ、そこはあくまで最終的な目的地。現在地から考えれば距離があり過ぎるし距離もはっきりとは分からない。そこでソウジは一旦別の場所に向かうことにした。


 荒野にはクリーチャーが跋扈ばっこする以前に建てられた建物が現在も形を変えて残されている。地上部分は破壊され風化して瓦礫となっているが、地下施設は二百年近く経過した現在でも活きたままのこともある。


 そういった建物は建物内だけで自給自足を完結させるアーコロジーを目指して作られた名残で、水の循環装置や食料精製装置、発電設備など様々な設備を未だに有していることがある。荒野で活動しているハンターたちにとっては非常に都合の良い施設で定期的にメンテナンスをしていれば十分に使える施設だ。


 ソウジが向かっているのはそういった昔の地下施設らしき場所だった。クリーチャーに強襲された現場には怪鳥に飲み込まれてしまった教官が落とした携帯通信端末が残されており、端末のデータに地下施設の位置情報が記録されていたのだ。


(たぶん、教官がハンターとして活動してた時に使ってた施設なんだろうな)


 現在は通信できないエリアにいるため正確な位置はつかめていないが、地図自体はオフラインで表示されていて、ソウジは周りの景色を参考に瓦礫だらけのエリアをうろついていた。


 自分の直感を信じて怪しいポイントを重点的に調べていく。クリーチャーに襲われた現場から水や食料、予備の弾倉はそれなりに回収できたが、補給できない現状では戦闘はできるだけ避けるべきだ。クリーチャーに対しては最大限警戒しながら調査を進めていった。


(……ここか?)


 ソウジが大きめの瓦礫をずらすと暗い地下へと続く階段を見つけた。周囲を見渡してクリーチャーもハンターもいないこと確認した後、端末で照らして中に入って内側から瓦礫を元に戻した。中にクリーチャーがいれば逃げ出せなくリスクはあるが、それでも後ろから襲われるよりはマシだろうと判断する。


(奥の方からちょっとだけど振動を感じるな。これ、いきなり当たりを引いたんじゃないか……)


 少しづつ内部へと侵入する。何かが潜んでいる可能性を考慮して慎重に調査を進めていく。すべての荷物を階段の踊り場に置き、身軽になったソウジは警戒を強めてさらに下へと降りていった。


 片手で壁に触れながらゆっくりと進んでいくと、正面にエレベーターのドアらしきものが見えてきた。拠点として使えるかどうか確認するために操作盤でエレベーターを呼び出すと、少しの間をおいて建物全体から起動音が聞こえてきた。同時に薄っすらと天井が輝きだす。


(やっぱり建物が生きていた!?)


 喜びも束の間、上がってきたエレベーターの扉が開いてソウジの表情が一変した。中に蜘蛛のようなクリーチャーの姿を確認したのだ。ソウジは思わず短機関銃を構えた。ここでソウジは自身の勘違いに気づく。


「死んで……たのか。けど、なんだよ今のは。クリーチャーは動いてないってのに。ったく、緊張しすぎだぞ。こんな狭い場所で撃ったら跳弾でとんでもないことになってたな……」


 ソウジは自分の胸に手を当てて、想像以上に心拍数が上昇しているのを確認した。深呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻そうとする。


 腐敗臭のするクリーチャーの元を離れて奥へと進む。今は余計なことを考えずに安全の確保に努めるべきだ。自分の余裕のなさを自覚し、やるべきことに意識を集中させていく。


 別のクリーチャーが残っている可能性に気づいてエレベーターの使用は止めた。音を立てないように階段を降り、静かに扉を開けて部屋にクリーチャーがいないことを確認する。扉を開けるたびに心臓が跳ねあがりそうなほどの、寿命が縮んでいるのではないかと思うほどの緊張に襲われる。ソウジはそのたびに小さく深呼吸を繰り返した。


 極度の緊張で疲労が加速度的に溜まっていく。クリーチャーを見逃してしまえば知らぬ間に背後をとられて殺されてしまうかもしれない。その恐怖から逃れるために体を酷使し続け、一時間ほど経過してようやくソウジは安全を確信することができた。


「大当たりを引いちゃったよ。嬉しいけど、見つかったら争奪戦になりそうだな……」


 ソウジが探索を終えた拠点は生活に必要な設備が生きていた。水や電力の心配がなく使える部屋も複数ある。食料精製装置は作動していないが、食料の調達さえできれば普通に生活できそうなほど充実している。メンテナンス知識のない子供でも暮らせるのが想像できた。


「とりあえず、置いてきた荷物をこっちに持ってくるか」


 一旦踊り場に引き返して荷物を回収し、再び戻ってくると、埃だらけのソファに深く座って天井を見上げた。


「だいぶ前に思えるけど生活感みたいなのがあった。ってことは都市からそうそう離れてないはずだよな。暗くなるにはまだ時間があるし、都市までは無理でもこの先のエリアをちょっと確認にいくか」


 地下拠点を確保したことで気を良くしたソウジは周辺の探索を進めることにした。拠点の入り口を瓦礫で隠し、歩いてきた方向とは逆に荒野を進んでいく。もちろん索敵は怠らない。


 荒野は風が吹き荒れている。砂埃が舞い、嘗ては多くの人々で賑わっていたであろう建物にぶつかっていく。そんなエリアを抜けていくと今度は渇いた大地以外は何も見えないエリアにたどり着いた。


 そろそろ拠点に戻ろうか。ソウジはそう考えて時間を確認しようと端末を取り出して嬉しい事実に気が付いた。


「電波が届いてる! ってことは都市が管理するエリアってことだ」


 嬉々として端末を操作し、情報を確認していく。


「クリーチャーの索敵情報を取得中……さっきの地下施設のあたりの索敵情報はないけど、間違いない!」


 都市の周辺エリアには都市が設置した索敵機器によるクリーチャーの情報がリアルタイムで送られてくる。ハンターたちはこの情報を元にクリーチャーの元へ向かうことになる。


「都市までの距離は……だいたい80kmか。今から向かっても着く頃にはだいぶ暗くなってる。ちょっときついな」


 都市は周囲を高い壁で囲んでおり、その周辺に都市のおこぼれに与ろうとスラム街ができている。ハンターが生活するのはそのスラム街で、当然のことながらスラム街では治安に期待できない。それならば荒野の地下拠点で一晩過ごして朝を待ち、それから都市に向かった方が良い。ソウジはそう判断して発見したばかりの地下拠点に引き返していった。

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