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008

「あぶなっ!」


オレは咄嗟に手を伸ばした。

抱えていた枝が地面に散らばる。

しかし、ここから届くわけはない。


オレの想定では、森はあと2日の距離。

その後は、10日もの間、平原が続く。

食材も手に入れなければならないが、薪も手に入れたい。

グズグズしてはいられないのだが、

薪は森にいる間でなければ手に入れづらい。


馬を休憩させている間、

馬車が見える範囲でわずかに枝を拾ってきた時だ。

御者台に手を掛けたレナに、

馬車に立てかけてあった槍が倒れようとした。

しかも、鉄の部分が頭に当たりそうな位置で。


「当たるな、止まれ―――!!」


必死に叫んだ。

槍は傾いた状態で静止した。


(ん―――!?)


急いで駆け寄る。

レナはびっくりして、槍を見上げたまま、固まっている。

オレもびっくりしている。

槍は止まったままだ。

腕を伸ばしてつかんでみるが、びくともしない。


「あ、あれ?」


両手で引っ張ってみるが、止まった位置から動かない。

腕を組んで考えてみる。

もしかして、さっきの「止まれ」で、

槍の穂先、金属部分が止まったのか。


「止まってる。」


後ろに下がりながら、レナがボソッとつぶやいた。


カラーン


槍が倒れた。

さっきまでびくともしなかったのが嘘のように、

あっさり地面に倒れた。


(あれ???)


オレが止まれって言ったから、止まったんだよな。

しかし、倒れた。

スキルじゃないのか。いや、そんなわけはない。

あんな状態で自然に止まるわけがない。

スキルで止めたのは間違いない。

でも、動いた。

この場合、近寄ったから射程じゃない。効果時間か。


「その場で止まれ。」


もう一度、槍を同じように止めてみる。


・・・

・・・・

・・・・・


さっきより長い時間を止めていると思うけど、

槍は少し傾いたまま、倒れることなく静止している。


「うん。わかんね。」


そういや、盗賊が振り下ろした剣も不自然に止まった。

オレが剣に止まれと命令したからだったのか。

しかし、あれも、一瞬、止まったように見えたけど、

結局、動いた。

何かあるのか。

う~~~ん。何だろう。

何かの条件か?

やっぱり、効果時間か?

いや、槍はまだ空中で止まったままだ。

スキルの熟練度も関係なさそうだ。


「止まった。

 オレが触っても動かなかった。

 オレは動けとは言ってないし、思ってもいない・・・」


オレは腕を組んだ。

レナがオレのマネをしている。


(何か見落としているはずだ。

 止まったことは間違いない。

 そして、動いた。

 何か、きっかけがあるはずだ。)


もう一度、思い出してみる。


(オレのスキルなんだから、オレがきっかけのはず。

 でも、あの時、「止まれ」と言った以外には・・・

 なら、止まれか。言い方?発音?

 どう言ったっけ。

 いや、ちょっと待てよ。もしかして・・・

 その前に「当たるな」と言った。そうだ。そう言った。)


そういうことか。

当たるな、止まれは、当たるな+止まれ、

つまり、当たらないように止まれということだ。

逆に言えば、

当たらなければ止まらなくていいということになる。

レナが動いて、当たることがなくなったから、倒れた。

盗賊の剣も、オレが避けて、当たらなくなったから動いた。

ということは、止まれという動作に条件を付けたってことだ。

言うなれば、属性付与ならぬ、条件付与。


(これ、すごいんじゃ・・・)


今までも、鉄を剣に変えることができた。

剣の形にという条件に変化するという動作を命令している。

さらに、炎をまとわせると、炎の剣になる。

一度には無理だが、2オペでイケた。

完全に属性付与の上位版じゃないか。

それに、それに、

鉄に音速で飛んでいけって命令すれば、

それって、弾丸なんじゃないの!?

オレのは条件なので、初速と終速の差なんてない。

しかも、ずっと飛び続けるんじゃないのか?

それはそれで危ないが。


(とんでもなくチートだな。)


試しに、1cm角の鉄を飛ばしてみた。

まさに弾丸そのもの。

目には見えないが、飛んでいくのが感覚で分かる。

ずっと糸が伸びていくような感覚だ。

しかし、ずっと飛び続けることはなかった。

一瞬のことだったが、

およそ20mを超えると、その糸がかなり細くなり、

ついには切れてしまうのが分かった。

50m先の狙った岩の手前で地面に土煙が立った。

今のオレの射程距離は20~25mというところだろう。

そこから先は、自由落下のようになる。

あの岩に当てるには、水平にではなく、

少し高めを狙わないといけないようだ。


馬車を動かしながら、鉄のかけらを浮かす。

失敗したらいけないので、レナには見えない大きさだ。

何ができるのか、実験しなければならない。

鉄は「オレの頭の上に浮け」という命令の通り、

馬車が動き出しても、オレがどういう姿勢を取っても、

オレの頭の上20cmの場所に、

ピッタリ、マークするように浮かんでいる。


(これ、使えるじゃないか。)


にやつきを誤魔化すために、大きな声を出しそうになって、

慌てて腕の中をのぞき込んだ。

レナの目が覚めるようなことはなかった。

御者台のオレの隣でお昼寝中だ。

やはり、子供だ。

昼間の何時間かはお昼寝タイムがある。


レナはオレから離れたがらない。

槍が倒れた時も、

レナには「危ないから馬車から出るな」と言っていた。

「何かあったら、馬を走らせて逃げろ」とも言っていた。

それなのに、馬車から降りていた。

多分、オレを探していたんだろう。

レナが心配なのと、レナが不安なので、

お互いの理由で、馬車から余り離れられない。

薪を拾おうにも、獲物を狩ろうにも、

レナが泣いていないか、すぐに気になってしまう。

森が続いている間に何とかしないと、

このままじゃあ、食べるものもなくなってしまう。


しっかりとオレの服を握っている手を見た。

村にいる時はもっと活発そうな子供に見えたが、

命の危険を感じて心細い上に、親からも離れたこともあって、

少しオドオドするような素振りを見せる。

昨日の晩も、オレにぴったりとくっついて眠る。

オレの服を握り込んでいるので、寝返りもできない。

寝顔を見ながら、安心して暮らせるようにしてやりたいと

思わずにはいられない。


(行け!)


音速で。

オレの頭上、20cmのところに浮かせていた鉄は、

念じた速度で飛んでいく。

馬の頭近くを飛んだせいか、馬が耳を動かした。


(戻れ!)


戻ってこなかった。

音速ということは、時速1,200km。

1,200km÷60分=1分間に20km。

20,000m÷60秒=1秒間に333m。

あっという間に、射程距離を超えていく。

飛べと念じてから、0.06秒で次の命令をするのは、

流れ星に願いを言うより難しい。

それに、どうも複数の条件は設定できないようだ。

スキルの習熟度が上がればいけるんだろうか。

いろいろと試行錯誤が必要だ。


しかし、スキルは、さっそく真価を発揮した。

銀貨だ。

馬車にあった203枚の銀貨。

金貨は21枚。

つまり、商人は2,303万円を持って

旅をしていたことになる。

そりゃ、襲われるよ。

銀行振込がないから仕方ないけど、

オレだったら、そんな大金を持ちたくないな。

レナがいるから持ってるけど、

オレ一人なら危ない金は速攻で捨ててるし、

金が掛かるようなところにそもそも行かないようにする。

オレの全財産、銀貨18枚は、もう、かすんでしまった。

コヴィーさんが渡そうとしたお金を、

「余り持ってると危険だから」と断ったんだけどな。


(おっと、脱線した。)


銀貨を銀の粒に変化させ、

600個の粒を馬車の周囲に固定した。

もちろん、全体はカバーできないので、

馬車の荷台を10cm間隔で幌に沿って覆い、

残りで馬の前後左右をカバーした。


「レナ、この棒で叩いてみて。」


レナに穂先を除けた槍を渡し、思い切り叩かせてみる。

銀の粒は微動だにしない。

レナが驚いた顔をする。


「この中にいれば、大丈夫。魔物も入ってこれないよ。」


「うん。」


レナが笑顔になる。

うん。自分で試すのが一番だ。

これで森に行ける。


「魔物が来ても、じっとしてれば大丈夫だからね。

 ここから手を出しちゃ、ダメだよ。」


荷台の上で、コクコクと、レナがうなづく。

今回は、外側に向けて、銀の粒を針のように尖らせている。

レナは柄だけの槍を両手でしっかりと握っている。

手ぶらより、攻撃手段を持っている方が安心するだろう。

オレは水と食料、それに薪を調達に森に入る。

スキルで大丈夫と思っていても、

いざとなると、かなり後ろ髪を引かれる思いだ。

いや、集中。集中。

オレに何かあれば、レナが取り残される。

オレは上を見上げた。

オレの頭上にライフル弾が浮いている。

そのものズバリ、バレットと名付けたが、

飛び道具があれば、狩りが楽だ。


(いた。)


スキルだと、反動もなければ、照準が狂うこともない。

ヘッドライトみたいに、見るだけで狙える。すごい。

遠くだと放物線を計算に入れなければならないが、

この距離で、この鹿ほど的が大きければ問題ない。

あっという間に鹿を仕留めたオレは、


「あれ?そういや、血の赤色って鉄分じゃなかったっけ?」


血抜きでもスキルを使う。

あっという間に血が抜けた。

抜けたというより、押し出した感じだったが。

前世の理科の授業が役に立った。

もしかして、血行や血圧がコントロールできるなら、

治癒とか、回復に効果があるんじゃないだろうか。

長寿だって可能かも。


いざという時に、初めて人は真価を発揮するのかもしれない。

予想以上のスキルの覚醒に、オレはにやつきが止まらない。

いけない。

レナの前ではカッコいいお兄ちゃんでいなければ。

キリッ。

さも当然と、澄ました顔で馬車に近づく。

鹿を運んでいるオレを、目を丸くしたかと思ったら、

次には満面の笑みで、槍を構えたレナが出迎えてくれた。

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