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005

「おい。起きろ。」


「もう、食えねぇ・・・」


男はイライラする。


「さっさと起きないか!」


「は、あ、な、なんだ!?」


寝ぼけた様子で、盗賊たちが起き上がった。


「昼間っから、何してやがる!」


昔の言葉遣いが出てしまい、咳を一つする。


「おお、あんたか。

 いや、商人が野宿していたんで、

 こりゃ、いいカモが舞い込んだって、

 夜の間に襲ったのよ。」


「盗賊は辞めろと言っておいたはずだが?」


「だがよ。あれっぽっちじゃ、酒盛りもできねえ。

 生きていくためには、いろいろと要るんだよ。

 あんたも分かるだろ?」


一瞬、男の目が鋭くなったが、盗賊は気づかなかった。


「まあ、いい。

 それで、その商人とやらは、どこにいるんだ?」


「ん、あぁ。あー、子供だけだ。

 大人は暴れると面倒だし、何かと抵抗するからな。

 ぶち殺して、子供だけさらって来たんだ。

 子供は身代金が取れるからよ。」


盗賊の言葉に、男は顔をしかめた。


「親を殺して、誰から身代金を取ろうってんだ?」


「じゃあ、奴隷だな。

 どっかに売り飛ばせば、それなりの金になるさ。」


「その子供はどこだ?」


「馬車から降ろす時に逃げたんでな。

 今、ジノとゲッタが追っかけてる。」


男は額を押さえた。


「2人に追うのを任せて、酒盛りをしていたのか?」


「商人の馬車に酒があったんでな。

 子供を追うのなんて、2人も行きゃ、十分だろう。

 待ってるのも何だし、先に始めてたってわけさ。」


男はこめかみを揉んだ。

雇う人間を間違えたと思い始めている。


「盗賊が見張りもつけずにか。

 それで、追った2人はどこまで行ったんだ?

 酒盛りの後に寝たんなら、それなりに経っている。

 戻って来ていてもいいんじゃないのか?

 まさか、子供1人も捕まえれないんじゃないだろうな?」


「そんなことはねぇよ。

 どれ。よっこいしょ。おっと、あぶねぇ。」


盗賊はかなり怪しげな足で立ち上がると、

入口の方にふらふらと歩いていく。

他の盗賊も後に続いた。

男はため息をついた。

男も後に続く。


「おいおい!こりゃあ、どういうこった!

 馬がいなくなってるじゃねぇか!」


先に出た盗賊は大きな声を上げた。

後から出た盗賊が口を開く。


「頭、あれじゃねえか?

 ゲッタが『馬に血がついた』とか言ってたから、

 ガキに洗わせるとかで、川に行ったんじゃねぇか?」


盗賊の頭は、発言した盗賊の方を振り返り、

満面の笑みを浮かべた。


「おお、おまえ、頭がいいな。

 川に行っているに違いない。」


盗賊たちが川に向かおうとした。


「ちょっと待て。」


「何だ?」


また、男は大きなため息をついた。


「だから、なぜ、ここに見張りを立てないんだ。」


「ああ? こんなところに誰も来やしねえよ。

 こんな森の中に、それも盗賊のアジトに来るわけねぇ。

 商人の死体も切り刻んで晒してるからな。」


「何だと!わざわざ、見えるように残したのか!」


「そうだぜ。俺たちは盗賊だ。舐められちゃ終わりだからな。

 ここらが俺らの縄張りだってことを知らしめないとな。」


こめかみを押さえ続けたままだ。


(教団以外に使える駒が欲しかったが、ここまでとはな。

 早めに切り捨てるべきだな。)


思案が済んで、顔を上げたが、表情には出さない。


「それでも、見張りは置いとけ。」


「じゃあ、キッザ、見張っててくれ。」


「わかった。」


「じゃあ、行こうぜ。ドーレンさん。」


頭目は、1人を見張りに残すと、残りの1人と歩き出した。

ドーレンと呼ばれた男は、頭を振って、

頭目に続いて歩き出した。

しばらく、草をかき分けて行くと、川に着いた。


「やや、何だってんだ、こりゃあ!」


川にやってきた頭目の目に映ったのは、

シルバーウルフの群れだった。


「1、2、3・・・、てっ、13頭もいるじゃねえか。」


「静かにしろ。刺激しないように、ゆっくり下がるんだ。」


シルバーウルフたちは、顔を上げて、

こちらを警戒する様子を見せたが、

近づいて来ないと分かると、

また、川辺で何かを食べ始めた。


「頭っ、あ、あれ、ジノじゃねぇのか?

 あれ、あの袖、あの模様、擦り切れ方は間違いねぇ。」


盗賊の一人が小声で話す。


「そうだ。その通りだ。頭。

 もう一人はよく分からねえが、多分、違う。

 ゲッタはあんな剣を持っちゃいなかった。」


「あ、服が違うが、ガキっぽい死体もあるぜ。

 よく分かんねぇが、

 みんな、あいつらにやられたんだろうな。」


「そんなことぐらい、

 おめぇらに言われなくともわかってらぁ。」


(もしかしたらとは思うが、ここからでは確認できんな。

13頭か。酔ったやつらと追い払うのは無理だな。)


ドーレスは頭目に言う。


「オレは村に戻る。

 あの魔物が去った後、死体を回収しておけ。

 オレが探しているやつらかもしれん。」


「じゃあ、死んじまっているんだから、

 もういいじゃねえか。」


「回収しろと言っている。」


「分かった。分かったよ。」


凄まれて、渋々、頭目はうなづく。


「せっかくの酔いが。」


つぶやく頭目を尻目に、ドーレスは歩き出した。

村に戻ると、入口にいた村長が近寄ってくる。


「娘はどうした?」


「探させています。」


「早う、捕まえろ!」


「分かっています。」


配下に南側から西側にかけて探させている。

帝国領に逃げるのが順当と思われるからだ。

だが、一つの疑念を覚えて、

念のため、自分は北に向かってみた。

それで、あの出来事にたどり着いたというわけだ。


(あの子供の死体がどうであれ、

 あれを代わりにすればいいだけだが、

 村長にはどう言うかな。)


村長は自分の娘に順番が回ってくることを恐れるあまり、

一にも二にもなく、提案に乗ってくるだろう。

村長の権威を守ることにもつながるからだ。

しかし、言葉を間違えると、村人の心がさらに離れる。

自分は村長の配下ではなく、協力者の立場だ。

命令の全てを聞く必要はない。

難しくなれば、村から出ていけば良いだけだ。

だが、利用できるうちは利用するのが一番だ。

もっともらしい理由を用意してやれば恩も売れる。


村に回収した遺体を運んだのは翌朝だった。

小さな棺に目をやった。

シルバーウルフのせいで遺体の損傷は激しかった。

持ち帰った子供の遺体は、

頭部がなく、腹部を大きくかじり取られている。

この村の子供と同じような服を来ていて、

遺体のそばに長い髪も落ちていたという状況から、

逃げた娘と思われるが、

なら、商人の子供はどこに行ったのか。

裏付けを取りたいが、アードと思われる方は、

さらに見分けがつくような状態ではなかった。


「娘に、娘に会わせてください!」


「ならん!神に捧げるのじゃ!

 汚らわしい手で触れるでない!」


「まあまあ、村長。少しならいいじゃないですか。」


ドーレスはふたをズラした。

頭部がなく、服で両足が揃っているように見えるが、

右足が皮一枚でつながっている状態の子供が横たわっていた。


「おお、おお、神様・・・」


母親はそう言うと、気を失い、崩れ落ちる。

地面に倒れそうになるところを、父親が受け止めた。

母親の体を抱きながら、棺桶の中から目を離さない。


「もう良かろう。」


村長が棺桶を閉め、二人を部屋から追い出した。

村長にしてみれば、なんだかんだと理由をつけて、

二人に死体を取り返されるのが怖い。

ドーレスはその様子を観察していた。


「おい、おい、大丈夫か?」


「あ、あなた、わたし・・・」


「気を失ったんだ。」


「あ、ああ、サラ!サラ!」


父親は家に戻って、母親を揺さぶった。

意識を取り戻した母親の目から大粒の涙が溢れ出す。

父親は母親を抱きしめた。


「驚かずに聞いてくれ。大きな声を出さないように。」


父親は母親にだけ聞こえる小声で話す。


「服はあの子の服だが、

 いつも身に着けていた首飾りをしていないし、

 それに、手の甲に、あの、模様のようなあざがなかった。

 おそらく、違う子に服を着せたんじゃないだろうか。」


「本当に?」


「ああ、間違いない。」


「おお、神様。」


二人はお互いを強く抱きしめた。

二人の頬を温かい涙が流れている。

その事実は、逃げた二人が無事だということを意味している。


「気のせいか。」


ドーレスは家の中に聞き耳を立てていたが、

その場を後にした。

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