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014

村にやってきた。

アンブローナに近いせいか、そこそこに大きな村だ。

コルトンさんたちはいないようだ。

まあ、会わないように、ゆっくり来たんだけどね。


村とはいえ、宿屋もあるし、小さな市場もある。

覗いてみようかという気も起きるけど、

もう、休憩の必要もないし、物資も必要ない。

レナは物珍しそうに左右をキョロキョロしている。

村から外に出ることがなかったから、

祭りのような、にぎやかさがあるんだろう。

オレは王都を知っているけど、

レナにはアンブローナの予行演習になったかな。


「アンブローナまで、どれぐらいですか?」


通りがかった人に聞いてみた。


「アンブローナかい?

 アンブローナなら歩いて半日というところだよ。」


「ありがとう。」


アンブローナまで徒歩で半日の距離か。

なら、やっぱり、アンブローナに行っちゃおう。

ただし、この世界の半日を甘く見てはいけない。

明るくなってから暗くなるまで、

簡単にご飯を基準にすると、

朝6時の朝食後から、晩6時の夕食前までが一日だ。

活動時間ともいう。

つまり、半日は感覚的に6時間。

(時計がなくて、日時計なので。)

しかも、休憩を入れずに計算しているので、

1日歩くと考えた方がいい。

朝食後に動き出したけれど、

移動は馬車だし、このペースなら、

ゆっくりでも、夕方前にアンブローナに着くだろう。


(馬車を捨てよう。)


村を出て、少し進んだところで、そう考えた。

町ではきっと馬車を持て余す。

それに、ここまでの間にも、

この馬車を知っている人とかなり遭遇した。

そういや、ミルトンさんに訪ねるように言われてたんだった。

でも、本当に行くと迷惑かもしれない。

「ああ、本当に来たんだ」と言われると、痛すぎる。

「誰だっけ」なんて、外に出れないくらい胸をエグってくる。

お愛想を言うような人ではなかった気がするけど、

会わなければいけない理由もない。


これ以上、目立つのは避けるべきだと判断した。

アンブローナの住人であるミルトンさんが、

この馬車を知っているのであれば、

他にも知っている人が大勢いるかもしれない。

アンブローナは大きな町だ。

揉め事の数もとんでもないほど多いだろう。


(決めた。)


町が近づいてくると、行き交う人や馬車が多い。

ギリまで進んで、馬を1頭残し、馬車を捨てる。

穴だらけの馬車をしげしげと振り返ってみたが、

この状態じゃ、馬車が売れるとは思えないし、

買い叩かれるのがオチだ。


(そうだ。そうしよう。)


その日はゆっくり進み、夕方になったので、

道から外れて、地面の裂け目のようなところに入る。

空気がひんやりしているので、元は水飲み場だったのかも。

道から火が見えないことを確認して、

レナに説明して、馬車を燃やす。

一気にやると、もくもくと上がる煙が発見されそうなので、

鉄でバールを作り、少しずつ破壊しながら、

夜の間のたき火にしよう。


轡も取ってやって、馬を放してやる。

少し離れたところで草を食み出した。

1頭は寝転がって、背中を擦りつけている。


たき火を囲みながら、レナの質問が止まらない。

新しい町への不安より、好奇心が勝ったのだろう。

その晩は、レナが聞いてくる全てに答えた。

もちろん、オレが答えられる範囲で。


目が覚めた。

明るくなっているようだ。

銀貨の結界のおかげで、警戒することなく、

ぐっすり寝てしまっているが、本当は危険な行為だ。

反省しなければ。

そんなことを思った直後に、

本当に反省することができてしまった。


「お兄ちゃん、大変!大変!」


「どうした?」


朝ご飯を用意していたオレは、レナに腕を引っ張られる。


「お馬さんがいなくなったの!」


「えっ!?いなくなった?」


慌てて、裂け目から出て、辺りを見渡す。

見渡せる範囲には、動くものがいない。

丘をと思ったが、高低差なんてなく、

なだらかな平地が続いている。


「うそ~~~~~!?」


確かに、結界も何も馬の周りにしなかったけど、

今まで、どこにも行かなかったから、

いや、あれは、馬にも結界をしてたんだっけ。

でも、馬って、賢いから近くにいると思うんだけど、

襲われた?盗まれた?

原因を探っても、いないことに変わりない。

そもそもの原因はオレだ。

あ~~~、やっちゃった。


「どうしよう。お兄ちゃん?」


「大丈夫。大丈夫。」


レナの頭をなでてやって、

内心の動揺を隠しながら朝食を作る。


(まあ、1頭は逃がすつもりだったし、

 もう1頭もアンブローナで売るつもりだったんだから。)


もう開き直るしか仕方ない。

ここから歩いたところで、2~3時間だろう。

イケる、イケる!


朝食後、銀貨のボールで背負子を作った。

木に見えるように見た目を変え、色も変える。

オレの背中から1cm離して浮かばせた。

こうすれば、勝手にオレの背中についてくる。

もちろん、幌をロープのようにねじって、背負子に通した。

こうすれば、どこをどう見ても背負っているだろう。

しゃがんでレナを座らせる。

安全ベルト代わりに、幌で服を包んだ後、、

オレとレナに回して腹巻のように縛りつける。


「よし!行くか!」


両手が使えるので、

槍を鍬に変え、短剣も鎌に変えて腰に差した。


「お兄ちゃん、遠くまで見える!」


レナが違う景色にはしゃいでるのはいいが、

問題は、オレの動きにそんなに連動していないことだ。

オレのスキルの条件は1つ。

[背中から1cm離れて]という条件は、

[オレの動きに合わせて]で上書きされてしまう。

浮くという動作は変わらないが、

その場で連動して、自動追尾はしなくなる。

だから、大きな動きは全然、大丈夫なんだけど、

少し体が斜めになっているレベルだと、

背負子が垂直だから、肩ひもと腹巻に違和感が出る。

農夫なのに、軍隊の行進のように歩かないといけない。

まあ、じっくり見られると困るが、パッと見はイケるはず。

道中、レナに声を掛ける馬車もいたが、

背負子に興味は無さそうだった。


そして、


「アンブローナの町だ。」


小国家群の入口の町だ。

ここまで長かった。

やっとたどり着いた。


マイストル国は、小国家群の中でも、

お隣のギリアスと並ぶ尚武の国で、

兵の規律がしっかりしている分、暮らしやすいという評判だ。

しかし、帝国と南で国境を接しているため、臨戦態勢だ。

なるほど。理由がなければ、尚武にはなってないか。

しかし、このアンブローナはランスール王国側の町で、

マイストル国の東にある。

紛争は西のギリアス国側なので、戦場からは遠い。

住みやすそうなら腰を落ち着けても良いかもしれない。


町に入るための検門の列に並ぶ。

マイストル第2の都市なので仕方がないが、長蛇の列だ。

レナを降ろし、背負子を隠すように服と鎌を縛りつける。

レナは行ったり来たりして、

初めての町の大門を興味深そうにのぞいている。

いや、そこから見える街並みか。

キラキラと瞳を輝かせて見ているが、

しかし、どこか顔に疲れが見える。


「身分証を持っているか?」


順番待ちでかなり待たされたのに、詰所に連れていかれた。

他にも2組が連れて行かれている。

詰所にもすでに6組が座って説明を受けていた。

オレの前に若い兵士が座る。

王国とは親密な関係なので、入国審査は厳しくないはず。

ただ、証明できるものはない。


「いいや。」


「では、名前と出身地を。この町に来た目的は何だ?」


「ノア。王国出身だ。

 両親が死んで、農作業が1人じゃ厳しくなったので、

 ここまで来た。王国で働き口をさがしたんだが、

 それが、その、出身とか、歳で足元を見られるので、

 交易都市なら妹を養えるほど稼げるのじゃないかと。」


用意してあった言い訳をする。

兵士は気の毒そうな顔をした。


「そうなのか。古い国だからな。そういう面もあるかもな。

 ここ、アンブローナは、心配いらない。

 いろんな国からいろんな種族が集まるからな。

 きっと何かしら職があるだろうさ。

 妹は何歳だ?」


「10歳だ。」


「名前は?」


「レナ」


オレが答えるより先にレナが答える。

兵士は1つうなづいて、オレの名前を書いた欄の次に

[レナ 10歳]と加筆した。


「15歳から銀貨10枚が必要だ。

 その子の分は要らないから、1人分の銀貨10枚だな。

 これは、出国の際に、これと交換で返還される。」


兵士が指し示した机の上に、赤い鉄のプレートが置いてあり、

[409-2-14106]と書かれている。

銀貨10枚は高いと思ったが、問題が起きた時の補填金で、

退去の際に戻ってくると聞いて、納得した。

半分の長さのプレートも奥の机から持ってきた。

兵士はプレートをオレの顔の前に持ち上げて、


「これがおまえたちそれぞれの身分証だ。

 これを失くしたら、銀貨は戻ってこないし、

 再度の貸与に、さらに銀貨が掛かる。

 この半分の長さのは、妹の分だ。

 こっちは発行に銀貨は要らないが、

 失くすと銀貨10枚を払うのは変わらない。

 それと、この仮の身分証、

 発行から1年くらいで効力を失うから、気をつけろ。

 つまり、1年以内に国から退去するか、

 この国に長く滞在したいなら、

 王宮に税を払って身分証を発行してもらうか、

 商業ギルドなどの各ギルドで発行してもらうかだ。」


兵士はそう言うと、

鉄の台座に嵌められた黒い水晶のようなものの上で、

タグをかざした。

すると、黒い水晶が淡く光る。

兵士は得意そうに、


「見たか?今の反応で本物かどうかが分かる。

 魔法なので、偽造はできないぞ。

 今の効力が切れるのが1年と言われているが、

 ここに届くまでに時間が掛かっているし、

 込められた魔力によって、期限はハッキリしない。

 稼ぎに来たおまえに言うことじゃないが、

 なるべく早く用事を済ませて国を出るか、

 王宮か、ギルドの身分証を作るのをお勧めする。」


魔法なんだ。

魔物以外でお目にかかることがなかったので、

そんなに身近なものとは思っていなかった。

スキルがある人も少ないみたいだし。

さすが交易都市だ。王国とは大違いだ。

いろんなところから大勢の人が集まるからこそなのだろう。

兵士がクスッと笑った。

水晶をまじまじと見ていたオレは、視線を上げた。


「それらの身分証は、期限があるのか?」


「王宮の身分証は、色が緑だが同じだ。

 1年ごとに税を納めれば更新される。

 ただし、税を納めるということは、

 国民になるということだ。

 それに対して、ギルドのは期限がない。

 ギルドが保証するからな。」


「ギルドも最初に金がいるんだろうか? 実は懐が。」


兵士はああという顔をした。


「戻ってくるとはいえ、普通は高いからな。

 安心しろ。ギルドは一括か、分割か、選べたはずだ。

 ただ、支払いを免除されたってことじゃないので、

 1年で決められた額を払わないといけない。

 詳しくはギルドで聞いてくれ。

 その格好なら、商業ギルドか?

 商業ギルドの分割なら、売り上げから差し引かれる。

 1年分になるまで天引きってことだ。」


実はそれっぽく見せるために、元の服に戻している。

兵士には、オレの言葉通り、

困窮した若者としか見えていないのだろう。

妹もどう見ても村の子だし。

その妹は、身分証を珍しそうに見つめている。


(それで、親切なのかもしれないな。)


「以上だが、他に何か、聞きたいことはあるか?」


「いや、大丈夫だ。ありがとう。」


「ああ、そうだ。秤量貨幣を交換していくか?」


急に思い出したのか、兵士が質問してきた。


「秤量貨幣か。」


ここはそういうものが必要なんだな。

思わず、考え込む。

便利っちゃあ、便利なものだ。

無いよりはあった方がいいのは決まっている。

兵士は黒い金属の塊を出してきた。

単2乾電池みたいだ。

オレが聞いたことがあるのは、

銀貨10枚を紙で封したものだったけどな。


知ってるかもしれないが、秤量貨幣を説明すると、

この世界の貨幣は、金・銀・銅貨、それぞれに大貨がある。

当然、金属だから、長年、使い続けていくと、

擦れたり、欠けたりして減っていく。

同じ銀貨1枚でも、厚さが倍半分も違うと、

金属としての銀の価値が倍半分も違うってことになる。

ランスール王国なら問題はない。

王国は、税金などで戻ってきた貨幣を作り直すので、

貨幣の価値は元に戻る。

そう、王国が作り直すから、貨幣の価値が変わらない。

銀貨1枚は、銀貨1枚の価値があるってことだ。

まあ、倍半分も変わると、贋金の可能性があるので捕まるが。

これは、どこの国でもやっていることだ。


じゃあ、銀貨1枚は銀貨1枚じゃないかと思うだろう。

それがそうではないんだ。

その違いは、ここが交易都市だということだ。

つまり、いろんな国のいろんな貨幣が集まるので、

ものさしが必要になるってことなんだ。

昔あった話なんだけど、ある国の銀貨2枚で、

別の国の銀貨が3枚できるってのは有名な話だ。

徐々に減らしていったっていう話だけど、

大陸共通貨幣がないってことが一番の問題だ。

そういうこともあって、商売をする人には、

秤量貨幣は必須というほどのアイテムだ。

でも、オレは商人じゃないし。

商人じゃない人は、最初にこの国の貨幣に両替する。

そこでカモられる可能性もあるんだけど。


「せっかくだけど、やっぱり、金がない。」


この農夫の格好で、金があるところを見られると、

いろいろとマズいだろう。


「そうだったな。すまん、すまん。

 出したから、一応、説明しておくけど、

 ここじゃなくても、

 商業ギルドでも同じ重さの銀と交換できる。

 そのプレートと同じように魔法が掛かっているので、

 キッチリ、この国の銀貨10枚を量ることができる。

 昔は、これがなかったから、混ぜものが多かったけど、

 これは魔法だから、銀の重さだけを量るんだ。」


「何それ!すごい!」


マジマジと単2乾電池を見る。

こういう便利グッズって、ついつい欲しくなっちゃわない?


「クスッ」


また、兵士が笑った。

ああ、オレの反応を楽しんでたのか。

もちろん、親切なのもあるんだろうけど。


「じゃあ、これがプレートな。失くすなよ。

 この道をまっすぐ行けば商業ギルドがある。

 箱とお金の看板が出ているから、すぐに分かるはずだ。」


「ありがとう。」


門をくぐると、大通りがずっと続いている。

さすがという人混みだ。

オレたちは、期待を胸に足を踏み出した。

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