孤独の部屋
わたしたちは皆孤独である。
これでは語弊がある。
わたしたちはいつのときかは孤独になる。
寄せては返す波のように、登っては沈む日のように。
深海にいるような、居心地が悪くなるほどの孤独。
自分の身体の存在を否定するような孤独。
外は暗い。
家の前をときどき走る自動車の音が、部屋の中に響き渡る。
遮光カーテンの隙間から道路を照らす光が入ってくる。
ひんやりとした部屋で、わたしは暗い灰色の天井を眺めている。
横目から真っ黒い闇だけを映し出すテレビが私を見つめているのが見える。
にゅっと何かが出てきそうな、そんなホラーを見るような感覚でいる。
この暗闇が怖かった。
わたしの知らない、わたしを知らない、暗闇。
ベランダをじっと見つめれば、白い街灯の光に混じって微かにタバコの火がちろちろ光っているのが見える。
老いた身体に寒さは染みないのか。
いや老いているからこそ寒くないのか。
私が小さいときにやめたタバコをふかす祖父の姿。
もうそれほど大きくなってしまったのかと、変に寂しくなる。
いつもベッドで寝ているわたしには布団が居心地悪くて、モゾモゾと体勢を変えながら、眠りにつこうとする。
お酒の匂いが、少し傷んだ畳に残っている。
最近は、もう部屋でビールを飲みながら野球を見ているだけだ、と祖母は言っていた。
それで不機嫌になると夕飯も食べないのだそうだ。
昭和が抜けきらない人だなと心の中で苦笑する。
タバコの明かりはいつのまにか消えて、影だけがわたしの隣に横たわっている。
大晦日、夜11時過ぎ。
一秒一秒、新しい1年に近づいている。
もういない人を置いて。