第9話 猫カフェ
足早に進んでいく紗妃に置いていかれないようについていく。
「おい、そんなに急がなくても……」
「ダメ、猫ちゃんが逃げてしまうわ」
「逃げないと思うけど」
そんなことを大真面目な顔で言う紗妃を見て思わず苦笑いが出る。ゆっくりになるどころか歩くスピードはどんどん早くなって気がする。
しばらくそんな調子で歩き続けると目的の猫カフェに到着した。
「ここね」
「よく迷いなく来れたな」
事前に調べておいた俺でも地図を見ながらでないと迷わず来る自信がなかったのに。
「いつか来たいと思ってこの辺にある猫カフェは全部把握済みよ。特にここは行きたい猫カフェランニング上位三位に入っているわ」
「そ、そうか」
早口で話す紗妃に思わず引いてしまった。若干息が荒い。本当に行きたかったのだろう。
「すーはぁー」
楽しみにしていた割には一向に入ろうとしない。
「入らないのか?」
「……行きましょう」
「お、おう」
真剣な表情過ぎて怖い。気合を入れて店の中に入っていく紗妃の後に続いて俺も入る。
『『にゃー』』
「おぉ!」
そこにはたくさんの種類の猫たちが思い思い自由に過ごしていた。小さい猫から大きな猫。白猫に黒猫。茶色ベースに黒い模様の猫、灰色に黒い模様の猫など様々な種類の猫たちの姿があった。
「か、かわいい」
紗妃の方を見ると猫たちにくぎ付けになっている。もう猫のことしか頭にないようなので受付を済ませる。この様子だとこのお店の最大時間の一時間でいいだろう。
受付を済ませ紗妃の方を見るとゆっくりと猫のいる方へと近づいていく。
「にゃー、にゃー」
三匹ほど集まっているね猫たちのもとに猫の鳴き真似をしながら近づく。
「にゃー」
怖がらせないように近づいてそっと手を伸ばす。そしてもう少しで触れそうといったところで猫たちはものすごいスピードで逃げ出した。
「あ……」
悲痛な声が聞こえる。わずかに肩が震えている。その後ろ姿は哀愁漂っていてて泣いているんじゃないかと思うほどで何か声をかけなくてはと思ってしまう。紗妃に近づこうとしたところで足元に違和感を感じた。
下を見るとそこには一匹の猫が俺の足にすり寄っている。
あまりの可愛さに視線がくぎ付けになる。紗妃の気持ちが少しわかった気がする。俺は猫を怖がらせないようにゆっくりと屈むとと、そっとその猫をなでる。ふわふわと体に温かな体温。猫をなでるっていうのはなんでこんなにも癒されるのだろうか。
嫌がらず人懐っこい猫をなで続ける。
「よしよし、気持ちいか」
ゴロゴロとのどを鳴らしている。心がが温かくなったがと途端に寒気を感じた。
びっくりして気配のする方に視線を向けるとそこにはひどく冷たく悔しそうな視線をこちらに向けている紗妃がいた。
「い、いや。これは……」
反射的に言い訳を言いそうになってしまう。同じように何かを感じ取ったのかささっきまでなでていた猫もいなくなってしまった。
「ずるい……それで勝ったつもりかしら? 絶対に負けないから」
そういってまた猫の方に行ってしまった。
「勝ち負けではないと思うんだが……」
再び猫の真似をしながら猫に近づいていく姿をみ見ながら俺も猫カフェを時間いっぱい満喫することにする。
とりあえず飲み物と漫画をとる。ついでに猫のおもちゃも一つだけ持っていく。
猫がくつろいでいるのを邪魔しないように猫があんまりいないソファを選んで腰かける。
持ってきた飲み物を一口飲んで漫画を開く。猫たちの姿を見ながらくつろぐことにした。
しばらくの間漫画に夢中になってしまい一冊読み終えてしまった。本を閉じて周りを見るて驚く。お俺の近くに何匹か猫が集まっていたのだ。
入店してすぐに近寄ってきていた猫なんてすぐ横で丸くなって寝ている。
「本当にお前は人懐っこいな」
俺は近寄ってきてくれた猫を優しくなでる。嫌がりも逃げてりもしない。
近くにいた他の猫は漫画や飲み物と一緒に持ってきた猫のおもちゃに興味を示している。そのおもちゃを手に取り猫と遊ぶ。猫の前でフルフルと振ってあげれば本能を刺激されたのかじゃれる。
「かわいいな」
猫カフェに来る人の気持ちがよくわかる。猫が満足するまで遊んでやっると飽きたのかどこかに行ってしまった。
「そういえば紗妃は何しているんだ?」
「ここにいるわ」
「おお!?」
思ったよりもすぐ近くから声がしたの大きな声が出てしまった。その声に驚いたのか近くで寝ていた猫もいなくなってしまった。
「随分と楽しそうね?」
紗妃の表情が死んでいる。まさか……
「猫たちと遊べたか?」
「……いいえ。触ってすらいないわ。私が近づくと逃げるんだもの」
「それは何というか……」
こんなに猫が好きなのに触ることすら許されないなんて……不憫すぎる。
「ここ座ってもいいかしら?」
「どうぞ」
疲れ切った様子の紗妃。肉体的というよりかは精神的なダメージの方が大きそうだが。
「なんで佑真君はそんなに猫ちゃんたちと仲良くなれるの?」
「これと言って特に思い当たるふしは無いんだけど、さっきも漫画を読んでいたらいつの間に集まっていただけで」
「自慢かしら?」
「違うって! ほら、猫って自分に興味がない人に近づくって言うだろ? きっとそれだよ!」
とっさにどこかで聞いたこと覚えのある猫についての情報を話す。
「たしかに……そんな話もあるわね」
「だろ? だから一度来るのを待ってみたらいいんじゃないか」
「わかったわ、そうして……」
急に黙ってしまった。
「紗妃?」
「しっ!」
よくわからずその指示に従う。そして紗妃のい視線が俺の方に向いていないことに気が付く。紗妃の視線を追っていくとそこにはさっきまで近くで寝ていたあの人懐っこい猫が近くまで戻ってきていたのでだ。
「……」
黙ってその猫を見守っているとゆっくりとこちらに来る。そして俺たちが座っているソファの上まで登ってきた。
「ーーっ」
紗妃が声を出しそうになるのを必死の抑えている。
猫はそんな紗妃の様子など気にしていないかのように俺の手に鼻を近づけてクンクンとにおいをかいでいる。
くすぐったい。
そして周りをきょろきょろと見回すと俺の膝の上に乗っかってくる。そんな猫の背中をなでてやると気持ちよさそうに目を細める。
そのままなで続けると満足したのか、今度は紗妃の方に向かって動き出す。猫は俺の膝の上から降りると次は紗妃の膝の上に乗る。
「っ!?」
声にならない悲鳴を上げる。
猫が良いポジションを見つけたのかそのまま紗妃の膝の上で丸くなった。
「佑真君、これはなでても良いってことかしら?」
猫が逃げ出さないように小さな声で話しかけてくる。その声は若干震えている。
「良いんじゃないか?」
恐る恐る手を伸ばしてそっと猫の背中に触れる。
「やわっ……」
感動した用の表情をしている。
どれだけ猫たちに相手にされていなかったんだ……
紗妃がなでても逃げる様子はなくのどをゴロゴロと鳴らしている。
「生きていてよかったわ」
そんなことをまじめな表情で言う。そんな紗妃に苦笑いしながら言う。
「大げさすぎるって」
「猫たちに好かれていた佑真君にはこの感動はわからないわよ」
「はいはい」
本当にうれしそうな紗妃を見れたこちらもなんだか嬉しくなってくる。
しばらく黙ってなでられていた猫が動き出す。
そんな泣きそうな顔しなくても……
のどまで出かかった言葉をぐっとこらえる。
立ち上がった猫は紗妃の膝から降りる様子はなく紗妃の方をじっと見つめると、次の瞬間紗妃の胸のあたりに前足を伸ばして二足立ちをしたのだった。
「わっ!!」
急に目の前に猫の顔が近づいてびっくりしたのか目を白黒させている。紗妃のおでこの部分をクンクンと鼻を動かしてにおいをかいでいる。
少し冷静になったのか、猫が倒れないように手で支える。
しばらくにおいをかいでいたが満足したのか今度は紗妃の胸元を見ている。そしてーーっ
ぶふぅっ!!
吹き出しそうになるのを必死に堪える。
猫が紗妃を胸をフミフミしだしたのだ。フミフミによってその大きな胸が強調されている。それだけではなく猫の前足が沈むことでその柔らかさまでもがこちらに伝わってくる。いけないものを見ているような気持ちになるがその光景から目が離せない。
「可愛すぎるわ、フミフミ上手よ」
紗妃はそんな事お構いなしで猫のとりことなっている。いつものクールな表情がわずかに緩んでいる。紗妃と関りが少ない人にはわかりにくいかもしれないが……
俺ははっとなって周りを見る。近くに人はいなくまたこちらの方を見ている人いないことを確認して胸をなでおろす。
紗妃の方に視線を戻すがしばらくの間このフミフミは終わらなさそうだ。俺は周りに人が来ないか注意しながら幼馴染と猫を見守る。結局終わりの時間まで続いたフミフミだったが、その間誰かに見られることはなかった。
何とも言えない疲労感に襲われたが、満足そうな紗妃の表情を見て思わず頬が緩む。
「楽しかったか?」
「えぇ、最高だったわ」
そんな幸せそうな紗妃の表情を見ることが出来て猫カフェに来てよかったと改めて思い、俺たちは店を出た。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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