第4話 まずは現状確認を
紗妃から家庭教師の依頼を受けてからはじめての土曜日。つまり今日は第一回目の授業の日で、現在はお昼前だ。
一人暮らしをしているところから電車に乗ってきた俺は、家に着くなり紗紀の部屋に案内された。
小さいころに入った時以来の紗妃の部屋はきれいに整理されており、どこ女の子らしさを感じる部屋になっていた。
紗妃以外の女の子の部屋に入る経験がなかった俺は今更ながら緊張してしまう。そんな緊張を必死に誤魔化しながら口を開く。
「早速だけど始めていくか」
「えぇ、よろしくお願いします」
「そんなにかしこまらなくても……」
「親しき中にも礼儀ありって言うでしょ。私は生徒で佑真君は先生なんだから」
「確かにそうかもしれないけど……俺がやりにくいからいつも通りにしてくれ」
「わかったわ」
「助かる」
「なにから始めましょうか」
「そうだな……まずは現状確認かな」
「?」
俺の言葉にピンとこなかったのか首をかしげている。
「紗妃の状態を改めて知ってから始めようかなと」
「なるほど、わかったわ」
とりあえずいくつか質問をしてみることにする。
「紗妃は恋愛感情がよく分からないってことだよな?」
「えぇ、そうよ。わからないわ。これまで誰かを好きになったこともないわ」
「一度も?」
「一度もよ」
「好きにならないにしてもいいなぁって思ったことは?」
「苦手な人以外はいいなと思っているわ」
思っていた解答とはズレた返答が返ってきた。そういう意味ではなかったんだが……紗妃の好みを聞こうと思ったが厳しいかもしれない。
違う方向性から質問してみることにする。
「そうか……なら苦手な人っていうのはどんな人なんだ?」
「それを知って意味があるのかしら?」
「苦手なタイプを知しれば、少なくとも紗妃の好みじゃないってことだろ? 紗妃の好みを知ることにつながるかもしれない」
納得した様子の紗妃。
「そうね……自己中心的で周りが見えていない人、あとは暴力的な人は苦手だわ」
「なるほど?」
それは恋愛抜きにしても関わりたくないような人だと思うんだが……
次は外見の好みを聞くことにする。
「見た目は好みとかあるのか?」
「特にないわ。不潔ではなかったらいいと思うわ」
ここまで聞いての感想としては他人に対してあまりこだわりがないというか、誤解を恐れず言うなら興味がない。いや、薄いっといった方が良いかもしれない。
さて、どうしたものか……
そんなことを考えいると紗妃が口を開く。
「逆に質問してもいいかしら」
「うん? なんだ?」
「人を好きになった時ってどうやって自覚するの?」
「えーと……」
そんなこと考えたことなかったので、意外に難しい質問だ。
紗妃の真剣な表情を見て、とりあえず頭に思い浮かんだことを言ってみる。
「一緒に過ごして楽しいと感じたりとか、無意識にその人のことを考えていたりとか……あとは見た目が好みとかかな」
「そう……」
俺の言葉を聞いて何か考え始める紗妃。俺は冷静になり恥ずかしいことを言ってしまったと思い、急に羞恥心がこみ上げてきてしまった。
「外見の好みってやっぱり大切なのかしら?」
「え? あぁ……一目ぼれってものがあるくらいだし」
羞恥に悶えていたら反応に遅れてしまった。
「私の外見って魅力的なのかしら……どう思う?」
「え゛っ!?」
突拍子もないしと門が来て思わず変な声が出てしまった。
「これまで何度か告白されたことがあるけど、その中には一度も話したことがない人もいたわ」
「お、おう」
突然のカミングアウトに驚くが、紗妃ほどの美少女なら当然といえば当然だ。むしろ告白されたことが無い方がおかしいかもしれない。
「自分で言うのもおかしいかもしれないけど、スタイルは良い方だと思うわ。友達にも言われたことあるし……でも、こんな仏頂面で愛想のない私に魅力を感じたってことかしら?」
心底不思議そうの紗妃。
「いや、ちょっとわかりにくいだけで愛想がないわけではないと思うが……紗妃は昔から知っている幼なじみの俺から見ても美少女だと思う。それに、その……スタイルもいいと思う。十分魅力的だと思う」
そんな俺の言葉を聞いてわずかに目を見開く。
永遠に感じられるほどの沈黙。自分でも恥かしいことを言ってしまった自覚があり顔が熱くなるのが分かる。
「そう。ありがとう」
そういってわずかに目を細める。
「いや……」
その表情に思わずドっきとしてしまう。気まずくなり視線を逸らす。
「あの人たちは私の外見に魅力を感じたのね」
「まぁ、そういうことだと思うぞ」
「話したこともないのにって不思議に思っていたけど謎が解けたわ」
「よかったな」
「えぇ、よかったわ。色々と……」
優し気な声。気になる言い回しだったが、それを聞き返す余裕は今の俺にはなかった。




