第16話 口止め料
俺たちは店に入ると映画館が一番見やすい席に座る。ここからならいつ紗妃が出てきても分かる。
口封じの為におごらされた商品を店員が持ってきてくれた。
琴美さんはよほどおなかが空いていたのか食べ物がくるなりそれを頬張っている。俺はこんなところをバイトの先輩に見られ、さらにはおごらされているせいで全然食べ物が喉を通らない。のどの渇きを感じて一口飲み物を飲む。
美味しそうに食べている琴美さんに向かって言う。
「これで他の人に黙っていてくれるんですよね」
「ふふんふふぅふん」
何か言っているが口の中に食べ物がある状態なので何を言っているのか全く分からない。
「いや、口の中がなくなってからでいいです」
しばらくもぐもぐした後、呑み込んでから言う。
「もちろんだよ。私は約束は守る女だからね」
何とも胡散臭いが、俺にできることは信じることくらいだ。大きなため息が出てしまう。よりによって琴美さんに見られるとは……
「それで? 順調そうなの?」
「え?」
言葉の意図が分からず聞き返す。
「なにって、デートだよデート。ずっと付け回していたんでしょ?」
「言い方……」
たしかに最初から見ているが人聞きが悪すぎる。
「いい感じだと思いますよ」
今日の様子を思い出しながら言う。
「紗妃……幼なじみも楽しんでいるようだったし……手伝った甲斐がありましたよ」
「ふーん……本当に?」
「え?」
琴美さんの方を見る。いつものふざけた様子ではなく真っすぐこちらを見ている。普段の様子との違いに思わず視線をそらしてしまった。
「もちろんですよ。紗妃の悩みがこれで解消されるならそれに越したことはないですから」
「そっ」
それだけ言うと琴美さんは再び食事を再開する。何とも言えない空気が流れる。どれくらいの時間そうしていたかわからない。
「あっ」
ガラス越しに紗妃たちが出てくるのが見え声が漏れる。それを見逃す琴美さんではない。紗妃たちが出てきたことを悟ったのか身を乗り出すようにダラスに顔を近づける。
「出てきた? どの子?
「あそこにいる――」
指をさし、服の特徴を言いながら琴美さんに分かるように伝える。
「あの子!? めっちゃくちゃ美人! それにおっぱいでっか!」
ストレートすぎる物言いで反応に困ってしまう。たぶん紗妃がどの人か伝わったようだ。
「ほへぇ……あんな美人な幼なじみがいるなんて前世で世界とか救った?」
「なんですかそれ」
俺の言葉には応えず紗妃にくぎ付けになっている琴美さん。紗妃とは道路を挟んでいるのでかなり距離があるので問題ないと思うが、こちらに気づくんじゃないかと思うほど琴美さんは凝視しているので内心ひやひやしてしまう。
「いかなくていいの? 見失っちゃうよ」
琴美さんはの言葉ではっとする。
「琴美さんは?」
「私はバイトまでまだ時間あるからもう少しここにいるよ」
「わかりました」
「ばいばい」
琴美さんに軽く挨拶をしてから店を急いで出る。
紗妃たちはすでに歩き始めており慌ててそのあとをついていく。その途中で店の方を振り返ると琴美さんがにやにやしながらこちらを見ている。俺はその視線を振り切るように足早でこの場を後にした。
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