第14話 気の迷い
紗妃からデートの約束を聞いてからどこか落ち着かなくずっとそのことが頭から離れなかった。
刻一刻と約束の時間に連れてそのことで頭がいっぱいになってきている。
そしてそんな状態になった俺は冷静さをなくしてしまったのだろう。そうでないと今の状況が説明できない。
今、目の前には昨日聞いた紗妃たちが待ち合わせすると言っていた駅前の景色が広がっている。
「……来てしまった」
なにやっているんだ俺!?
自分の奇行に頭を抱える。
「違うんだ。ちょっと魔がさしたというか……心配になったというか……」
誰に言い訳しているのかわからない言葉が出る。
周りを確認してみるが紗妃の姿はない。男の方は……わからない。顔すら知らないのだから当たり前だが。
ふと我に返る。
「さすがにやばい奴だよな……」
物陰に隠れて幼馴染のデートの待ち合わせ場所で様子を確認するなんて一歩間違えれば不審者だ。というか一歩間違えなくても不審者だ。
「……帰ろう」
紗妃が来てない今ならまだ間に合う。
「そうだ! 俺はたまたまここを通りかかっただけだし!」
そう自分に言い聞かせてこの場を離れようとしたとき、視界の隅に誰かが映ったような気がした。無意識でその人に視線を向けるとそこには紗妃の姿があった。
「っ!?」
俺はとっさに物陰に隠れてしまった。そしてそっと紗妃の姿を目で追う。駆け寄っていく先には一人の男の姿があった。身長は平均的で体型はどちらかといえば細い方だ。眼鏡をかけてた優男といった印象を受ける。
「白雪さん!」
紗妃の姿を見つけた男は嬉しそうに声を上げる。男にしては少し高い声だ。
冷静に観察しているが内心は穏やかじゃなかった。まさか紗妃の待ち合わせした人が声が届くほどの距離にいるなんて思いもしなかった。今すぐここを離れたいが、今動いたら間違えなくばれてしまう。俺は息をひそめて二人の様子を伺う。
「準備に時間がかかってしまったわ。ごめんなさい」
謝る紗妃に笑顔を向けて答える男。
「いえ、僕もさっき来たばかりですから」
それを聞い少し紗妃の表情が和らいだ。紗妃の服装はカジュアルな印象の服だ。足元を見ると俺とこの前模擬デートした時とは違ってブーツではなく歩きやすそうな靴だ。この前は靴擦れになってしまっていたのでその反省をいかしたのだろう。模擬デートが役に立っていることが分かって少しうれしくなる。
「初めて白雪さんの私服を見ましたけど、とても似合っていて素敵です!」
若干テンション高めに言う。
「ありがとう。うれしいわ」
紗妃も褒められてまんざらでもない様子だ。
ここでこの前のも模擬デートを思い出す。
……俺、紗妃の服装褒めてない気がする。
必死に記憶を呼び起こすが褒めたという記憶が全くない。
やらかした……
それなのに目の前にいる男は自然に褒めている。……やるな。
何とも言えない敗北感に襲われる。
「それじゃ行きましょうか」
敗北感にさいなまれていたら気が付いたら二人が歩き出した。
帰るなら今だ。紗妃にも気が付かれていないし。
帰ろうと一歩進んだところで立ち止まる。
「……あぁ! くそっ、やっぱり気になる」
少しだけ、少しだけ様子を確認したら帰るから。それに家庭教師をしているから確認するのはおかしなことではないなず!
そう自分に言い聞かせて俺は二人の後を追って歩き出した。
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