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第10話 帰り道

 時間を確認するともうかなりいい時間となっていた。当初予定していたデートプランも一応全部できた。


「帰るか」


「そうね」


 そういって俺たちは並んで歩き出す。しばらく歩いていて俺はあることの気が付いた。紗妃の歩き方に違和感があったのだ。意識して紗妃を見る。


 ……間違いない


「紗妃」


 足を止めこちらに振り返る。


「何かしら?」


「足、怪我しているだろ」


 わずかに瞳が揺れる。


「何のことかしら?」


 紗妃の様子を見て確信に変わる。きっといくら聞いても誤魔化すだろう。実際今まで何も言っていないわけだし。


「ちょっとこっちにこい」


 俺は紗妃の手を引き近くにあったベンチまで来るとそこに座るように言う。しぶしぶそこに座った紗妃の足元に膝をつく。


「靴、脱いで」


「なんでもないから」


 一向に脱ごうとしない紗妃。このままでは埒が明かないと思った俺は靴へと手を伸ばす。


「やめて! ーーっ」


 俺の手から逃れるように足を引っ込める。その時わずかに声が漏れ、眉間にしわが寄る。


「いいから! 脱がすぞ」


 観念したのかしぶしぶ抵抗をやめる。少しでも痛く何らないように注意しながら靴を脱がし、そしてそのまま靴下も脱がした。


「……これ」


 紗妃の方を見ると視線をそらされた。小指の横の部分が赤くなっている。さらに踵も見ると同じように赤くなっていた。


「靴擦れしているじゃないか。なんで言わなかった?」


 赤くなった足はかなり痛そうだし、さっきの様子から歩くのもきつかったはずだ。


「せっかく佑真君が付き合ってくれていたから……台無しにしたくなかったのよ」


「だからってこんなになるまで我慢しなくても……」


 紗妃の表情は暗い。


「ごめんなさい……」


 絞り出すような小さな声。


「別に怒っているわけじゃ……いや、怒っている。なんでもっと早く言ってくれなかったんだ」


「迷惑かけたくなかったのよ」


 紗妃の言葉を聞いて大きなため息が出る。


「迷惑だなんて思わない。小さいころから一緒の大切な幼馴染なんだから。こうやって痛いのを我慢されたり、遠慮される方がきつい。もし逆の状況だったら紗妃は俺のこと迷惑な奴だって思うか?」


「そんなこと思わないわ!」


「俺も一緒だよ。だから今度からちゃんと言ってくれ、いいな?」


 こくりと頷く。そんな紗妃に笑いかける。


「約束だ。ちょっとそこのコンビニで冷やすものとか絆創膏とか買ってくるからちょっと待っていてくれ」


「わかったわ」


「じゃあ、行ってくる」


「ありがとう」


 歩き出したら背中からそんな声が聞こえる。それに対して軽く手を上げ答えるとコンビニへと急いで。


 


 コンビニで何個か使えそうなものを買って紗妃のもとに戻ってきた。さっきと同じように紗妃の足元に膝をつく


「俺の膝の上に足を乗せてくれ」


 素直に言う通りにする紗妃。買ってきた氷で少し冷やす。そのあとに絆創膏をついけて応急処置を済ませた。


「とりあえずはこんなもんか。あとは帰ってからだな」


「ありがとう」


 帰るために靴を履かせる。そして俺は紗妃に背を向けて腰を下ろした。


「なにしているの?」


「なにって……帰るのにその足だと歩けないだろ。だからおぶって帰るんだよ」


「そこまでしてもらわなくても平気よ、歩けるもの!」


 そういって勢いよく立ち上がるがやっぱり痛いのか顔をしかめる。


「やっぱり痛いじゃないか。ほら、いいから」


「……」


 黙って待っていると紗妃の腕が首に回され背中に体重がかかる。


「重くない?」


「まぁ、昔に比べたら重いかな。ちょっ、痛いって」


 抗議するように頭を背中にぐりぐりと押し付けられる。


「冗談だって、重くないから」


「デリカシー」


「はいはい。それじゃ行くか」


 俺は紗妃を背負って歩き出す。


「こうしていると昔を思い出すな」


 小さいころ遊んでいた時につまずいて紗妃が派手に転んだ時があった。膝が擦り剝けて大量の血が出ていた。その時も今日のように俺がおぶって帰った。そんな懐かしい記憶がよみがえる。


「そんなことあったわね」


 当時と今、似たような状況だが一つ違うことがあった。


「あの時と違って今日は泣いていないけどなーーって、わかったわかった」


 また後ろから抗議が飛んでくる。紗妃が少しいつもの調子を取り戻しつつあることが分かり無意識に口角が上がっていた。


 まだ帰り道は長いが、そんなことが気にならないほどだった。


 昔と変わらない紗妃の体温を背中に感じながら帰路についた。

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