光
三題噺もどき―よんひゃくよんじゅうご。
雨が、降っていた。
辺りは、暗くぼんやりとしている。
視界が慣れているのか、それともそういうものなのか。
光はないものの、視界は確保できている。
「……」
したところで、何もないのだけど。
自分が今、どのような状況にあるのか全く見当がつかない。
座っているような、寝ているような、立っているような、浮いているような。
「……」
そもそも、ここには体なんてものがなくて。
視覚、思考しか存在しないんじゃないかと思う程に、感覚がぼんやりしている。
―いや、そうでもないのか。
「……」
雨が降っていると感じたのは。
体が濡れていると思ったからだ。
しどとにぬれて、重たいと思ったからだ。
最初に思ったことが、体が濡れて気持ちがわるい、だったからだ。
「……」
ここに音がないので。
それが本当に雨なのかは確信がないけれど。
頭上―だとおもう―あたりを見れば、それらしい雲のようなふわふわとした塊はあるし。
そこから落ちてきているのかは、分からないが。
「……」
ただの水なら、それはそれで訳が分からないが。
どうして、水をこんなにかぶっているのかという気分になる。
―それは雨でも同じことか……どうしてこんなに濡れているんだか。
「……」
頭から濡れているようで。
頭髪の先から、時折雫が落ちている。
これが落ちている、という感覚はるのだが、その先が地面だと言う感覚があまり沸かないのが不思議でならない。
「……」
しかし……このままここに居てもいいものなのか。
うっすらとした暗闇の中では、どうにもできそうにないが。
どうにかした方がいいような気もしている。
「……」
だとしても、どう動いたものかと。
思考を巡らしてでも見ようかとした辺りで。
視界の端で、何かがふわりと動いた。
「……」
それは、ㇵの字のように見えた。
しかしよく見れば、それは羽であった。
実際そんな風に見えることはないだろうけれど。
「……」
絵でよく見るような。
薄っぺらいカモメが、視界の端でふわふわと。
飛んでいるのか、浮いているだけなのかは分からないが。
一筋の光のように、それはそこに突然現れた。
「……」
何事かと、ぼんやりと眺めていると。
くるりと旋回したような動きをみせ。
それは突然、こちらへ向かってきた。
紙のように、薄い体で、どこからそんな力が沸くのだろうかという程に。
力強い翼で、私の目前を通り過ぎて行った。
「……」
それが飛んでいった先に。
光があった。
「……」
光というには、あまりに朧気で。
遠くに見える洋燈のようでしかなかったけれど。
確かにそこに向かうべきだと言われているように。
―勘違いした。
「……」
縋るように。
伸ばした掌は。
先から崩れていき。
朧げな光は静かに閉じ。
導く光は暗闇にかき消され。
私の視界もまた、闇の底に落ちていった。
「……」
重たい瞼を開けても。
そこに広がるのは暗闇だった。
それもそうか。
時刻は深夜もいいところだ。
全身が重く、泥の底に捕らわれているような気分だ。
いい加減、眠ってしまいたい。
お題:雨・カモメ・洋燈