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お嬢様!火力が足りておりませんぞ!  作者: あさおか
第1章 「そうだ、ニンゲン狩に行こう。」
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第8話 「ゲロの海とエルドラド」

朝、目を覚まして起き上がった。


むくり、と。


そこにお嬢様の姿は無い。一足先に朝食でも摂っているのか?


そう思った。


いつものように身支度を済ませて、鞄をがさごそ漁り、ブーツを履いた。


……何やら一階が騒がしい。


屋根裏のこの部屋を出て、通路を歩き、窓を開ける。それから階段を降りて、扉の前に立つ。


いつものシスター達が騒ぐような声が聞こえてくるのだ。


黄色い歓声。


「これも神の力の賜物です…あぁ…ありがたやありがたや!!」


扉の向こうの聖堂から聞こえてくる声には、「神の力」だの「ご加護」だの、やけに大袈裟な声が聞こえてくるのだ。





「………どういう状況?」


扉を開けると、そこには祭壇の前で両手を地面につき、とてもじゃないが顔色の良くないお嬢様が居た。


「り"、ぇ"…る"…」


こちらに気付いたお嬢様は、四つん這いのままよだれをたらして呼び掛ける。


なんとも苦しそうな顔だ。


ぷるぷる震えている。


お嬢様の胸元には硬貨の山が積み上がっていた。


「なぁにこれ?」


リェルは一つ、硬貨をつまみ上げた。


本物だ。


「本物じゃん!何があったの!?」


相変わらず気分の悪そうなお嬢様に、リェルは問い詰めた。









「…………………………………ヴぉ"ぇ"え"え"え"え"え"」






お嬢様の口から、硬貨が流れ出た。


河のようだ。





「うわぁああああああああああああああああああああ!?!!!????!!!?じゃっくぽっとだぁああああああああああああああああああああ!?!!!????!!???????!!??!!」



黄金郷は此処にあった。















金銀財宝の山の前に、シスター達は跪き、静かに祈りを捧げている。


お嬢様は疲弊しきっているようで、虚ろな目をしたまま地べたに寝転がっていた。


口をパクパクしている。


「……で?バーチャン、何があったの?」



年配のシスターは話し始めた。



「朝、あなたがまだ寝ている間の事です


サラは一足先に起きてきて、私に体調が悪いことを訴えました。


誰がどう見ても、明らかに顔色が良くなかったのです。


そこで私は滋養強壮に良いとされている、この億年草の葉をすり潰し、彼女に飲ませようとしました






……億年草のにが汁、幼い頃によく飲ませて貰ったことがある。


激不味だった事は未だに覚えていて、話を聞いているだけなのに、リェルの口の中はその渋い味で満たされた。




「彼女はそれを一口飲むと、すぐに気分が悪いと訴え、地面に踞ったのです。それから暫く私が背中をさすっていると、彼女が口元を押さえました」



つまり




「彼女が嘔吐したそれは、紛れもない5000ゴールド硬貨だったのです」




この異常事態の謎が何一つ解けていないということだ。




「いやいや、意味分かんないから」


冷静に、言い放った。


「リェル、それは今この場に居る全員が同じ事を言っています」


バーチャンも真顔で言った。


「……ゎだぐじもいみがわがりまぜんわ…」


それは貨幣を吐き出した当の本人も同じだった。


「…バーチャン、このお金さ、ちょっとばかし借りても良いかな?」


リェルがそう聞くと、バーチャンはハッとして、うわべだけのお説教を始める。


「リェル、いけませんよ。欲に駆られ、無駄な贅沢をしようものなら……」


「だぁーーいじょうぶだってば、仕事に使うんだからさ!サラ、行くよ!!」


引き留められる前に、リェルはさっさと教会を立ち去ろうとする。


仰向けのままのお嬢様を引きずって。


「リェル!いけません!サラは体調が優れないのです!それに次に帰ってくるのは何時になるんです!?」


扉を開け、まだまだ朝日が昇りきる前から、足早に教会を出た。




























「サラ、いい加減元気出してよ!これから色々と手伝って貰うんだから!」


往来の端っこで、お嬢様は哀しみに暮れていた。


「………はしたない…はしたないですわ……頂いた物を口にして、それを吐いてしまうなんて…」


何を吐き出したか、それ自体が問題なんかでは無かった。


問題は「大勢の前で勢い良く嘔吐をぶちかました」という事であって。


「……もう何でも良いけどさ、昨日の話、何処まで覚えてる?」


昨日の話、昨日の話と云えば、何であったか。


「えーと…ニンゲンがどうのこうのとか…資本主義がどうのって話でしたっけ?」


「そんな思想の強い話はしてない!!」


リェルは例の手紙を鞄から取り出し、もう一度広げて見せた。


「私の仕事を手伝ってほしいの。幸いな事にお金はある訳だし?それで武器を買ってさ……ちょっと」


お嬢様はまたも口元を押さえてしゃがみこんだ。


「おぇ……あの化け物の口の中……薔薇の香りが……」


「…吐く?吐きそう?いいぞこいこいこいこいこい」


体調が優れない人間の前で、こいつはなんて薄情な事を言うんだ。


「まぁ兎に角さ、先に森まで行ってるから、サラも来て。ゆっくりでいいからさ、取り敢えずこの辺の地図、何冊か渡しておくよ」


準備が良く心強い…のか、はたまた病人に対して容赦ないのか。


「地図くらい読めるでしょ?一応、冒険者の先輩として色々と教えるし、武器の扱い方とかも教えるからさ、街の金物屋で丁度良いの買ってきて。ちゃんと身の丈にあったやつね」


踞ってぷるぷる震えるお嬢様を置いて、リェルは遠くへと駆けていった。



「待って……私…一人で…行かない…と…いけない…なんて…」



ゼェハァ息を切らすお嬢様を尻目に、颯爽と地平線の彼方へ先輩は消えて行く。



「こんな状況なんだからーー!一人でなんとかしないとだめだよーー!!」



遠くの方から、爽やかな声がした。



お嬢様の口から、またも40000ゴールド程流れ出た。

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