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墓守と腕時計

作者: 梶野カメムシ



 おや、これは大奥様。

 本日はご葬儀、お疲れさまでした。

 それでこんな夜更けに、何か?

 尋ねたいこと?

 まあ、お入りくださいやし。

 陰気なボロ小屋ですが、墓守の家なんでご勘弁を。


 亡くなられたのは、妹君でしたな。

 先に大旦那様が亡くなった後、屋敷に戻られたそうで。

 それが拳銃自殺。

 せっかく勘当が解けたのに、奇妙な話ですな。

 いや、お屋敷の方を疑っちゃいやせん。

 それより、ご用件をお伺いしやしょう。


 はあ。

 棺桶を運ぶあっしが、やけに妹君を気にしてたと。

 特にしげしげと顔を見てたのが、気になったと。


 いや、下衆な興味とかじゃありやせんよ。

 理由はちゃんとございやす。信じてもらえるか知りやせんが。

 それでもいい? わかりやした。

 そんじゃまず、この時計の話から。


 これは『死神の腕時計』と言いやして。

 見た目は普通ですが、まともな時間を指しやせん。

 この時計が示すのは、『死亡時刻』。

 名前を(ささや)いた誰かしらの寿命がいつ尽きるのか?

 その命日と時刻を、秒まで正確に指し示すんです。

 なんでそんな時計を持ってるかって? ま、そこはお気になさらず。


 世にも珍しいお宝ですが、墓守の仕事には使えやせん。

 せいぜい爺婆の寿命を調べて、早めに墓穴を掘るくらいで。

 人に話しても気味悪がられるだけで、自慢もできやしない。


 なんで、あっしはもっぱら趣味で、この時計を使ってやした。

 有名人の寿命とか、偉人の命日が正しいのかとか。

 大奥様の亡くなられた妹君も、事件を記事で見て、たまたま調べたんです。


 すると、『死亡時刻』はまだ先でした。 

 奇妙ですわな。じゃあ、この死体は誰なんだと。

 それがずっと気になって、ご遺体を見つめてたってわけです。


 ……おや、大奥様。

 あっしに拳銃を向けて、どうされやした?

 双子の姉妹?

 姉と入れ替わって屋敷を乗っ取る?

 ああ、なるほど。

 分厚いベールの下に、同じ顔があるとは気付けやせんでした。


 いやいや、死人に口なしですかい。

 どうかご勘弁を。あっしの墓穴は誰が掘ってくれるんで?

 後生だ。どうか──

 

 あんた、本当に極悪人だね。

 こんだけ頼んだのに、容赦なく撃つなんて。


 何だい。なんで死なないかって?

 人間じゃないからだよ。

 あっしは死神。『死神の腕時計』の持ち主だ。

 銃弾くらいで死ぬもんかね。

 

 まあ、そんなに怯えなさんな。

 仕返しなんて考えちゃいないさ。

 どのみち、三日後には迎えに行くんだ。

 おっと失礼。口が滑っちまった。

 

 それでは、大奥様(・・・)

 短い余生、健やかにお過ごしくださいやし。 

 


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