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お茶会当日、公爵家に向かうと広々とした談話室に通された。ランスは前よりも精悍な顔つきになったように見えた。男同士は握手したり、肩を抱き合って賑やかに再会を喜んでいた。
ちょうど同じ頃に着いたスザンナと一緒にランスの側に行くと、「二人とも来てくれてありがとう」と、いい笑顔で言われた。
スザンナに対するのと全く変わらないあっさりした対応で、ちょっと拍子抜けした。
「ランス様はアマンダに甘い言葉をささやくか、抱きつくかと思ったのに、残念! 私がいたせいかしら?」
スザンナは何故か悔しそうである。
ソファー席に男女向かい合って座る。皆彼の話を聞きたいので、隣と体が当たるくらい近い距離で座っていた。
彼はイシュタリヤでも一月半学校に通い、その後は各地を視察に回ったり、文化や歴史を学んだり、社交に励んだりしたらしい。また別の国から来ている人達とも話す機会があったらしく、生き生きと色々な話を聞かせてくれた。
「ランス様はさらに格好良くなったわね。うかうかしてると他の人のものになっちゃうわよ。もしかしてアマンダに相手にされないから、あちらで浮気してたのかしら」
隣に座っているスザンナが小声で囁いた。
夕方が近づいてきたので、ランスが皆にお土産を配った。帰りは公爵家の馬車で送ってくれることになっていた。
「馬車は2台出すけど、両方4人乗りで一人乗れないから、エイミーは後で送って行く。ここで待っていて」
ランスがそう言うと、皆が私の顔を見てニヤニヤとしながら
「じゃあまたね」「また会いましょうね」「また舞踏会で」「お幸せに」
などと、言いながらランスと部屋を出て行った。
部屋に飾られた絵を眺めているとランスが戻ってきた。
「エイミー待たせてごめん。まだ渡したいものがあるし、見せたいものもあるんだ。嫌でなければ、俺の部屋へ行きたいんだけど大丈夫?」
「いいけど」
「あんまり俺に近づかない方がいいぞ。ずっと抱き締めたいのを我慢してるから、うっかり抱きつくかもしれない。ご希望があればいつでもするけど」
「やめてね」
「相変わらずつれないなあ。俺は君への思いが募る一方なのに」
「どのお芝居のセリフ?」
「セリフじゃなくて心の叫び」
「遠吠え?」
「伝わってないという意味で、月に向かって遠吠えしてるようなもんだな」
ランスはため息をついた
「抱きしめたいのを我慢してるのに、部屋へ誘うなんて俺はドMなのか?」
ブツブツ呟きながら、ランスはさっさと歩き始めた。私は彼の後について歩いた。
部屋の扉を開け放ったまま二人で部屋に入る。
本の沢山並んだ本棚があり、壁には海の見える景色が描かれた、大きな風景画があった。
「そこに座って」
ランスに言われるままソファーに腰をおろす。
目の前の机の上に色んな物が置かれていく。本とお菓子らしき箱。包装されリボンのかけられた袋や、箱。
「これ全部私へのお土産じゃないわよね」
「全部エイミーへのお土産」
「ええ?! 買いすぎでしょ」
「店に入るとエイミーの顔が思い浮かぶんだから、しょうがないよ」
「いくら私でも、お土産が少ないと怒ったりしないわよ」
「そういうことじゃないけど……全部開けて見てよ。喜ぶ顔が見たくて買ったんだから」
そう言うとランスは私の向かいに座った。私は、お土産を開けていく。
「すごい! これは何?」
箱を開けた瞬間、虹色の美しい模様が目に入った。
「これは螺鈿だよ。貝殻で出来てるんだよ」
「虹色に光ってるわ。本当に綺麗ね」
それは裏に螺鈿を張り付けた大きめの手鏡だった。
他にも見たこともないものや、美しいものが沢山あった。「凄いわ」とか、「綺麗」とか開ける度に思わず声が出た。ランスは、色々と説明してくれながら、とても嬉しそうだった。
その後ランスは立ち上がり、本棚から薄いけれど大きな本を持って来て、私の前に座ると本を広げた。
「これ見てよ。すごいだろ。印刷したものに色がつけてあるんだ。イシュタリヤのあちこちの風景が描いてある。俺が行った所はここだよ」
そう言いながら、また色々話してくれた。
日が暮れてきて、部屋の中が薄暗くなってきた。
「ごめん、長いこと引き留めて。馬車も帰って来てるだろうな」
ランスはそう言うと、真剣な顔をして私を見た。
「俺頑張るから、これからの舞踏会のパートナーは俺にしてくれないか? アマンダが離したくなくなるような良い男になるから」
「…………友達としてならパートナーをお願いしたいわ」
ランスはガックリと頭を垂れた。
「…………分かった。友達としてパートナーを務めさせてもらうよ。誰にも譲らないぞ!」




