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ハニー、俺の隣に戻っておいで  作者: 浦木 理衣
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第7章 売春発覚!?

イザベラはニーナが向かい側に落ち着いて座っているのを見つめた。 彼女は自分の目を信じることができなかった。


そして「ニーナ、もっと食べたほうがいいよ」とぎこちなく笑いながら言った。


ニーナはイザベラの表情に注意を向け、じっくり観察した。


彼女は心理学の訓練を受けていたので、人の心を読むコツをわかっているのだ。


ニーナはスプーンを置き、バッグからフェロモン香水を取り出しイザベラの前に置いた。


イザベラは心臓が飛び出しそうになり、顔が凍りついた。

「ニーナ、どうかしたの? なんで私があげた香水持ってきたの?」


ニーナは気づいているのかしら? イザベラはやきもきした。


「あごが下がり、口がうっすら開いている。つまり、驚いているが、それ以上に怖がっている」


イザベラの表情を読み取ると、ニーナはそっと彼女を見つめ微笑んだ。

「イザベラ、この香水が私をどんな目に遭わせたか知ってる?」


それはほとんど警告だった。 彼女の全身は少しくしゃっとして、きまり悪さに取り憑かれているようだ。


これは、イザベラが状況を打開しようとする時にいつも見せる潜在的な反応だった。


「ニーナ、なんの話? わけがわからないんだけど」

イザベラは、ニーナが事実に気づいている可能性を恐れて、彼女の目を見ることができなかった。


そして緊張を隠すように水を一口飲んだ。


「イザベラ、人間は嘘を吐くと喉が乾くのを知ってる?」

ニーナは躊躇なくすっぱ抜く。


イザベラは少しイライラして、「友達の表情は読んで分析しないって言っていなかった?」と尋ねた。


彼女の目は細められ、筋肉は緊張して眉が固まっており、 唇はすぼまって、口角にはシワがよっている。


明らかに怒っているのだ。


しかし、恥ずかしさはバレた時にだけ怒りに変わるものである。


つまり、怒っている人はたいてい自分が悪いのだ。


「イザベラ、どうして嘘つくの? 私は裏切られるのが嫌いなの、知ってるでしょう?」


「ニーナ、違うの! 別に何か企んでいたわけじゃないわ。 ただ、いい匂いだなと思ったからあなたにあげただけよ。 私があなたを酷い目に遭わせようなんて思うはずないじゃない! 私たち仲良しじゃないの」

涙がイザベラの目に溢れた。


イザベラはニーナをよく知っていた。 ニーナは自分の美しさをわかっていて、いつも鼻にかけている。 だから、女の子たちに嫌われているのだ。


イザベラは、まさにそのせいで、彼女がニーナの唯一の友人であることを知っていたのだ。 ニーナは大事な友達を失うわけにはいかないので、何もできなくなってしまった。


その上、イザベラが金曜日の夜の出来事と関係があるという証拠はない。


イザベラは考えながら内心ほっとしつつあった。 そして、涙をぬぐいながら「ニーナ、よく考えてよ。 本当にわざとだったら、そんな香水あげるわけないと思わない? 私が不利になるんだから。 ニーナ、信じてよ。 そんなこと友達には絶対やらない」と言った。


確かに理にかなっている。


イザベラが本当にこそこそ企んでいたのなら、証拠は隠滅すべきなのだから。


ニーナの表情が和らいだ。 何はともあれ、二人は親友なのだ。


ニーナはイザベラに腹を立て続けることができなかった。


「まあ、結局大丈夫だったし」

ニーナが落ち着いた様子で締めくくった。


それを聞いたイザベラはようやく息をつくことができて、 安堵するようになった。


けれども、ニーナの身に何も起こらなかったのを知ってムッとしていた。


彼女を陥れる次の計画はもっと念を入れなければいけない。


二人はしばらく談笑していたが、それぞれの教室に向かうために別れた。


ニーナが見えなくなるとイザベラは笑顔を作るのをやめた。そのとき彼女は本当にいきいきしていた。 しばらくして、イザベラは今度こそうまくやったことに気づき、大笑いした。


ニーナは、教室に座るとすぐに携帯電話で通知を受け取った。


通知音が鳴った。


彼女の銀行口座に10万円送金されたことを知らせているのだ。


ニーナが状況を理解する前にイザベラが電話をかけてくる。


「ニーナ、まずいよ! 今すぐ大学のフォーラムを見て! まずいことになってる」


ニーナはキャンパス・フォーラムを開き、トップの投稿を見た。 とても目を引くタイトルなのだ。


「なんと! キャンパスの女王ニーナ・ルーに売春発覚!」


投稿には2枚の写真がつけられていた。 ひとつ目は、ニーナがよれよれの服を着てフォーシーズンズ・ガーデンホテルから出てくるところを写したものだ。


もうひとつは、彼女の口座に送金された10万円だ。


一体何が起きているのか?


この投稿は、ほんの数分で一万回もシェアされてしまった。


クラスメートの大半がそれを見てしまったことは明らかだった。 彼らはほぼ全員、ニーナに嫌悪の眼差しを向けていた。 女の子たちは彼女を侮辱し、軽薄に口笛を吹いてよこす男までいる。


それまでニーナはいつも高飛車で、みんな彼女とすれ違うのさえ憚っていた。 そして、キャンパス中の男の子たちから女神の座に担ぎ上げられていたと言ってもいい。


大半の男子学生は気圧されて彼女と話す勇気さえなかった。 それが今や口笛を吹いてよこすだけではなく、当然のようにちょっかいを出してくるのだ。


女子学生が皮肉を込めて「ニーナ、そんなにお高くとまった振りなんかやめたら? みんなあんたの売春のことを知ってるのよ。 無邪気な振りしても無駄よ」と言う。


「あんたには関係ないわ。 あれこれ言われる筋合いはないわ」


ニーナが彼女を一瞥して平然と言い返すと、彼女はすぐに黙った。


ニーナは周囲のいやらしい視線と悪口を無視しつつ、落ち着いた様子でノートパソコンをバッグから取り出す。


ウェブサイトを開くと、そこにはとんでもない書き込みが並んでいた。


「あのビッチ、純粋無垢な振りをしてるぜ」

書き込みは主にニーナを軽蔑していた女の子たちからだった。 彼女はずっと高嶺の花だったのだが、ついに引きずり下ろすチャンスがやってきたのだ。


男子学生が「一晩でたった10万円? 俺のとこに来いよ。 十万一千円やるから」と書き込む。


ニーナのことになると、みんな優しさなどかなぐり捨ててしまったようだ。 彼女を侮辱しながら、誰も良心の呵責など感じていない。


「こんにちは。私は情報学科の学生だけど、 投稿者のIPをチェックしてあげようか?」

その書き込みもとても人気だった。別に内容が良かったからではない。単にみんなその学生の悪口を言っていただけだ。


そのニックネームが「ミミミシェル」の書き込みを見て、ニーナはにっこり微笑み「ありがとう。 でも、投稿者のIPなんて簡単にわかるわ」


ニーナは細い指でノートパソコンのキーボードを素早く叩いた。 うっすら微笑みを浮かべて落ち着いた様子だ。


「確定」 一分もしないうちに匿名の投稿者のIPが表示され、学内にいることが明らかになった。


そして詳細がポップアップされる。


「イザベラ? イザベラが投稿したの!?」


ようやくニーナはすべてを理解した。


イザベラはわざと香水をかけてきたのだ。手近な男に処女を奪わせるために。


二枚の写真もイザベラが撮ったのだろうか?


ニーナはその事実を受け入れるのをためらい、慎重にチェックし直した。 けれども、携帯の機種など、証拠はすべてイザベラを指していた。


「間違いない。でも、なんで?こんなことしても意味なんかないのに? 私が綺麗だから嫌ってるの?」


しばらくの間、ニーナはすべてが嘘であるような気がした。


突然、優しい声が彼女の耳に届く。 力強いが、落ち着かせれくれる声だ。


「辛いのか?」


ニーナが振り返ると、人影が現れた。 彼は白いバスケットボール・ウェア姿で、 汗の雫が栗色の短い髪を濡らし、顔に滴り落ちていた。


バスケットボールで疲れているのが見て取れたが、それでも十分かっこいい。


アルバート・ソンはニーナのそばに座って首を傾げ「投稿を見たよ」と言った。


ニーナは取り乱していた。 書き込みのせいでも投稿のせいでもなく、イザベラが投稿したという、その事実のせいで。


「どうした? これがそんなに辛いのか?」

アルバートは、ニーナが他人が何を言おうと気にしないのを知っていた。 然もなくば、この数年間の口さがない噂でとっくに押しつぶされていたはずだ。


「うん」

ニーナは身を仰け反らせるとコンピューターを閉じた。 そして、すっかり落ち込んだ口調で「友達にやられたの」と言った。


「友達?」

アルバートは眉をひそめた。

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