それは白き獣
世にも珍しき世話焼き幼なじみとよくいるぐうたら主人公の話です。剣も魔法もある世界だったりします。魔法はまだ出てませんが魔法ではなく「奇跡」と言ったりします。その時になったらまた詳しく説明するかもしれない。
「ハク、起きてー!おーきーてー!」
慣れ親しんだ声が聞こえ、俺の意識は覚醒する。
「あ!ようやく起きたね!もう!毎朝この時間に起こしてるんだからちゃんとすぐに起きてよー」
と朗らかに笑う少女、名前は猫又 黒と言う。幼なじみで俺の親が二人揃っていなくなった日から毎日のように俺を起こしに来るようになった。昔、理由を聞いたら
「ハクは親がいないとずっと寝てるでしょ!そんなのダメに決まってるじゃん!」
と可愛く怒っていたので、今日に至るまで俺はこの朝のイベントに甘えさせてもらってる次第だ。というかもうクロが居なかったら朝起きれる自信が無い。
「ほら!今日は研究所に行く日なんだから、早く準備しなさいよ!」
と言われ、ようやく今日の日が大事な日か思い出す。
「やべ!今日が獣卸の日か!」
獣卸とは、年一回、十八歳になる少年少女が戦争に適応するために獣の遺伝子を付与されるという一年の中で一番大事なイベントなのだ。今年は俺やクロなんかも参加することになってる。
「まぁまだ戦争は終わりそうに無いからね……早く終わって欲しい、が本音だけど国のためだもん」
ちなみに戦争しているのは隣の国『ティゼール』で、この国『ヴィスラ』とは、およそ200年もの間戦争を続けていた。
戦争の理由は現在では不明とされており、一つ分かるのは、『相手の国民を全員滅ぼすこと』だけだ。
そしてこの獣卸、国民の義務である。わかりやすく言うなら「御國の為なら何とやら」といった感じだ。もちろん俺たちはそれでいいと思ってるし、お国のために死ねるのならそれは名誉ある死だと思っている。
「私たちは期待されてるんだからね?もっと国民としての自覚を持たないと……」
「そうは言っても、もうクロがいないと身体がダメになってるんだよ」
「もー!そんなこと言ってー、上手なんだからぁ」
と朝から見るには胸焼けしそうなほどのイチャつきぶりを見せるこの二人は別に付き合ってたりはしない。本当に早く爆ぜて欲しい……というのは周知の事実だったりもする。
「さて、そろそろ行くか、研究所」
「そうだね!早く終わらせよう!」
……と、ここで二人が研究所へ向かうため少し時間があるので獣卸について簡単な説明をしよう。
獣卸とは、先程も言った通り、獣の遺伝子を人間の身体に付与するというもので、長年の研究によって確立された技術だ。
効果は人それぞれ……というより何の獣の遺伝子が注入されるかは、注射する側も知らなかったりする。
主に有名な動物、犬や猫、狐やら熊やら様々な獣の遺伝子が存在しており、それらの獣の一部を人間の身でありながら使えるというものになっている。
わかりやすい例えをするなら犬の遺伝子を貰った人間は嗅覚が鋭くなる、熊なら力、狐なら知恵……そして稀に幻獣の遺伝子も存在する。元々狐だった遺伝子が突然変異し、物怪を操る妖狐に変異、その力を得た人間はもちろん物怪を操る妖狐の力を手に入れることができる、ということだ。
すなわち、この獣卸は割と将来に左右する大事な儀式と同じようなものである。
「さて……道に迷っちゃった?」
とここで先程から森を進んでいたクロが首を傾げる。
しっかりと地図を持ってはいるが彼女は実は方向音痴なのである。そして例に漏れずもちろんハク自身もしっかりと方向音痴なのである。
「道に迷……わないわけないよなぁ、そもそも俺ら方向音痴らしいし……」
「えー!どうしよう!!!どうすればいいの!!?」
「とりあえず、この森から出るか、道路とかに出れば道を進むだけでいいだろ」
「そ、そっか!そうだね!」
ということで二人揃って適当にまっすぐ進み始める。だから道に迷うんだよ!というツッコミは二人しかいないこの場所では聞こえることはなかった。
そしてそれから数分。
「……なんか森深くなってない?」
「確かになんか暗くなってきてる気がするな」
「だ、大丈夫…かな?」
「いざって時は俺がちゃんと守るから安心しろ」
「ハク……うん!分かった!」
とさすがに森の雰囲気も暗く、そろそろ冗談だったら笑えなくなってくるほどに森の深いところに行きかけた時、それは不意に響いた。
「ガキ二人か、ここに何の用だ?」
それは森の奥から放たれる。その声の重圧だけでも身体が本能的に竦むかのようだった。
「俺たち、研究所に行こうとしてて……で道に迷ってここに来たんですけど……」
「迷子ってやつか、研究所…あぁそういや今日は獣卸の日なのか、全く、アイツは何やってんだ」
と声の主はやたら長い溜息をつく。
「おいガキ共、ここがどこかわかってんのか?」
「いや、わかってないです……」
クロは俺の後ろに隠れて様子を伺っている。俺は絶対にクロを守ってみせる、と堂々と構えていた。
「ここは俺のテリトリーなんだよ、ガキが迷い込んでいい場所じゃぁねぇ」
叱責するような、それでいて弱者に対し圧をかけるようなそんな声だった。すると森の茂みからゆっくりと虎が現れる。
「姿を現さないで話してて悪かったな、俺は虎島って言う、てめぇらは?」
「あ、狗神 白って言います」
「私は猫又 黒です……」
「そうか、ハクにクロ、姿無き敵に怖がらずに立ってたことを褒めてやろう。中々骨のあるやつがいないと思ってたが……まぁ偶然の出会いに感謝ってやつだな」
思ってたよりもいい人のオーラがする。
「さて、こんなところにいても研究所までは遠い……というかなぜお前らほぼ反対側のこの場所まで来れた?」
「いや、地図……見てたんですけどね?」
「……まぁ仕方がない、さてお前らは中々骨がある奴らだから、俺が特別に研究所まで連れて行ってやろう」
「いいんですか!!!」
「もちろんだ、俺もお前らみたいなやつは見ていて面白い。さ、乗れ」
と虎島さんが自身の背中を指す。コレは虎の背中に乗って疾走するって感じなのかな?
「ほら、早くしないと、俺の気が変わるぞ……俺が送ってやろうと思ってる内に早く乗るんだな」
「あ、ありがとうございます!!!」
ということで二人で虎島さんの背中に乗る。
「よし、乗ったな?飛ばすからしっかり捕まっとけよ!!!」
と言った瞬間、俺たちは風になった。
虎さんイケメン