3.暗雲
彼女と僕は互いに見かけると話すようになっていた。
というか、愛想が良いとは言えない僕に懲りることなく彼女は心のドアをこじ開けていった。
約束をしたり遊びに行くまでではないが、友達と言えるくらいには打ち解けたと思う。
その日もたまたま見かけたので、喋っていた。
ただいつもと違い、場所は駅ビル。
大学のある駅から15分程電車に乗ると着く。
僕は買い物をしようと街の方まで足を運んだのだ。
大学周辺の買い物をする場所といえばスーパーくらいなので、学生は休日に街へ出る事が多い。
彼女もその多数派であったらしい。
1人でウインドウショッピングをしている。
いきなり話し掛けたらどうなるのだろう。
いたずら心が燻られる。
「お前もいつも1人じゃないか。」
そして僕はこの間、彼女に言われた事をまだ根に持っている。
案の定、彼女はびっくりした様子でこっちを見たが、
「たまたまだもん!」
とすぐに言い返した。
どうやら僕と同じだった様だ。
そのまま店の前で喋っていると、1人の女の子が出てきた。
「…?」
その女の子がぽそりと言った。
名前を言ったようだが聞き取れない。
「あっ…。」
僕の隣にいた彼女が女の子を見て固まってしまった。
初めて見る表情だった。
お店から出てきた女の子は、そのまま彼女の目の前まで近づいてきた。
「リュウの次はその人ってわけ。要らなくなったなら返してよね。」
そう言い捨てると、今度は僕に向かって
「この子に関わらない方がいいですよ。」
とだけ言って、くるりと踵を返しスタスタと歩いて行った。
僕はいきなりの事に口をパクパクさせるだけで終わってしまった。
彼女に視線を戻すと、悲しいような申し訳無さそうな、何にしろ見た事のない、彼女には似合わない表情をしていた。
僕はいつもの彼女に戻って欲しい一心で頭の中の辞書を必死にめくり続けていると、
「ごめんごめん!巻き込んじゃって!」
と彼女は笑って言ってきた。
僕があたふたしているのに気がついたのだろう。
しかし、その笑顔はいつもの笑顔とは違う気がした。
こんな時くらい気の利く言葉を掛けてあげたい。
「いや、別にいいけど。」
…僕のボキャブラリーの少なさを呪う。
辞書検索も虚しいまま、良い言葉も掛けられない僕。
彼女はどこか固い表情で 、
「じゃあ、また学校で!」
と明るく言って足早に帰って行った。
その日を境に、ギラギラと照りつけていた太陽は分厚い雲に隠れるようになっていた。