1.真夏日
「あっつ、天気良過ぎだろ。」
まだ5月だと言うのに、その日は真夏日となっていた。
雲1つない快晴。
青い空が何にも邪魔されず広がっている。
大学の講義が昼までだったため帰宅しようと駅までやって来たが、ちょうど電車が出たところだったらしい。
田舎なので周りにはコンビニとカレー屋さんしかない。
暇を潰す所がないので、仕方なくこのエアコンの効いていない駅のベンチに座っていた。
「なんで天気が良いか教えてあげよっか!」
僕の視界に突然女の子が現れた。
「私の気分がサイコーに良いからなんだよー!」
満面の笑みで前のベンチに座る。
「へぇ。」
変な人には関わらないのが吉だ。
僕は立ち上がると、自動販売機へ向かう。
外を見ると少し雲が流れていた。
太陽光が遮られる。
「興味無さそうな返事ー。」
少しむくれて、だけどなお話しかけてくる。
無視してコーラのボタンを押す。
「私、魔法が使えるの。」
カシャン!
手が滑って取ろうとしたコーラを落としてしまった。
「びっくりした?」
驚いて落としたと思ったらしい。
いたずらっ子みたいにニヤニヤしながらこっちを見ている。
「違う。手が滑っただけ。」
ベンチに戻り、さっきとは逆の彼女から離れた位置に座る。
タブを開けると案の定、噴いた。
それを見た彼女はケラケラと笑いながらベンチを立って、そのまま改札口を出ていった。
どうやら僕が乗るのとは逆方向の電車が来たらしい。
嵐が去ったと思っていたら、出ていった彼女がひょこっと顔を出した。
「どうした?」
忘れ物かと思って聞くと、
「言っとくけど、魔法って嘘だから!気分と天気が同調するだけだからー!」
とだけ言い捨てて行った。
僕はまたからかっているのだと思って、
「はいはい。」
と適当にあしらった。
そうこうしているうちに、さっきまでの雲が流れて行ってしまったらしい。
再び陽射しが僕を照らし出したので、影になる方へ移動した。