手
4章 手
私は彼にことばかり考えるようになった。何か美味しそうなレストランを見つけた時、景色が綺麗な場所を知った時、面白い映画があると聞いた時、何か情報が来るとすぐ彼のこともセットで考えてしまっていた。
彼とパスタを食べた帰り、並んで歩いた。その時不意に、手と手が当たった。彼の手は暖かかく、大きかった。その手を繋ぎたい。そう思った時、私は彼のことが好きなのだと理解した。好きなものを自信を持って好きと言える彼、時々妙に悲しそうな笑顔を見せる彼のことが好きだと理解した。手がぶつかった一瞬、私は彼に恋をした。
「あ、ごめん」
そう言って彼は少しわたしから離れた。私はまた彼に近づいた。また手がぶつかったとき、私は彼の手を握っていた。彼は動揺していたが、また離れることはなく、私の手を優しく握り返した。幸せだった。
私の家に近づくたび、心臓が強く拍動していることがわかる。いつもより私はゆっくりと歩みを進めた。彼も私のスピードに合わせてくれていた。家に着いたら、家の前でこの気持ちを伝えよう。好きだと、あなたといる時間が好きだと、笑顔が好きだと、正直にこの気持ちを打ちあけよう。家まであと少しとなった時、彼の携帯が鳴った。電話だ。彼は携帯を見ると動揺するように私の手を離し、電話に出た。はい、と返事をする彼。その声は緊張していた。そして最後に22時に駅ですね、わかりました。と言って電話を切った。彼はため息をして
「ごめん、バイト入っちゃった。また明日大学で」
悲しそうな笑顔だった。私は、うんとだけ答え、彼は急いで自分の家に歩いていった。私は彼が見えなくなるまで目で追っていた。
その日、久しぶりに夢を見た。
書き貯めているものはここまでになります。
以降、投稿は気まぐれになります。すいません、、、