様々な日々
3章様々な日々
あの日から彼とよく会うようになった。講義を一緒に受けることはなかったが、互いに大学の講義が終わった後、カフェに行って彼の生物愛に溢れた話を聞いたり、夜ご飯を食べに行ったり、冬になり吐息が白くなるようになるころには泊まりはしないが、お互いの家に行き来するようになった。側から見たら付き合っていると思われるような、そんな日々を過ごしていた。
彼について色々なことを知った。彼が生物以外の授業で寝ているのは夜日雇いのバイトをしていて日中は眠いからだそうだ。給料はいいようで、彼の財布にはいつも沢山の万札が入っていた。
「ブラックじゃないけど、いきなり呼び出されたりするから楽ではないよ」
彼は私にこう言った。そう言う彼の顔はどこか悲しげな作り笑顔で、その時私は少し寂しいような、悲しいような、胸が痛くなるような複雑な感情を感じていた。だからかわからないが、私は彼のアルバイトの内容について詳しく聞くことはなかった。
彼は研究者を目指していることも知った。子供のことから漠然と生き物が好きだった彼は、自然に生物学にのめり込んでいったそうだ。
「無数の種類の生き物がいるけど、その1種類1種類って自然という神様が作り出した子供だと思うんだ。それぞれどこか良いところがあって、悪いところがある、時間をかけて長所を活かしながら短所を減らしていく、それが進化。僕は、そのとてつもない時間をかけて進化した生き物の知恵を少し借りて僕ら人間の生活に貢献したいな」
生き物の知恵を借りて、人に貢献したい。それは彼の口癖のようなものだった。二人で毎日のように同じ道を歩いているのに、彼は毎回何か発見をする。なんとかという植物が生えているとか、あの蜘蛛は巣に大きな虫を捕まえているなとか、あの木は葉が散るのが早いねとか、普通の人が興味を持たない小さな変化を彼は見つけていく。毎日同じ道だ、変わらない毎日だ、退屈な毎日だ、といつも思っている私が彼と歩く道を、どんな生き物も尊重して学ぼうとする、一見すると変わらない毎日を楽しそうに、真剣に生きる彼に惹かれていったことは言うまでもなかった