七話 力持ちのクマ
逆さ虹の森の動物たちは、逆さ虹に住んでいる龍を連れてくることにしました。
逆さ虹の上まで行かなければなりません。
しかし、逆さ虹は空の上にあります。とても高いので、簡単に行ける場所ではありません。
動物たちの中で空を飛べるのは、コマドリだけです。
コマドリなら逆さ虹まで行けないかと考えて、ヘビは尋ねます。
「コマドリさんは、逆さ虹まで飛んで行けませんか?」
「さすがに高すぎます。あそこまでは飛べません」
コマドリでも飛べないとなると、どうすればいいのでしょう。
賢いキツネは、ある方法を思いつきます。
「ドングリ池から逆さ虹に行けませんか? だって、ドングリ池に投げ込んだドングリは、逆さ虹に住んでいるリュウさんのところに行っていますよね?」
「さっきドングリ池にもぐったが、逆さ虹には行けなかったぞ」
キツネの考えた方法ならうまくいくかと思いましたが、アライグマの言葉で無理だとわかってしまいます。
キツネは次の案を出します。
「もっと高い場所から飛んだら届きませんか? たとえば、山の上からとか」
「山の上からでも、ちょっとだけ届かないと思います」
コマドリは、山の上から飛んでも無理だと答えます。
困りました。本当にどうすればいいのでしょうか。
「ちょっとだけ届かないんですよね。じゃあ、みんなの力を合わせればいいです」
キツネがとっておきの作戦を立てました。うまくいくかもしれません。
まずは山にのぼります。山は、ドングリ池とは反対の方角にあります。
みんなで行ってみることにしました。
逆さ虹の森は、大きな川で半分にわかれています。川には吊橋がかかっていて、向こう側に渡れますが、今にも落ちそうなくらいボロボロになっています。
オンボロ橋と呼ばれる吊橋です。
オンボロなので、みんなはあまり近づきません。
特に、怖がりのクマは、絶対にオンボロ橋を渡ろうとしません。
でも、今だけは勇気を出します。
みんなで龍を助けようとしています。クマも龍を助けたいと思っています。
自分だけが怖がっていてはいけません。
体が大きく、体重の重いクマがオンボロ橋に乗ると、ミシミシと嫌な音が鳴ります。今にも壊れてしまいそうな音で、とても怖いです。
「クマさん、ゆっくりと渡れば大丈夫ですよ!」
「急がなくていいです。ゆっくりと」
クマ以外の動物たちは先に渡っています。ヘビとコマドリが声援をくれました。
キツネやアライグマは心配そうに見守っています。
いたずら好きのリスも、いたずらをしません。いたずらをしてはいけない時だとわかっています。
ゆっくりと、ゆっくりと。
一歩ずつ、一歩ずつ。
時間はかかりましたが、クマはオンボロ橋を渡り切りました。
「こ、怖かったぁ……」
「クマさんは勇気があります。怖がりなんかじゃありません」
「ありがとう、ヘビさん」
クマがオンボロ橋を渡りました。今度はみんなで山にのぼります。
小さなリスは歩くのが大変なので、クマの背中に乗っています。
頂上までのぼってから、みんなの力を合わせた作戦を始めます。
クマが一番下になって、クマの背中には動物たちが乗ります。
クマの上にアライグマ。
アライグマの上にキツネ。
キツネの上にヘビ。
ヘビの上にコマドリ。
コマドリの上にリス。
みんな乗りました。
一番下になっているクマは重くて苦しいですが、体が大きいので力持ちです。
「いきますよ!」
クマは一生懸命に体をふるわせます。
ヘビを背中に乗せて、飛ばして遊んだ時のようにブンブンと。
いいえ、あの時よりもずっと力強く。
「えーいっ!」
クマのかけ声と共に、アライグマが空に飛ばされました。
アライグマも大きくジャンプしています。だてに暴れん坊ではありません。力には自信があります。
クマの力とアライグマの力で、大きく空に飛びあがりました。
「キツネ!」
「はい!」
アライグマの合図があり、背中に乗っているキツネがジャンプします。
キツネの背中に乗っているヘビは、細長い体を空に伸ばします。
空に伸びたヘビの頭から、リスを乗せたコマドリが飛び立ちました。
コマドリだけの力では、逆さ虹に届きません。
みんなの力を合わせれば、近いところまでは行けます。
コマドリは、翼をはばたかせて空高くへ飛びます。翼が疲れても飛びます。
逆さ虹の近くまできて、これ以上は飛べないとなったところで、リスがジャンプします。
「あとは任せましたよ、リスさん!」
「まっかせてよ!」
小さな体から、元気いっぱいの声が聞こえました。
みんなの力を合わせて、リスだけが逆さ虹にたどり着きます。