五話 賢いキツネ
アライグマがドングリ池にもぐってみれば、投げ込んだはずのドングリが落ちていなかったと言いました。
ドングリ池の秘密は深まります。
お願い事が叶うのはなぜでしょうか。ドングリが落ちていなかったことと関係があるのでしょうか。
「ドングリが落ちていなかったのは、誰かが食べたからじゃないでしょうか?」
発言したのはヘビでした。
「クマさんやリスさんもドングリを食べますよね? キツネさんもです。他の動物がドングリ池のドングリを食べたのかもしれません」
「ドングリを食べたいなら、地面に落ちているドングリを拾って食べますよ。木に生っているドングリを食べてもいいです。ドングリ池にもぐって食べる必要はありません」
「あ、そうですね。キツネさんがドングリ池にもぐって食べているところは、見たことがありません」
お人好しのキツネの意見に、ヘビも納得しました。
キツネは、お人好しなだけではなく頭もいいです。賢いのです。
「クマさんだって、ドングリよりもハチミツの方が好きですよね? ドングリを食べるなら、ドングリ池に投げ込んでハチミツをもらう方がよくありませんか?」
「はい、確かに」
「食べるよりもいたずらに使う! 中に虫が入っているドングリを、見つけやすい場所に置いておくんだよ! ドングリを見つけた動物は、虫が出てきてビックリするの!」
クマはドングリをそのまま食べるより、ハチミツをもらいたいと言っています。
リスもいたずら好きらしい使い方です。
とにかく、わざわざドングリ池のドングリを食べる必要はないとわかりました。
「じゃあ、ドングリはどこに消えたんでしょう?」
「わからないな」
コマドリが疑問を投げかけて、アライグマがわからないと答えました。
他の動物たちもわかりません。
「ドングリ池にお願い事をしてみましょう。ドングリはどこに消えたのか教えてもらうんです。いえ、ドングリ池の秘密を教えてもらえばいいんですよ」
キツネは賢いので、素晴らしい方法を思いつきました。
一番簡単な方法です。ドングリ池にお願い事をすればいいのです。
動物たちはドングリを全部投げ込んでしまい、誰もドングリを持っていません。
お人好しのキツネが拾いに行きました。
戻ってくれば、さっそくドングリ池にドングリを投げ込みます。
「ドングリ池にドングリを投げ込んでお願い事をすると、どうして叶うのでしょうか。教えてください。お願いします」
キツネのお願い事は聞き届けられます。
ドングリ池の水面にうつったのは、逆さ虹でした。
逆さ虹の森の由来にもなっている、立派な逆さ虹です。
お願い事が叶うのは、逆さ虹のおかげなのでしょうか。
これでは、ドングリ池の秘密が解けたとは言えません。
キツネは、もう一度ドングリ池にドングリを投げ込みます。
「ドングリ池にドングリが落ちていないのは、どうしてでしょうか。教えてください。お願いします」
キツネのお願い事は聞き届けられます。
ドングリ池の水面から逆さ虹が消えて、動物の姿がうつりました。その動物がおいしそうにドングリを食べている様子です。
ヘビは、誰かがドングリを食べたのではないかと言っていました。本当に食べていたようです。
ドングリを食べている動物は、クマでもリスでもキツネでもありません。
知らない動物がうつっています。
動物の周囲には、たくさんのドングリがあります。これだけあれば、お腹いっぱい食べられるでしょう。
でも、おいしそうに食べているのに、少し寂しそうに見えました。
「仲間がいないのでしょうか。一人ぼっちは寂しいです」
キツネは、一人ぼっちの動物がかわいそうになりました。
「ヘビさんの知り合いですか? 姿が似ています」
「いいえ、知りません」
水面にうつっている動物は、ヘビに似ていました。細長くてにょろにょろしています。
だから、キツネはヘビの知り合いではないかと考えました。
ところが、ヘビは知らないと言っています。
誰も知りません。逆さ虹の森の仲間ではない、一人ぼっちの動物でした。
キツネは、ドングリ池にドングリを投げ込みます。
「あなたは誰ですか? 教えてください。お願いします」
キツネのお願い事は聞き届けられます。
よく晴れた青い空から、声が聞こえてきました。
「龍」