優秀な友がいる職場は安全なのだろうか。
この世界は一度滅びている。
これはある一定層の学者が支持する現在最有力の学説だ。
この世界には魔法があり、モンスターがおり、科学がある。この三点は発掘された古代のデーターのどれを見ても同居することはなかった。
魔法がある世界は、科学はなく。おとぎ話として語られ、科学のある世界は魔法などまやかしで理屈を追い求めて記載されている。
だがある年代を境に、一切の歴史的情報が途絶えた。現在保管されている最も新しい歴史にはこう記されている。
「魔法とは我々が想像し理解することすら困難な科学である。だが我々が作り出したコレは紛れもなく魔法である」
大量の資料の中に最後に付け足された一文は当時の学者を大いに震え上がらせた。と同時に嘆いた。
この世界は、古代の我々が作り出した仮初の世界なのだと。神は我々だったのかと。
ゴトン、ガタン。意識の中に不意に「振動」と「騒音」という情報が入ってきたとき、僕は意識を失っていたのだと改めて確信した。
そして今正に閉ざされた意識が舞い戻ってきていることも。
ここまで一切の振動や騒音を感じなかった事から今乗っているモノは半自動化された馬車だろう。
メインの動力を馬とすることで燃費が良く、車輪部分を機械化することで、振動や騒音を防止するとともに車輪の摩擦による蓄電で馬の動きをサポートするものだ。
この手の馬車は大変高価なので恐らく政府関連。そしてこれを使うという事は勾配の激しいであろう山道、それも一般的に舗装された道ではなく、人があまり踏み入らない深い森の中だろう。
そこまで認識した上で目を開けるとそこは最早見慣れた光景であり間違えるはずもない荷台の天井である。何処に向かっているのか、どういった状況なのかと混乱しつつも、
体の異変を探るように意識を傾けるが、一切の不自由を感じることはなく、ますます混乱する。
(拘束されているわけではない・・・?)
むくりと起き上がると一斉に周囲から視線を感じ身構えるが敵意を感じるわけでも悪意を感じるわけでもなくなんというか「同情」という言葉がぴったりなどこか懐かしい感情を感じた。
「おはよう」
何かに口もとを覆われたような声で語りかけてきた方向に視線を移すと、そこには全身を金属の鎧で覆った人物が座っていた。
腕や背面、腰に武装と思われるものがあるにはあるが、黄色を基調としたソレらは無駄を一切省いた滑らかなボディーラインを持ち合わせており見事な機能美を実現している。
僕が知る上でその様な奴は一人しか知らない。
「おはよう。相変わらず良い仕事しているようだね。Ms.researcher」
「相変わらず巻き込まれてますね。 Mr.ranger」
リサーチャーと呼ばれた彼女は、言葉の意味通り研究者であり、ロボット工学に抜きんでている。
自身が「実践テスト」と称して前線に出てくる変わり者の一人であり、彼女が身を包んでいるのは古代で言う所のパワードスーツというそうだ。
全長2.5mほどの巨体は使用者の戦闘能力を大きく飛躍させるものであり、
現在彼女が着用しているものは基本性能の拡充を追及した汎用機だ。ほかにも見たことがあるものとしてはもう三種。噂によればもう五種存在するらしい。
因みに世間の評判としては、「大量破壊に特化した扱いにくい変人」である。
ダンジョンに潜らせようにも最悪崩落させうるし、野党退治には過剰な戦力であるところからよっぽどの大事でない限り招集されることはない。
彼女もそれを望んでいるようだ。
そんな奴がこの場に集まっている事に一種の安堵と、嫌な予感を感じつつ周囲を見渡すと、自分と彼女2人を除いて他に3名の姿があった。
二人は見慣れた政府の制服であるが……。
「……もが、ふが…」
そこには厳重に厳重を重ねたような拘束がなされ転がされている旧友の姿があった。