2.
今日、初めて外に出された。
外の景色は驚く程どこの国にも見えず、不思議な光景だった。
「――――」
母の胸に抱かれて連れて来られたのは、大きな建物。
開けっ放しの入り口の上には看板が掲げられていて、文字は読めないが、横に書いてある絵は分かる。
剣と骨がクロスした不思議な絵。
そしてその建物の中に入った次の瞬間、目を疑う光景が飛び込んできた。
まず目に入ったのは、ゲームの世界でしか見たことが無いような両手剣や片手剣、そういった刀剣を背負う人々。
現実離れしたその光景は、タイムスリップでもしたのかという気分になる。
次に壁中に貼られた紙、紙、紙。
ある程度の色分けをされているが、それでも圧倒的な量の紙。
表面には文字と絵が描かれ、時折人が留められたピンを気にせずに千切っては受付と思われる場所に持っていく。
そして次。
建物の中央にある、豪奢に飾られた黒い巨大な角。
8メートルほどで微かに透け、中央にある赤い球体が脈動するように明滅するのが見て取れる。
電飾とは思えないし、かといってあの大きさの角を持った生物がいるとも思えない。
それらに目を奪われていると、受付らしき場所に母親がこちらを抱えたまま駆け寄った。
「―――」
「――?―――」
促された…?のだろうか。
赤い十字…日本の文化と同じなら、主に病院を指すそのマークが大きく書かれた白い扉を受付の少女が指で示したのを目で追いつつ、また母親が走り出したので揺れに身を任せる。
―――しばらくして扉を開け、入ったその場所は狭くともやはり病院に思えた。
消毒の匂いに、草の匂い。
唯一言えば、傷に手を当てている妙な人間が数組いることが、少し不思議なぐらいだろう。
しばらく母親が病院(仮)の受付と話している間、暇なのでその内の一組を見た。
見た目は戦士と…占い師?
何となくここが自分の知る文化圏のどれにも当てはまらないと確信しつつ、その傷に手を当てる行為を眺め続ける。
「【―――――――――――】」
占い師モドキが何かを唱えた。
すると掌に青い光が生まれ、傷に吸い込まれていく。
暫くすると傷口の癒着が始まり、暫くして占い師モドキが手を離す頃には、傷があった場所に乾いた血が少し残っている程度で、跡形もなくその傷は無くなっていた。
(!?)
本格的に驚いた。
どうやらこの世界には【魔法】と言えるような、そんな何かがあるらしい。
生まれ直した先は異世界。
そういう事だと、ようやく理解した。
「――」
ふと母親が何かビー玉のような物を渡してきたので、それを握る。
すると離して欲しいというように母親が手を触るので、離すと、そのビー玉を受付の女性がどこかへ持って行った。
―――その間、ずっと先程の魔法の事を考えていた。
(治癒魔法?回復魔法?いや再生魔法…?)
現実で魔法を見た事など初めてなので、いろいろすっ飛ばしてくだらないことが気になってしまったのだ。そして、実際にやろうとするところまでがワンセット。
魔法の使い方など分からない。その仕組みや、もはや概念も良く分かっていない。
それでもまぁ、やりたいと思ってしまったのだから仕方がない。
という事でプニプニした幼い手に力を込め、強く再生、再生と念じ続ける。
―――すると何という事だ。
『……え、ちょ、誰!?誰ですか!?お父さん以外このテレパス番号知らない筈なんだけど!?』
変なところにテレパシーで繋がった。