柱と柱の中間を埋めていく 質問のコツ
「深くなやまずに書ける一行」を、すべて書き終えましたね。
すでに小説の柱はできあがっています。
あとは、壁や屋根をつくっていくだけです。
柱ではうまくイメージできないなら、海に浮かぶ小島としてもいいでしょう。
「深くなやまずに書ける一行」は海の途中に浮かぶ、中継地点の小島です。
いまから、小島と小島の間にある航路を、地図上に描いていく作業をしていきます。
それでは、小説のつづきを書いていくことにしましょう。
書き出した一行を、物語の時系列順に並べなおします。
言われなくとも時系列順になってるとは思いますが、念のため流れを確認してみましょう。
並べなおしたら、書きやすそうな場所を探していきます。
前後の行を見比べて、これは必要だなと思える一行を書き足していくわけです。
このときのポイントは、自分に質問することです。
シンデレラでたとえてみます。
・舞踏会に行きたいけれど、ドレスがないから自分だけ行けない。
・舞踏会に行って、王子様と踊る。
この二行の中間を埋めるとします。
二行の中間を埋めて「シンデレラは舞踏会に行けなかったけれど、結果的に行けることになって王子様と踊る」という流れにしたいわけです。
流れが見えたなら、「どうやったらこの流れになる?」と自分に質問してみましょう。
質問をすることで、頭が真剣に考えはじめます。
この例文の場合、よく読むと「行けない」理由が一行目に出ていますね。
シンデレラは「ドレスがない」から舞踏会に行けないのです。
そこで、「ドレスを、とある人物からもらう」という一行を追加してみます。
・舞踏会に行きたいけれど、ドレスがないから自分だけ行けない。
・ドレスを、とある人物からもらう。
・舞踏会に行って王子様と踊る。
こんな感じです。
あとは、さきほどと同じように一行を埋めていき、柱と柱の中間がつながれば、晴れて一つの文章となります。
「ドレスを誰かからもらうって、いったい誰から?」
「そもそも、なんでシンデレラにはドレスがないの?」
「自分だけってことは、ほかに行ける人がいるの?」
こういう質問を重ね、隠れている要素を見つけて、あらたな一行として追加していくのです。
筆者は、小説の8割の要素は「質問と回答」によって、徐々につくられていくものだと考えています。
自分に質問して、隠れている要素に気づいてあげる。
中間の一行を書き足して、そこにある空白を埋めていく。
これが、小説のつづきを書いていくときのコツです。
やることは、自分に質問するだけ。
さっそくあなたも、自分に質問をぶつけて、小説のつづきを書いてみましょう。
「全然ダメだ……」
「質問しても、まったく思い浮かばないよ」
こんな風になやみ、手が止まってしまっているなら、質問の内容が具体的でないのかもしれません。
壁にぶつかったときは、基本に戻ってみましょう。
質問の基本。
これは義務教育中に学びましたね。5W1Hと呼ばれるものです。
ビジネスパーソンは5W2Hをつかうこともありますが、小説を書く質問としては5W1Hで十分です。
・いつ
・どこで
・だれが
・なにを
・なぜ
・どのように
全部を埋めると、とても冗長な文章となってしまいます。
このなかから、つぎの一行に必要だと思える要素を、ひとつふたつに絞って質問します。
さきほどの「ドレス」のようなキーポイントを見つけて質問すると、内容がより具体的になり、要素を見つけやすくなります。
状況の説明は、これで十分ではあります。
十分ではありますが、筆者はさらに五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)にまつわる質問を足すこともあります。
説明文ばかりだなと思ったとき、登場人物たちが「いま、どんな風に感じているか」を加えてあげるわけです。
5W1Hが、料理の基本的な味つけだとすると、五感は隠し味のようなものですね。
『第一の読者』の好みに合うよう、小説の味付けを調節してみてください。
書き足していくうちに合わなくなった文章は、べつの保留用ファイルに移動してください。
一度書いたものは、どんな文章でも絶対に消さないように。
何日か経ってから「あっちのほうがよかったかも……」となる場合があります。
「つづけて書いた方が、効率がいいんじゃない?」
そうですね。
もちろん、つづけて書いた方が、段違いで効率はいいです。
ただし、つづけて書けるならばという条件が入ります。
執筆中、文章に詰まるときがあります。
むしろ、しょっちゅうあると言うべきかもしれません。
そのたびに手を止めてしまうより、いま書けるところを書いた方がいい。
そんな風には思いませんか?
そもそも集中というものは、作業をするからこそ生まれるという話があります。
書きはじめてしまえば興にのり、どんどん書きつづけられます。
書きつづけるためにも、できるだけ行動を止めないことが、とてもだいじなのです。
「この文章で、おもしろい小説になるのかな……」
飛ばしながら書いていると、こんな疑問が浮かんでくるときがあります。
好きなジャンルの、自分好みにこだわって書いている小説ですから、『第一の読者』である作者にとっては「おもしろい小説」であるのが当然なのですが。
一行一行をぶつ切りにして書いていると、視野が狭くなってしまい。なんだかつまらないように思えてしまうのです。
そもそも、おもしろい小説自体が『レベルに合っていない高いハードル』かもしれません。
しかし、この疑問を解消する簡単なテクニックがありますので、今回はそれをつかってみましょう。
まず、あなたの大好きな、一番お気にいりの小説を開きます。
書籍でもWeb小説でも、媒体はどんなものでもかまいません。
書籍ならば、目を閉じてパラパラとめくり、適当なページを開いてください。
Web小説なら、どこかのページを開き、目を閉じて上下にスクロールし、適当なところで止めてください。
場所を決めたら目を開いて、最初に飛び込んできた一行を抽出します。
どんな文章だったでしょう。
そこにあったのは、なんの変哲もない一行だったのではありませんか?
その一行を見て、ものすごく感動したでしょうか。
おそらく、その一行だけ読んでも、特別な感想は出てこないでしょう。
なんの変哲もない一行の連なり。
それが、小説と呼ばれるものの正体です。
ひとつひとつは大しておもしろくもない文章でも、最初からじっくり読んでいくと、最後にはものすごく感動して大好きになっているわけです。
習作が「おもしろい」かどうかが気になってきたら、書き途中の小説を、最初から通して読んでみてください。
一行を眺めているときより、ずっとおもしろく感じるはずです。
納得できたなら、すぐに執筆へと戻りましょう。
筆者は、できるだけ手を止めないために、『2つのハードル避け』のおまじないを、見えるところに貼っています。
そのおまじないは「めざせ60点」というものです。
『2つのハードル』は、自分の心が完璧主義に染まりはじめたときに出現します。
100点満点の小説を書こうと力んでしまうと、びっくりするくらい書けなくなります。
もし完璧主義に毒されはじめたら、このおまじないを唱えてみてください。
めざすのは60点。
文章に不足がなく、物語としての形が成り立っている。そんな及第点の小説でいいんだ。
そう自分に言い聞かせて、すっぱり割り切ってしまいましょう。
文法の正しさに、こだわり過ぎないでください。
間違えたら、あとで直せばいいのです。
誤字脱字は、見つけたところだけ修正しましょう。
どのみち、全部は見つけられません。
投稿してから、親切な読者に教えてもらう。
そういう気持ちで大丈夫です。
文字を間違ったところで死にはしませんし、Webへ投稿したあとでも、出版物と違ってちゃんと直せますから。
執筆に疲れたら、しっかり休憩を取りましょう。
でも、集中するときは、なるべくスピードに乗るようにしましょう。
一行を書いていく作業も『キーワードプロット』と同じ、連想ゲームなのです。
必要になったら白紙を出して、キーワードを書いてみてください。
スピードに乗りながら手を動かすと、またあたらしいアイデアが湧いてくるはずです。
柱と柱の中間をしっかり埋めて、及第点の小説をつくりあげてみてください。
【まとめ】
・「自分に質問」して、隠れている物語の要素を見つけてあげる。
・手を止めずに執筆作業をつづけて、やる気と集中を手に入れる。
・できるだけ、スピードに乗って書いていく。
・100点満点の小説ではなく、60点くらいの及第点小説をめざす。