物語の柱を立ててみよう その一行を書くコツ
「プロット」“らしきもの”と、“あらすじのようなもの”が、無事にできあがりましたね。
つぎのエリアへと入る前に、このふたつをすぐ取り出せる場所においておきましょう。
データとして保存してあるなら、保存したフォルダを画面上に開いておくか、ショートカットを作成します。
ここからは、いよいよ小説を書きはじめていきます。
執筆エリアに入るにあたり、真っ先にクリアすべき大きな課題があります。
それは「いずれ小説となる、最初の一行を書きあげる」です。
当たり前のようにも思えますが、この一行が書けないまま「いつか小説を書いてみたい……」と思いつづけている人もいるでしょう。
かつて筆者も、その一人でした。
小説を書くためには、ありとあらゆる関連書籍を読んで。必要な資料を完璧に整えておかなければ、とても書きはじめることができないという、根拠のない“常識”にとらわれていたのです。
かつての筆者と同じように
「いやいや、構想が足りていないでしょ」
「まだキャラクターシートを作っていないじゃないか」
「この状態で、どうやって書けばいいの?」
……と、とまどっている人もいるかもしれません。
大丈夫です。
とにかく書いてみてください。
調べものは、執筆中でもできます。
むしろ書きながらの方が、調べたいものが明確になっているので結果的にはかどります。
書くのはたった一行。一行だけ書けばOKです。
さあ、がんばって!
「あ、書けた」
というあなた。おめでとうございます!
執筆エリア最大の課題を、無事にクリアできましたね。
「書ける気がしない……」
「どう書いていいかわからない」
と、手が止まっているあなた。
そんなあなたの頭のなかには、また『2つのハードル』が生まれているようです。
まずは、どんなハードルが出現してしまっているかを知りましょう。
「いま、どのようなことを考えているか」を、紙やファイルに書き出してみてください。
書き出したら、それが『無意味なハードル』か『レベルに合っていない高いハードル』かを分類して、どういう対処をするかも書き足してください。
ちなみに執筆エリアで出現しやすいのは、こんなハードルです。
「“ホットスタート”にしたいけど、どんなはじまりにするか思いついていない」
「登場人物どころか、主人公の名前も決まっていない」
「良い文章が書けない。この文章でいいか自信がない」
ためしに、この3つの対処法を考えていきましょう。
まずは最初のハードル。
「“ホットスタート”にしたいけど、どんなはじまりにするか思いついていない」
インパクトの強いシーン(派手な戦闘、誰かに追いかけられて絶体絶命、強烈なセリフ)を、物語の冒頭に持ってくることで、読者に興味をもって読み進めてもらう。
それが、いわゆる“ホットスタート”と呼ばれるものです。
多くの小説指南書や解説サイトには、冒頭はかならず“ホットスタート”にするようにと書かれています。
マジメな人ほど、その話に大きくうなずいて、冒頭のシーンに頭をなやませているわけです。
「最初は、“ホットスタート”にしたい。しなきゃいけないんだ」
「でも、どんなはじまりにするかサッパリ思いつかない……」
“ホットスタート”という言葉にしばられ、身動きがとれなくなってしまっているのなら、それはもはや障害です。
『2つのハードル』のうち、どちらになっているかは人それぞれですが、執筆の邪魔になっているのは間違いありません。
身動きがとれなくなっているあなたに、だいじなお知らせがあります。
あなたが書くべき最初の一行は、物語のオープニングとなる一行ではありません。
いまこの瞬間に、「深くなやまずに書ける一行」なのです。
その一行が、物語のなかのどのシーンかは問いません。
どこらへんと、はっきり言い切ることができなくても大丈夫。
もちろん、地の文でなくてもOKです。
セリフだって、小説のなかの重要な一行ですからね。
執筆には順序がありません。なにも、物語の順番通りに書き進めなくていいのです。
いきなり最後の一行を書いても、問題はありません。
むしろ筆者は、最後の一行から書くことが多いです。
物語の終着点を書いておけば、書いている途中で迷子になりづらいので、最後から書く方がやりやすく感じます。
順番なんてムシして、書きやすい場所を探してみましょう。
“ホットスタート”は、思い浮かんだら書くと決めておいて、一行のかわりにコメントを残します。
「最初は“ホットスタート”にする」
これでOKです。
“一区切り”を書き終わって、編集エリアに入ったらもう一度考えてください。
それでも浮かばなければ、投稿してから考えてもいいでしょう。
小説のつづきを書いているときに、突然浮かんでくるかもしれません。それまで保留にしておいても、一向にかまいません。(じつは筆者も、第一作目の冒頭は永久保留中です)
解決したら、つぎに移ります。
「登場人物どころか、主人公の名前も決まっていない」
これもまったく問題ありません。
キャラクターシートや設定は、最初から全部そろっていなくても、問題なく書きはじめられます。
主人公の名前が決まっていないのなら、文章中の名前を入れる場所に、“主人公”と仮置きしておきましょう。
名前が思いついたら、置換機能をつかって差しかえればいいだけです。
ほかの登場人物も同様に、“ボス”とか“ヒーロー”とか“ヒロイン”とか入れておきましょう。
表現がかぶらず、作者であるあなたが誰であるか認識できていれば、どんな名詞でもかまいません。
書き進めていくうちに、勝手に浮かんでくると思います。
どうしても思い浮かばないなら、すきま時間にネットで名前を探してみてください。
投稿や公開をするまでに、ちゃんと名前が置きかえられればいいやと思っておきましょう。
つぎで最後です。
「良い文章が書けない。この文章でいいか自信がない」
これは小説を書いていくあいだ、ひんぱんに出現してくる定番のハードルです。
だいたい、つぎの一行が思いつかないときにあらわれます。
執筆にかぎらず、創作活動中に「良い、悪い」が出てきたら、ハードルがあらわれたと思ってください。
文章に自信がない。
上手に書けない。
このなやみは、名文を書こうという高い“目標”から生まれます。
名文なんて、そうそう生まれません。
2016年に、国内で出版された書籍の点数は、約8万点だそうです。
そのなかで、名文だとメディアに取り上げられた文章は、どれだけあるでしょうか?
すごい一文だと、ネットでバズった文章を見かけたことはありますか?
もちろん、よく探せば良い文章は見つかるでしょう。
しかし「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」を超える名文だ! と騒がれた文章は一つもないはずです。
読者は、文章の良し悪しを見ていません。
彼らが読んでいるのは、文章ではなく物語や情報だからです。
すばらしい文章を書こうと、そんなに力まないでください。
最初のうちは、メモ書きをするように書くくらいでちょうどいいです。
完璧をめざすと苦しみます。積極的に考えを変えていくのは、とてもだいじなことです。
たとえば、ひとつも文字も書かれていない状態が0点とします。
一文字でも書けば1点。そして、1点以上ならすべて合格としてしまいしょう。
この考えでうまくいかなければ、すこし思い出してみてください。
『第一の読者』は、どんな存在でしたか?
「短くとも、つたなくとも。あらたな一行が生まれれば喜んでくれる」太陽のような人でしたね。
それでも手が止まっているなら、『キーワードプロット』とストーリーラインを見直しましょう。
「これなら書けそう」と思える場所。「これは絶対に必要」と思える場所を探してみるのもオススメです。
キーワードから連想されるストーリーのふくらみを、“とりあえず”書いておくようなイメージでいきましょう。
気に入らなければ、あとで修正すればいいだけです。
忘れないうちに、思いついた一行を書いていきます。
ちなみに筆者は、『キーワードプロット』とストーリーラインを見比べて、物語の設定を最初の一行としました。
「儀式には、成人を迎えた十五歳の若者が、国中から集まってくる」
本当に、なんの変哲もない一行ですよね。
感情が高ぶることもなく、興味をひかれるわけでもない文章です。
しかし、この一行を書くことで、筆者は小説を書きはじめることができました。
書きはじめてしまえば、もうこちらのものです。
どんどん書き進めていけます。
最初の一行が書けたなら、つぎの一行に着手しましょう。
つぎの一行を書くときも「深くなやまずに書ける一行」を探していくイメージで。
思い浮かんでいないなら、ムリに最初の一行のつづきを書かなくても大丈夫。
小説を書く順番には、特別な決まりがありません。
最終的に物語が完成すればいいので、あちこちに飛びながら書いていきましょう。
もちろん「深くなやまずに書ける一行」が、つづきの一行であったなら、それはOKです。
「飛ばし飛ばし、違うシーンを書いていって混乱しないの……?」
たしかに、混乱しそうに思えますよね。
これが意外と平気なんです。
ストーリーラインが目の前にあれば、大幅な脱線はできません。
あなたはいま、小説と呼ばれるようになる建物をつくろうとしています。
「深くなやまずに書ける一行」は、その建物の柱となる部分です。
柱はいわゆるキーシーンではなく、物語のなかにあるワンシーンと考えてください。
重要なシーンじゃないからと遠慮せず、すでに思い描けているなら書いてしまいます。
繰り返しになりますが、小説に書く順番など存在しません。
重要なシーンがイメージできていないのなら、あと回しにしてかまいません。
いずれ思いつくときがきますので、なにも浮かばなくなるまで「深くなやまずに書ける一行」を書いていってください。
もし「深くなやまずに書ける一行」を探している途中に、あたらしいアイデアが湧き出てきたら、『キーワードプロット』とストーリーラインにも追加しましょう。
どの一行を書くときも、名文をめざさず、メモ書きを残すように。
名称がわからない道具、あとで調べたいことが出てきたら、目立つ記号をつかってコメントしておきます。
★★★(調)安くて破れやすい布
※※※時代背景的にムリのない研磨剤(レンガの粉末とか?)※※※
//ランプの代わりになりそうなもの
こんな感じです。
キーワードにしろ文章にしろ、書き出すときは、できるだけ手を止めないようにします。
調べものをはじめると、スピードが落ちます。
これは経験則ですが、スピードが落ちるとアイデアが湧いてこなくなったり、よそ見してゲームをはじめたくなったりします。
集中するときは、脇目もふらずが正解です。
できるだけスピードを落とさずに、書けるだけ書いてしまいましょう。
…………書けましたか?
やりましたね!
これであなたは「小説を書きはじめた」と言い切れるようになりました。
「小説を書きはじめた」のなら、つぎにやるべきことは決まっています。
それは「小説のつづきを書く」ことです。
【まとめ】
・「小説の最初の一行」からではなく「深くなやまずに書ける一行」から書きはじめる。
・名文をめざさず、メモを書き残すくらいの気持ちで一行を書いていく。
・スピードを落とさないよう、書けるところから書いていく。調べものはコメントを残して、あと回しにする。