一方通行
*
『ピピピピ!』
「うへぇ!?」
アラームに私はたたき起こされる。
「今!何時!?」
アラームに向かって問いかける。
「って!もう遅刻寸前じゃん!!!」
私は大急ぎで支度をし、制服に身を通す。1年着込んだブレザーは、少しもよれていない。母が毎日アイロンをかけてくれるからだ。
私はダッシュで学校に駆け出した。
*
『キーンコーンカーンコーン!』
ったく…。この学校のチャイムうっせーんだよ!所々《ところどころ》よれたブレザーを身にまとった俺は思う。チャイムが鳴って五分くらいした時だろうか。不意に教室の後ろのドアが思いっきり音を立て、1人の女子が中に入ってくる。あのヤロー…今日で遅刻三日連続じゃねーか!俺の隣の席に座ると、こっちを向いて、えへへ、と愛想笑いを浮かべている。こいつは高山美優。
「お前、今日で3日連続で遅刻してるぞ。月曜日から水曜日まで。ついでに言うなら先週の金曜まで10日連続で…」
と言ったのは、幼馴染みの水野繫だ。
「うわぁぁぁ!それ以上言うなぁ!私を殺す気か!?」
「いや、お前死んでも誰も悲しまねーよ。」
「うっわー……朝から塩対応……。そんなんだから彼女できないんだよ〜!」
私はからかった口調で言った。
「それ、お前もな」
繫もからかった口調で、それでも興味がなさそうに言ってきた。
「なんか…ムカつく!」
そう言って私は彼に腹パンをかました。
「おふっ!」
「あっははは!何その声!情けなーい」
「急に腹パンかますバカがどこにいる」
何故かは知らないけど、君はいつも物静かで、興味がなさそうに私と話す。
私達は0歳とか、そのくらいの時からの付き合いで、周りはもう私たちをおしどり夫婦みたいに思っている。それなのに、それをからかわれても彼は顔色一つ変えず、「は?んなわけねーだろ」と、冷淡に返している。どうして?なんで?私はいつも不思議に思っている。だけど、あいにくそれを聞く勇気を私は持ち合わせていない。
「HR始めるぞー!」
いつも10分遅れてくる担任の藤沢が教室に入ってきた。私はさいわい友達が多いほうなので、遅刻をチクられることは無い。
*
「どっはぁー……」
私は今、学校終わりに繫と一緒に下校している。素っ気ないがこういう時に一緒に帰ってくれるのが、私にとっての幸せの時間の一つだ。
「ねーねー!このパンケーキ屋行ってみよーよ!」
「なんで急に……」
「いやね、ここのウルトラスーパーデラックスパンケーキがね…」
「お前金欠じゃなかったのか?てか、なんだそのネーミングセンス」
私の話を遮るように彼が言った。行きたくない…のかな…。
そんな雰囲気を感じて、その後は何も話すことが出来ず、ミラーがある曲がり角についてしまった。ここが私達が通学のときに別れる場所であり、集合場所でもある。
「じゃあな。明日は遅刻すんなよ」
「うん…。じゃあね」
私は元気がなさそうに答えた。あー、態度に出しちゃダメだよな。いつもそう思っても結局態度に出てしまう自分が嫌だった。
美優が曲がり角を曲がってしばらくするまで、ミラーを見つめたまま動けなかった。そして、彼女が家に入って行ったのをミラー越しに見届けてから
「そんな顔すんなよ……」
その声はあいつに聞こえるわけがなかった。
*
私はお風呂に入りながらスマホをいじっていた。LINEを開いて『繫』と書かれたトークルームをタップする。
「思い切って聞いてみよっかな」
風呂場に私の声が響く。と、その時、
『昼間はごめん』
「ひゃっ!」
思わず声が漏れた。繫からだった。慌てて返信した。
『こっちこそ《《とこ》》めん!』
う……
「打ち間違えたぁぁぁ――――――――――――――!!!」
あわわ……と、とりあえず訂正しなきゃ!
『打ち間違えた笑笑』
『こっちこ《《ろ》》ごめんね』
「ふぎゃぁぁぁ――――――――――――――――――――――――――!!!!!!」
に…2回も…間違えた。
「あぁぁ……どうしようどうしよう」
泣き顔になりながら私は速攻で打ち直し、読み直してから、三回目の送信をした。
『ま…また間違えた』
『こちらこそごめん』
ふぅ、とため息をつく。私のこと嫌になっちゃってるかもしれないのに、追い打ちをかけるように連続LINEはいやだよね…。
「なんだこれ」
風呂上がりにスマホを見ると、
『こっちこそとこめん』
『打ち間違えた笑笑』
『こっちころごめん』
『ま…また間違えた』
『こちらこそごめん』
美優からのLINEが一気に来ていた。
ピコン、と風呂場に音が響いた。
『お前、打ち間違えすぎな笑笑』
よ…
「よかったぁ〜」
とりあえず怒ってはない…よね?安心して湯船の中に顔をしずめぶくぶくした。
*
『ピピピピ!』
例によってあのアラームに叩き起こされた。
「うひゃ!?」
嫌な…予感。恐る恐る時計を見ると、
「げ!?やっぱ遅刻じゃん!!」
もーなんなんだよー。私の遺伝子の中に遅刻するっていう遺伝子でもあるのか!?てか、うちの親もどうなってんだ!?ドタドタ音を立てお母さんとお父さんの部屋の前に立ち、思いっきりドアを開ける。お父さんの姿はない。その寝ていたであろう隣には、寝相が最悪なお母さんが寝っ転がっていた。私の遺伝はここからか!?
「おかーさーん!おーきーてー!」
「ん〜…え!?今何時!?」
わ…私こんなにお母さんに似てたんだ。
「私もう遅刻しちゃうから、もう行くね!」
「え!?うそ!もうそんな時間!?あれ確か昨日は夜12時には寝たはず…」
「もー知らないからね!私行くよ!」
「あーはいはい行ってらっしゃい。」
ちっくしょー、起こすんじゃなかった。朝から嫌な気分になりながら学校へと向かった。
『キーンコーンカーンコーン』
校門の前に私は立っている。校門には『私立桜ヶ丘高校』と書かれていた。
「あー!間に合ったぁ〜!!」
*
「いや、全然間に合ってないから」
さっきまでの経緯を繫に報告した直後、そう宣言された。
「いや、だってよ、あの私がHRのチャイムを聞いてるんだよ!?すごくない!?」
「いやな、チャイムを聞くことは何も偉くないぞ。いいか、チャイムがなった時にはもう着席していないと行けないんだからな。つまりお前はいつも通り遅刻でこれにて3日連続で…」
「だぁ――――――――!!殺す気か―――――!!」
「あー、うるさ」
今日もあまり興味無さそうに呟いた彼に、昨日のような感情は抱かない。だって、嫌いになってないって知ってるんだから。
「お前らほんとに朝から仲いーな!」
そう言ったのは後ろの席の山下和樹だ。
「んなわけねーだろ」
繫はそう言った。あ、そうだ。ちょっと傷ついたフリとかしてみようかな。即座に私はしゅんとした顔を作ってみる。すると、
「って、あーいやそうじゃなくて、いや、でもそうじゃないんだけど…」
あー!かわいい!!そう思った。
「なーに本気で受けちゃってんの!じょーだんじょーだん!」
そういった直後、心配そうにしていた彼の顔から、その表情が消え、拳が飛んでくる。
「いっっったぁぁぁ―――――――――――――――――!!!!!!」
彼の手から繰り出された拳は私の横腹を直撃した。
「ちょいちょいおにーさん?女子に向かってそれは酷いわー!」
「お前を女子だなんて思ったこと1ミリもないからな!?」
「はいー!?」
「お前らほんとに仲いいな〜!」
「「仲良くないっ!!」」
朝からハモった。顔が真っ赤になった。隣を見ると繫も俯いていた。その日の帰り、殴られることを、私はまだ、知らなかった…。
*
シュパッ!矢が空気を切って的の中央に刺さる。その後、掛け声が聞こえて、我に返る。よし。
私は今、弓道場にいる。私は弓道部の部員で、一応IHにも出場はしている。
「いやぁー、気持ちいい!!」
「この調子だったら、最後の夏もIH行けそうだね!」
「うーん…まあ、当日になんないとわかんないけどね…」
「そんなこと言って〜!いつもIH出てんじゃん!!」
「まぁね!!」
「チクショー!!」
そんなくだらないバカ話に花を咲かせ、私達は練習に戻った。
*
「ねーねーかけるー!」
「なんだよ朝から…」
「いーやー!なんでもなーいよー」
あぁ…。やっぱりこの時間が一番好きだ。どんな友達と話している時間よりも、君と話している時間ほど好きな時間はない。そう思いながら、私は君に笑顔を向けるのだった。




