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ユタカの記事 4

人のお肉なんてのは食べられたもんじゃないですね。15才未満は閲覧禁止ですよ!

 記事も四回目となる。


 ご存じのとおりユタカだ。


 新規の読者のためにも説明をする。君たち貧乏人な読者がさらに貧乏な人間を見ることによって心を慰める記事だ。今回は掃きだめの島の一日目を記事とした。時系列に沿って書いている。


 余談だが、先日ファンレターを頂戴した。今時に珍しい紙媒体でのファンレターだった。丁寧な便せんに太い内容物。危険なものかと判断したので、アシスタントに開封を命じた。私は別室で待機する。アシスタントは開封を恐れていたが、強権を発動して従事させた。


 別室で待機している私は無傷だった。


 なんと、アシスタントも無傷だった。その黒い髪の毛は少し焦げてしまっていた。彼女は拗ねて、しぶしぶパーマをあてなおしている。


 自己修復機能も彼女は持ち合わせている。


 私を害そうという輩がいる。この記事を読んで、ほくそえんでいる奴がいると思うと大変悔しい。


 アシスタントにホットドッグを買いに行かせて、頬張る。二ドル五〇セント也!



 本文に戻る。



 丘に構えるジャンクショップはいろんなものがひっきりなしにやってきた。


 背負い籠一杯に機械くずを背負っている子供。


 人体と思われるパーツを抱えた大人。なにかと思えば、等身大の人形(実は人形か人体かの目視の確認はしなかった。できるわけがない)をヒモで縛っている大人。


 皆、頑丈な安全靴を履き厚手の長ズボンを履いている。口元には汚れたスカーフだ。



「朝の仕事を終えて、皆拾ったものを換金に来てるんだ」



 ピンタは気が利く少年だ。私が注目するものを察して、絶妙な頃合いで説明をしてくれる。



「死体も換金の対象になるのか?」



「まあ、そんな頻繁にはないよ。病気で死ぬ奴もいるし、怪我して死ぬ奴もいる。腐らせたら勿体無いんだよ。欲しい奴がいれば売る。そして、死体売りは死体を欲しがるんだ」



「なぜ?」



 ピンタは私の疑問に対して、眉を顰めた。


 彼は一言、私に謝罪をあげたうえで、私が何を疑問に思っているのかわからないということを説明した。



「なぜ、死体を欲しがるのか?」



「……ああ。僕も詳しいことはよく知らないんだよね。死体売りがどんな仕事をしているのかはさ。だけど、需要があるから、供給があるんだろ。以前、コミックで読んだよ。たまに精肉されたものが店頭に並んでいるよ。他にもいくつか加工品を作っているらしい。あいつは何でも作るよ」



 しょっぱなからとんでもないことを知った。


 私は話題を変えた。


「ピンタはこの島の匂いはつらくないのかい?」



 そこかしこにくすぶっている煙が私の目を刺激した。


 鼻の奥もバカになったみたいだった。


 私が三日続けて履いた靴下にミルクをひたして、天日干ししたような匂いだ。


 ピンタはスカーフを巻くこともせずに、その柔らかそうな肌をそのまま晒している。


「あまり、気にしたことがなかった。ユタカは面白いこと言うね――」


 ピンタは外套の中からスカーフを取り出してくれた。


「――姉さんがいつも持たせてくれる。だけど、僕は使わないからいつも懐に入れてるんだ。今日はユタカが使えばいい。その方が姉さんも洗濯しがいがあるだろうから」


 ピンタは愛想を知り、気遣いもできる。


 この島でどうしてこんな少年が育つのか。


 人懐っこい笑顔をする少年。


 第一印象からイメージが変わってしまった。


 貸してもらったスカーフは石鹸の香りがする。ああ、清潔な香り。ちなみにこの石鹸はどうやって作られたかは訊ねなかった。私には勇気がなかったのだ。

 

 ピンタの家は西の川岸のほとりにある。


 私がこの島で過ごした期間はたった二日だ。


 わかったことだが、ピンタの家は他の島民と比べると格別の住居であった。塵食い魚によって浄化された川水を吸い上げて、いつでもシャワーを浴びることが可能だったし、大き目のベッドもある。台所も整っていた。私には少々小さかった。・



「あら? お客さん? 初めて見る顔ね? あたしが覚えてないのかな?」



 家の中でピンタに紹介された女性はマリアと名乗った。


 日に灼けた肌は見るだけで私をその気にさせた。島では見かけない手入れされたロングヘアだ。後にも先にも島の女性でロングヘアはマリアだけだった。背中まで伸びた髪の毛はシティでもあまり見かけない。流行りじゃない。というのが主な理由だけど。


 ちなみに私の好みだ。そんなのはどうでもよいかもしれないが。書いておきたかったのだ。


 ああ、こういう時に我が家のプライベートネットにでもつなぐことができればこの猛りを収めることができるというのに!


 そんなことを考えるほどには素敵な女性だ。


 私の名誉のために言うが、私は仮想セックス派だ。


 目の前の妖艶な女性に説明をした。


 シティから取材に来たこと。ピンタ少年を護衛として紹介されたことをだ。


「うちのピンタを? 構いはしません。ピンタ、頑張ってお仕事なさい。あんたが頑張んなかったらあたしはくいっぱぐれちゃうよ。しっかりやんなさい」


 私は多すぎない程度の滞在費をマリアへ前払いで支払った。


「前払いなんてよくわかってるね。シティの男なのに感心した」


 うなずきながら腕を組むマリア。腕を組んだことでその胸がさらに強調される。


 ああ、うずまりたい。



「どういうことですか?」



「明日にはあんたが死んでたらお金もらえないじゃない」



「ピンタ! よろしく頼むよ!」



「まあ、頑張るよ」



 一日目は島の臭気にあてられて、何もできずにピンタの家で過ごした。


 いつもは二人で使っているらしいベッドを三人で使った。


 寝る前に全員シャワーを浴びていたので、石鹸の香りがする。人肌を感じて眠るのは久しぶりだった。


 客人だから。という理由で真ん中に寝るように勧められた時の私の胸の高鳴りは内緒である。


 実はマリアには筒抜けだったというのは後から聞かされた。


 全然貧乏ではなかった。貧乏人を満足させる貧乏な記事を書く必要があるというのに、少しばかりあてが外れた。しかし、これはまだ一日目である。次回以降の更新は掃きだめの島での生活について記していく。


 次まて次回。

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