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ニーニャの話 1

ついにヒロインの女の子の登場です。待ちかねたヒロインですよ。狂喜乱舞しましょう。

 あたしは力を手に入れたので、正義を執行できる。


 だけど、これは滅多なことでは使わない。あたし也の正義をあたしは持たないといけない。


 だけど、あたしは短気だ。抑えないといけない。



 気に入らないことがある。


 こんな風に言ったら、あたしがいつも穏やかに過ごしているように勘違いさせるかも。


 言い直す。


 掃きだめの島に住んでたらだいたい気に入らないことばかり。


 年中不満だらけ。


 つい最近も何人いるかわからない弟のうち一人が帰らない人になってしまった。


 悲しいことには悲しい。


 だけど、この島では死ぬのは日常だ。気まぐれに殺されて売られたか、川に落ちたか、ゴミで怪我してそのまま野垂れ死んだか。身元が分かれば死体売り辺りが連絡をくれるんだけど、まだ連絡はない。そこらへんはについては死体売りを信用している。


 とにかくこの島で死ぬ理由はたくさんある。


 あたしがひやっとしたことも一度や二度じゃすまない。


 これからの弟の分のご飯はあたしが食べてあげよう。


 なんてったってあたしは育ちざかりなのだから。


 これから手も足もおっぱいも大きくならない。


 ちんちくりんな妹達に譲る道理はない!


 ここ最近の一番の悲しいことはマリア姉さんが死んだこと。


 なんで死んだのかなんてわからない。


 あたしは自分で自分の頭を銃で吹っ飛ばすなんてことしたことないもん。吹っ飛ばすために銃を用意したのかな。だとしたらご苦労なことだと思う。


 その時の銃はあたしが没収した。ピンタがまた真似したらいけないから。


 ピンタは死なないと思うけど、念のため。


 別に狙ったわけじゃないけど。その銃はあたしの力となった。正義を執行すると、弾が少なくなった。調達しないといけない。これはマリア姉さんの銃だったんだから、マリア姉さんの家に弾があるのじゃないかなんて思って、ピンタの面倒を見るついでに弾を探した。案外簡単に見つかった。


 マリア姉さんなんて言ってるけど、べつに家族ってわけじゃない。だけど家族よりかは仲が良かった。と思う。


 この不満だらけの島でマリア姉さんはいつも朗らかだった。


 あたしっていうのは意地っ張りで、外では泣かないようにしてるけど、マリア姉さんの前では顔をぐずぐずにして泣いていた。


 なんでかな? なんて考えたときに思いつくのはあれだ。マリアなら慰めてくれる。そんな期待があるんだ。


 ママはあたしが泣くことを嫌う。あたしが泣いたら平手で張るし、機嫌が悪かったら拳骨だったりする。帰ってこない弟を思って、泣いてるママを見るとなんかずるいって気持ちと、弟が羨ましいって気持ちにもなる。


 ママに限らず大人は皆そう。


 だから、大人は嫌い。


 マリア姉さんは仕事中以外だったら、あたしの相手をしてくれた。


 だからあたしはマリア姉さんの仕事が嫌い。


 その時だけはマリア姉さんが大人に見えたから。


 そんなときにはあたしの矛先はピンタに向かった。あたしはこんなに悲しいのだから、どうにかしなさい。なんていう風に絡む。反省しないといけない。


 さて、最初に言った「気に入らないこと」っていうのはまた別の事だ。

 

 ピンタが色気づいたのか、女を連れ込んだ!


 姉のマリアが死んで日が経たないというのに!


 困った。


 あのポジションはあたしが居座るつもりだった。


 予定が狂った。完全に狂った。


 ご飯を食べないでもずっと動き続けることができる便利な男なんてピンタくらいなのよ。


 あんなに頼りがいのある男なんてどこにでも転がってるわけじゃない。


 それにピンタなら、簡単には死なない。


 そう思う。


 掃きだめの島の死がピンタを避ける。


 それにあたしはあやかりたいのだ。

 

 あたしはすぐにピンタの家に行って、女を養うに至った経緯を確認しに行ったわ。

 

 まずはその女の姿を見てあたしは驚くのだ。


 この前の漂着した女だった。群がる男達をとめただけで、そのままにしてたのがいけなかったのか。今の女は石鹸で顔や体を洗って、ぴかぴかになってるから見違えた。あの時に放っておいたのが仇になるとは。寄りにもよってピンタに拾われるとは。島は狭い。


 あたしは気を取り直した。


 いきなり怒鳴りこんだりしたら、それはそれでかわいそうだから、優しく諭すように。


 まずは自己紹介から始めないといけないから、あたしは名乗った後に彼女の名乗りを待った。


 聞いたあたしはたまげて、声を荒げてしまった。



「なによマリアって!?」



 何を考えてるのか。死んだ姉さんの名前を騙るとは。



「ピンタさんにいただきました」



「ピンタァッ!」



 たまらず叫ぶ!


 ピンタはしれっとした顔でスープをすする。


 マリアと名乗る怪しい女が作ってくれたスープだ。あたしの分もよそってくれている。おいしそうな香りがする。あたしも飲みたい。だけど、ここで飲んじゃ負けだ。


 ピンタ曰く「ベッドが空いてたし」なんてほざくのだ。


 確かに合理的だ。合理的だろう。


 ベッドが空いてるから、誰かもう一人寝れるから。


 そんな理由で女を養うのか?


 じゃあ、あたしを養え!



「ん? ニーニャは家にベッドがあるじゃんか」



 正論! 正論です。妹達と眠るベッドは狭い!


 養ってほしい。なんてことを素直に言えばいいんだろうけどそれは言いづらい。


 別にはしたない云々とかで躊躇することはないけれど、あたしはいつもピンタの上に立っていたい。


 なんだかそういうつまらない意地があるのだ。理想としては「お願いです。ニーニャさんを養わせてください」と言わせたい。


 ああ、つまらない意地だ。


 笑え。


 あたしは腹いせにスープとパンを平らげた。


 そのままスカベンジングに出かける。


 あたしの外套はマリア姉さんのもの。


 形見分けってことでもらったそれ。マリア姉さんの香りが強く残るそれを羽織るようにしている。


 気に食わないことが多すぎる。


 何より気に食わないのは、あの女の胸が大きいのも気に食わなかった。


 料理がおいしいのも気に食わない。


 女として求められるような魅力をおおよそ持っている。


 あの女が気に食わなかった!

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