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ユタカの記事 3

メイドロボって欲しいですよね。しかもえっちぃことができるならなおのことです。

 更新も三回目ともなると、読者の皆様もそろそろ期待しているころだろう。


 というのに、相も変わらず特定のアドレスから投書が続いている。もうそろそろ、誰か私宛のファンレターの一つでも書いてくれないのか。


 むしゃくしゃした私は今日も今日とて、アシスタントにホットドッグを買いにいかせる。本来の用途と随分違う活用法だとかの指摘は受け付けない。彼女はお使いができるのだ。さすがメイドロボの売り出しを考えているほどのセクサロイドだ。


 二ドル五〇セント也!


 今回はいよいよ掃きだめの島へ上陸をする。漂う波に乗って島へと向かうというほどの絶望的な旅路ではない。


 ひげじぃが所有するボートでひたすら走ること二〇分。


 小さな点のようだった島は面となり、面は立体となって私の前で主張を始めた。島のあちこちからは煙が出ていて、それが牧歌的な風景ではなくて、終末世界を思わせた。


 船に乗り合う前のひげじぃの忠告があった。示しておく。



「あまり多くを持っていくな。目を付けられるからな。ユタカはわしの親戚ということにしておくよ。島にはわしが信用する奴もつけてやる。そいつの分の給料も忘れるな」



 この取材において、私を案内してくれたのはひげじぃから紹介されたピンタだった。


 ひげじぃのピンタの評は上々。


 曰く、ピンタは腕っぷしが強い。


 曰く、ピンタはマリア(詳説は省く。ゆくゆく登場する人物である)の弟。


 曰く、ピンタがいるだけで弾除けになる。


 下流側の浅瀬に船を停めた際には一人の少年が迎えてくれた。


 ひげじぃは少年を紹介してくれた。驚きだが、その少年がピンタである。


 ピンタは少年だ。青年とは言えないほどの見た目であり、まだ成長途上のような体つきの少年。その細い腕。薄い胸。決して頑健とはいいがたいその体格に私は少し驚いた。こいつが私の案内役? これは一杯食わされたかもしれない? そう思っていたら、早速ピンタ少年の力が証明された。


 島で販売するための商品を一気に担ぎ上げ、手押し車に運び入れている。決して軽い荷物ではないはずなのに。


 中央のジャンクショップへ向かう道中ひげじぃはピンタへ指示を出していた。ピンタは軋む手押し車を押しながら応答している。私はそれに耳を傾けた。



「ピンタ、お前はこのユタカを守れ」



「守る? というとどの程度さ」



 第一印象として、ピンタも愛想っていうのがない。


 年相応の少年らしい跳ねるような声だ。大人ではない。明らかだ。



「かすり傷くらいは許す。ユタカはこの島に取材に来ているだけだ」



 個人的にはかすり傷も遠慮したい。こんな不衛生の極みのような場所で怪我をしたらどうなるか!?


 私は心配になる。



「命の危険があるのですか?」



「命の危険がない場所なんてあるの?」



 ピンタからは逆に質問を返された。


 別に私の無防備を批難しない。疑問のそれだ。


 私はシティの中では基本的に安全が保障されることを説明した。もちろん、無礼をかましたら隣人から鉄拳制裁はやってくるし、銃を手にして怒鳴りつけられる。


 その引き金を引くことは昔よりハードルが高い。個人所有の銃の一つ一つが徹底管理されているし、ライフリングマークについても全てがデータベース化されている。


 その中で銃をぶちかますのは割に合わない。


 どうせなら、プライベートネットの中に誘いこんでの管理者権限によるリンチの方がダメージが大きい。


 人を殺すのは程度の低い奴らの話だ。なにか問題をやらかして、ネット接続がレッドマークの人種だ。そして、そいつらも常時監視され、善良な市民には危害を加えない。



「ふーん。不思議な話だ。何か気に食わないことがあったら、プライベートネット? っていうところに呼び出すの?」



「相手が応ずればだがね。基本的には相手の管理者ネットワークには入りたくないし、入らないから、客を招くときはそれ専用の帯域を作る必要がある」



 それも面倒だったりするが。


 ピンタは荷物を抱えたまま私を見上げる。



「面倒だね。ここの奴らなら気に食わない奴は殺す。殺した後は死体売りに売る。いくらかのお金に変えちまう」



 事実を事実として伝えてくれた少年の様子に私は言い知れぬ怖れを持ってしまった。


 私がかつてプレイしたことがあるダークファンタジーの完全投影型ゲームを思い出した。あんな凄惨な世界はゲームだけでお腹いっぱいだったが、現実でも似たような香りを感じるとは思いもしなかった。



「ピンタは誰か殺したことあるのかい?」



 訊いてよいのか、わるいのか。


 不躾な質問だったかと反省した。



「まさか? 僕は人を傷つけないよ。そういう風に決まってるんだ」



 ピンタの態度はまるで当然のことを私に示した。彼は人を傷つけることができない。そういう風にできているらしい。これは彼の心情とかそういうものなのだろうかと思った。


 やがて辿り着いたジャンクショップは小高い丘の上に建つ。なぜ、ここにショップを建てたのか訊ねた。


「そらぁ、馬鹿と煙はっていうじゃないか。わしは馬鹿なのよ。それにただの馬鹿じゃない。卑しい馬鹿なのさ」


 愛想でもない。吐き捨てるようでもない。しかし、初めてひげじぃの感情が見えるような言葉だ。


 山積したゴミの合間から、色のついた煙が上がる。何が燃えてるんだろう。ピンタが言うには「夏場は燃える。日差しが強いからだと思う。冬は燃えないし。今の時期はね、たまにボヤが起きる。巻き込まれないようにしないとね」とのことだった。


 その煙を吸うと、喉が痛んだ。


 灼け付いたような喉の痛み。


 想像以上の掃きだめだった。


 本日の更新はここまで。


 別に寸刻みにして閲覧数を稼ごうとしているわけではないことをここに重ねて注記する。

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