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ユタカの記事 2

自分で書いてて思いますが、このユタカってやつは無礼ですな。

 記事の執筆二回目にして、早くも反響があった。月々三ドルぽっちの料金について抗議を申し立てる暇人の読者がいたのだ。朝な昼な夕な問わずである。発信元のアドレスを確認すると、単身世帯向けのマンションにお住まいの方々がほとんどである。それの多くはシティ外縁の貧民街だ。


 この記事を読んでいる客層のイメージがついてきた。


 どうせ、他人様のネットワークケーブルを勝手に拝借しているような狼藉ものばかりであろう。


 そして、今一度この記事の方向性に確信した。


 私の愛すべき読者の多くはシティの貧民街にお住まいの方々のようだ。彼らはベッドを置けばそれまでのような小さな部屋の中でお慰みのように、ブラウジングを繰り返すだけだ。彼らは低所得だから、画面端末しか持っていないのだ。ある種のポリシーのように画面端末にこだわる人間もいるが、それは強がりだと私は知っている。


 そういう奴らに、日銭を稼ぐような仕事をするのではなくもっと真っ当な仕事をするように。と諭しても仕方がない。なにせ私が真っ当な仕事をしていないのだから。


 今日も貧乏人の読者のためにせっせと記事を用意をする。


 君たち以上にひどい環境の人間を取材するのだ。


 私のほとんどないと言って等しい人脈を駆使して、掃きだめの島について情報を求めた。


 情報が欲しい欲しいとねだると人の目は集まるものである。私がとてもひどいおねだりさんであることを察した人物が寄ってきた。


 彼とのコンタクトはシティ外縁にある市場の一つだ。


 少ない伝手を頼り、卸売を営む業者たちへ取材に来ていた時。


 何かが私にぶつかってきた。驚きながら目をやると操縦者は老人だった。


 無反動カートがかすったとかではない。


 ぶつかってきたのだ。カートの故障かなにかかと思い、老人にケガがないかどうか声をかけようとした。息をするのが困難だった。


 純粋に臭い。


 一応に清潔を保たれているシティにおいては異彩を放つ人物だ。全体的に服の色が茶色い。アンチエイジングが一般化された世の中。こんなにしわくちゃの老人にお目にかかるのは久しぶりだ。


 老人は島でジャンクショップを商っており、折りよくシティに商品の仕入れに来ていたところだったらしい。


 島の人は彼を「ひげじぃ」と呼ぶことをあとから知る。まあ、なるほどと思うような顔つきだ。白いひげが口を隠し、顎を隠す。ひげをなくせば、この老人を見分けることができない。



「お前か? 島のことを知りたいっていう記者は?」



 いったん口を開けば分かる。ひげじぃには愛想がない。


 敵も味方もない。


 媚びもへつらいもない。


 そんな声と顔つき。


 今思えば、記者としては失格だ。愛想で応じればいいのかどうか。そういったものも判断ができず、まるで木偶のようになりながら、挨拶をした。


 彼は「ちょっと歩きながらでいいか?」と言うなり歩き出した。


 私の回答なんて必要としない。



「何を訊いてくれてもいいよ」



 顔の皺に似合わず、流暢な発音でひげじぃは私の質問を許し、録音も録画も許可してくれた。


 歯は全て自前だそうだ。


 カートが無音で動く。私はそれに小走りでついていく。胸元の有機レコーダーを起動する。少し息が上がりながら質問をした。



「一体、何を仕入れに?」



 ひげじぃは私を一瞥もせずに答える。



「生きるのに必要なものは全てだ。売れると思ったものは安く調達して、売る。島では食べ物とか調味料が良く売れる。あとは頼まれたものかな」



「頼まれたものとはなんですか?」



 私の質問に初めて、ひげじぃは笑みを浮かべた。



「ユタカはコンドームって使ったことある?」



「いいえ」



 今のご時世に使うようなことがない。僕のセックスはプライベートネットで完結している。



「あいつらは使うんだよ。医者の真似している人間からはピルも頼まれる」



 私はそれを聞いて認識が甘いことを理解した。


 古い言葉を引用する。眠くならないで欲しい。


 昔の子供は「授かりもの」という言葉で表現していた。ご存じの方はいるだろうか? スクールの国語教員ならば知っているかもしれない。


 なぜなら人間は妊娠をコントロールできなかった。


 婦女子の周到な計算により、ある程度は類推できた。しかし、それも偶然に授かることだ。


 生まれてくる子供が男性か女性か選べないのだ!


 私は幸いにもセクシャルマイノリティーに苦しむことはなかった。


 妊娠においての両親と遺伝子設計者のたゆまぬ努力と、教育のおかげである。


 感謝してもしたりない。このような人に顔向けできぬうらぶれた記者をしている自分が嘆かわしい。今日も私はホットドッグを頬張る。二ドル五〇セント也!


 現在は男友達がいつの間にか女友達になっている。なんていう笑い話もある。そして、それはまるで自然なことのように君たちは思っているし。私もそう思っていた。


 子供を遺伝的にコーディネートする喜びの現代では考えられない。


 自身の性別を選びなおすことができるような世の中だ。


 選べないものの範囲で責任を負わされたなら、たまったものじゃない!


 ナチュラルベイビーというのはある種の希少価値を持った狂信的な自然派に限られる。


 自然妊娠は現在の産婦人科は相手をしないだろう。


 リスクしかないのだ。多くの遺伝的な病、障害、それらとの不安を抱えながらの生活。そして、障害を持って生まれた場合の社会的ケア。多くの理由が自然妊娠を拒んだ。


 ましてや、ピルという避妊薬などは望まぬセックスを現実で強要された場合の処方薬だ。


 スクールにいたころに性教育で習った程度だ。


 私の想像を超えた場所。


 こういうことだ。


 ホットな情報というのはこれ。


 読者に届けるべきこと。


「掃きだめの島」はコンドームにピル、そういったものが必要になるような島。


 私は興奮のままに、今後の約束をひげじぃと交わした。


 後日、船に相乗りして、掃きだめの島を目指すこととなる。


 次回の更新ではいよいよ掃きだめの島へ上陸する。次の更新を待て。



 蛇足であるが。


 セクサロイドについての記事も併せて書くようにという指示を編集長から承った。シティネットの広報部からの依頼らしい。使用感とかそういった記事を求めているのかと要求仕様を確認したところ次のとおり返事があった。


「メイドロボ兼セクサロイドとしての売り出しを検討している。ユタカ氏の生命保全プログラムのメンテナンスも兼ねて常駐させておくように。併せて、彼女の記事も添えること。どんな利用を想定しても良い」


 とのことだ。


 男やもめ。一人暮らし。ノーマルな性癖の私である。しかしながら、私は生身のセックスは忌避しているため、彼女にはアシスタントとして活躍してもらうこととした。


 記事の合間に彼女の事が出てくるが、そこは大人の事情として汲み取っていただきたい。


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