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ピンタの話 7

第一部 完

今後は3人がシティへたどり着いた後の第二部へ続きます。とりあえずの「旅立ち」の章は終わりとなります。

 皆が仕事をしている隙に、僕とニーニャはひげじぃの元へ向かった。マリアは荷造りをしてくれている。マリアも付いてきてくれることになった。



「シティの案内役が必要でしょう? あたしはシティにいたセクサロイドですよ?」と、自信満々だった。あんなに言うのだから、すなおに頼ってやろう。



 ジャンクの換金が終えて、ひと段落ついたころに僕たちはショップへ着いた。



 ジャンクショップでひげじぃの穴が開いた安全靴を見ると申し訳ない気持ちが湧いた。ような素振りを見せて話し始めた。



「昨日の件は申し訳なかったよ。ひげじぃ。僕はちょっとかっかしちゃったんだ。大切なニーニャが大変なことになってたからさ」



「……いつもクールでいて欲しいな。今日は何がいるの?」



 ジト目で僕を見るひげじぃ。



「あの家を売りたい。それと船をくれ」



「ほう、島を出るのか?」



「うん。ニーニャは一時この島を離れた方がいいし、僕は姉さんを探しに行きたい。時間がない。僕は焦っている」



「……お前の調子が悪いのは知ってたけど、そんなに悪いのか。あてはあるの?」



「ユタカのところ。あいつも姉さんに執着してた。何か知ってるかも。というか、何か知ってるから姉さんは姿を消したんだ。あいつは何か知ってる」



 あいつの記事と、姉さんが保管してた手紙を読んで確信した。



「ふうん。ピンタにしてはない頭で良く考えたな。家は買ってやる。船はくれてやれん。シティまで自動操縦で送らせるよ。それでいいだろ。戻りたい時はこいつで連絡しろ。迎えを出してやる。シティでの住所はここに行け。必要なものは揃えてやる。わしの家内を頼れ」



 ひげじぃはすらすらと案内してくれた。小さな携帯端末を僕にくれた。川で流れてきてない、新品のそれだった。



 ん?



「ひげじぃ。こんなもん用意できるってことはさ。もしかしてだけど。他に島から出て行く奴の手伝いってしたことあるの?」



「まあ、しょっちゅうだよ。それも道楽の一つだよ」



「そのあとはどうしてんの?」



「シティでの絶望に染まるのを眺めて遊んでる」



「良い趣味してるね。本当にひげじぃの住所に行っていいの? 汚いおじさん向けの娼館とかに放り込まれたりしないよね?」



「……ああ、悲しい。ワシの信用がそこまでないとは。お前の余命は少ない。余命? というか、起動限界かな。お前を知るマリアを探すことが、お前が生き残る唯一の術だ。お前はお前が何者なのかを知り、お前はお前を延命させるすべを求める。そのための拠点をわしは与えてやろうというのだ。この慮りを理解してほしい」



 ひげじぃは嘘をつかない。


 話さないだけだ。



「ありがとう。受け取るよ。じゃあ、さっさと出ていく」



 ニーニャは終始黙りこくったまま話を聞いていた。


 僕たちが店を出るときに、ひげじぃも併せてついてきた。



「ピンタ。あの家はもうわしのもんだ。よって狼藉ものが現れているなら排除する必要がある」



「はあ。そうだね」



 なに言ってんだろう。



「わしがこんな小高い丘に店を構えてる理由はな。島が一望できるからだ。いろんなクズの行動を観察して、それをネタに一杯ヤルんだ。そして、今、ワシの家で一等のクズ達が集まってるよ」



 ひげじぃはコミックのマッチョが持つようなガトリングガンを肩からベルトで吊っている。



「ひげじぃってさ。実は結構若い?」



「誰も老人をいじめようとはしないからな。これが便利なのさ!」



 コミックヒーローも真っ青なスピードでひげじぃが走り出すから、僕はニーニャを抱えて追いかける。


 懸命なニーニャは僕がしようとすることをすぐに理解して、口を閉じた。舌噛んだら痛いもんね。


 ゴミ山を転げ落ちるようにして、僕たちの家へ向かう。いや、もうひげじぃの家か。


 三人も入ればいっぱいいっぱいの家にはむくつけき男達が押しかけていた。


 小さな小娘に痛い目にあわされたのが気に食わなかったのだろう。ニーニャの家族をレイプして殺すだけじゃ気が済まなかった男達がやってきて、ニーニャがいないからだろうか。


 男達はマリアをレイプしていた。


「畜生!」って言いながら、泣きながらレイプしてんだ。


 よっぽど悔しかったんだな。


 ちなみにニーニャには見せないようにした。僕の掌で耳を抑えて、指の腹で目を抑えた。幾分の抗議があったけども、ニーニャがフラッシュバックしてもいけない。僕の配慮だ。


 で、何で僕たちはこんなのをみてるかいうとひげじぃが「まあちょっと待っといてやろう」そう言うからだ。ひげじぃは義憤に駆られているように見せかけながらも股間を大きくしている。


 爺さんなのに元気だ。


 こいつは人のセックスとか悲しいこととか眺めて楽しむクソやろうなんだ。


 まあ、僕も眺めてるから同罪かもね。僕は楽しんでないけど。


 男達が一巡した辺りで「そろそろかね」と言って、ひげじぃは家の中に入って銃を乱射した。男達が血だらけになるものだと思っていたのだけど、そんなことにはならなくて青あざだらけになっていた。ゴム弾というらしい。まともに当たれば骨が砕ける代物とのこと。それが連射で男達を襲う。たまにマリアにもあたっていたと思うけど。ひげじぃはセクサロイドのマリアへの遠慮は微塵もない。撃ち終えた後に残るのは小さくなったちんこを股にぶら下げた男達が倒れ伏している。うめき声が聞こえる辺り、死んじゃいない。



「ピンタ。こいつらをドクターの元へ運んでやってくれ。料金は弾む。ニーニャ。家の掃除をしてくれ。これまた料金を弾むよ。ああ、あとそこのセクサロイド」



「……マリアです。ひげじぃ様、弾が当たって痛かったです。どうしてくれますか」



「はいはい。マリアね。お前はべとべとだからシャワー浴びてこい。綺麗にしてこいよ」



「シャワーを浴びた後はあなたの相手をするんですか? 勘弁してください」



「そんな言うなよ。爺さん泣くよ? あんたが汚いからシャワー浴びてこいつってんだよ」



 マリアは股から出された精液をたらしながら、シャワーを浴びにいった。


 僕は男達を家の裏にある手押し車に乗せて、ドクターの診療所まで運んだ。全員を放り投げた時に声があがるから生きてるはず。「頭がつぶれてないかぎり、生かしてやる」とのドクターの言葉がある。それを信用する。


 ドクターに引き渡したときに、いつものように怒鳴り声が響いた。しばらくのそれをやり過ごした後にドクターは言う。


「驚いた。ピンタ。あんたってケンカするんですね!」



「うんにゃ。それはひげじぃのガトリングガンです。ひげじぃの逆鱗に触れたようです」



 精肉場に並べられたニーニャの妹達を思い出しながら言う。



「パイプカットでもしましょうか! ちょっとはおとなしくなるでしょう」



「ひげじぃの本意ではないですよ。それこそこいつらは殺されてしまう。精を受けるものと精を放つ者がいないと成り立たない。それをひげじぃは望んでいる」



「自然妊娠クソくらえ!」



 それからドクターは自然妊娠の危険性及び社会的負担について語り始めようとした。長くなりそうだったので帰った。退去するときにしばらく島をあとにすること。お世話になったことについてお礼を言った。


「寂しくなりますね! 用事が終わったら帰ってくるんですよ!」


 戻るかってんだ!


 用事を済ませた後は、荷物を整えた。


 壊れかけの僕。


 汚れたセクサロイドのマリア。


 激情のニーニャ。


 こう、言葉にしてみたら不安になるような三人で船に乗り込んだ。


 行き先はひげじぃの借りている波止場。


 ひげじぃとの別れは簡素に済ませた。


 大きく見えていた島は遠く離れるにつれて、小さくなる。


 進路側のシティを見ると遠目に見ても大きかったそれはさらに大きく。


 巨大に見える。


 え?


 ここから姉さん探すの?


 道中のマリアとの会話。



「マリアはセクサロイドっていうのは知ってたけどさ。あの状況って抵抗しなかったの?」



 ほらさっきのレイプさ。



「嫌がって見せるのも技の一つですよ……生身の女性にはしてはいけませんよ?」



 マリアは剣呑な目つきになって、僕を見る。



「いや、僕はてっきり。マリアは気に食わない相手を殺すもんだと思ってたし」



 ほら、首元のぽっかりの奴だよ。と言葉をつなぐと。返事が返ってくる。幾分それは悲壮を交えた様子で。



「以前から申し上げていますが。私は人を傷つけられません」



「それってなんで?」



「人に仕えるセクサロイドだからです。大原則ですよ。そこらへんはしっかり整理しとかないと、秩序が保てません。殺し屋のアンドロイドでも出てきたらことですもんね。お分かりだと思ってましたよ」



 ん?


 んん?



「もしもだけどさ、原則破ったらどうなるの?」



「壊れます。だから、あたしは死んだ人間をいたぶることで気を晴らしています」



 もう充分壊れてるように思うよ。


 僕はマリアとの会話を打ち切って、ペーパーブックとユタカの手紙を読み直した。


「その手紙なんて書いてるの?」



 ニーニャが訊ねる。彼女は文字が嫌いだ。


 僕はいくらか考えて答えた。



「多分、ラブレターかな。急に消えてごめんなさい。っていう謝罪から始まって最終的にはセックスしたい。みたいなことを書いてる。あと、ちょっとした脅し文句かな。僕にはよくわからないけど、二人の間ではわかるものがあるような書き方」



「なんでそんなのわかるのさ」



「ユタカは記者だもん。記者は狙いの物を狙い通りに書かないってさ。コミックでそんな感じのこと読んだよ」



 根拠なんてないけど。


 あのシティには僕たちが求めるものが見つかるだろうか。見つからなかったら困る。


 見つけるために僕は行く。


 だけど、死ぬのが当たり前の世界に生きてた僕がやがて動かなくなる。というのは極めて道理なのだ。


 その道理にあらがおうとしているのがおかしいかもしれない。


 シティの奴らは死なないっていうんだから、僕だけ死ぬのは不公平ってなもんだ。


 前よりも鈍くなってきた頭で僕は考えた。


 考え続けた。


 シティはさっきよりも、大きく、ずっと大きく、巨大に見えた。

お付き合いいただきまして、ありがとうございました。

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