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ニーニャの話 4

皆さん、怪我したらちゃんとですね。病院に行きましょう。心が怪我をしても同様です。これは西向くとのお約束です。

 あたしは力を手に入れてるから、あたしを虐げる全ての何かを払うことができる。


 だけど、やりすぎちゃいけない。っていうのは思ってるし、知ってた。


 けど、目の前で起きそうなことっていうのは止めるべきだと思ってるし、あたしは止めたい。


 島の男が漂着した女をレイプしようとした時、あたしは持ってた力で撃ち殺した。


 あたしをレイプした目無しの男もあとから成敗した。


 友達をレイプしたおっさんも撃ち殺した。


 悪い奴を全員撃ち殺せば、島も住みやすくなるよ。あたしはそう思ってた。


 だけど、そうは思わない奴もいるみたい。



 あたしの前に立つピンタはそう思わない。



 島の奴隷のような奴だ。だいたいが島の奴らはピンタを頼りにする。マリア姉さんが亡き今、島の奴らはピンタを頼る。



 ピンタも断ればいいのに。良いように使われてるんだ。気に食わない。



「ニーニャ。僕が君の前にいる理由わかる?」



「さあね。わかんないわよ」



 察しはつくけど。



「ニーニャは少々派手に殺しすぎたよ。何で、あんなぽんぽん殺したのさ」



「悪い奴っていうのをちょこちょこ殺せば。島の風通しが良くなったよ」



 これは本当。



 いつもあたし達にひどいことする大人の数が減ったから、過ごしやすくなったと思う。



 もっと早くしてたら、弟は死んでなかったかもね。



「島には島なりの秩序があるんだよ。ニーニャ。その銃を渡せ」



「イヤ」



 これはあたしの力なの。これがなくなったら、あたしはただレイプされるだけの子供になっちゃうの。無礼な奴はこれで全部殺すの。



「いつか、お前が殺されたら悲しいじゃんか。暴力からは遠く離れた場所にいたほうがいい」



 あたしは頭が真っ赤になる。頭なんて見えないけど。



「どの口が言うの? この島は暴力と死が溢れてる。ママたちは働かない。あたし達がゴミを集める。集めたお金はママに持ってかれる。レイプされて、かわいそうなあたしをママは慰めない。なんでか考えたよ。多分島にはかわいそうが溢れてるからなんだよ。レイプされたあたし。殺されて隠された弟。レイプされた友人。金で抱かれるマリア姉さん。謝りながら腰を振る男達。みんな、みぃんな! かわいそうなのよ!」



 ああ。いけない。多分あたしは言っちゃいけないことを言うかもしれない。止めないといけない。


 だけど、流れ出すシャワーのお湯みたい。止まらない。止められない。


 あたしが困惑しながら、吐き出す毒が止まらない。


 そんなときに、ピンタはあたしを担ぐ。


 いなくなったパパみたいに。


 腰の辺りを前から。ピンタの小さな肩に。



「ニーニャは大きくなっちゃったね。昔は小さかったのにねぇ」



「……あんたが大きくならないんじゃない」



「昔はもっと鋭い目つきをしてた。最近は丸くなったなんて思ってた。だけど、最近のニーニャはピリピリしてたね――ごめんね。マリア姉さんが死んでさ。ニーニャも辛かったよな」



 こいつのこういうところも嫌い。あたしがさぎゃんぎゃんわめいているとき。あたしが理解してない、あたしの望みをちゃんとわかってる。マリア姉さんの弟だから?


 あたしはこいつを見下ろすくらいの背丈になったってのに、まだなにも変わっちゃいないように思うんだ。


「どうしたらいいのかな。あたしはさ。気に入らない奴に、強引にされて、それで残念だったねって泣き寝入りすればいいの?」


「……男に傷つけられたら、男が慰めるのが一番だってマリア姉さんは言ってたよ」



「あんた、ちんこたたないじゃん」



「ごもっとも。僕のそれは役立たずらしい。なんでかな。なんでかなぁ。って考えてたんだよ――」



 ピンタはあまり頭がよくないと思う。鈍いというか。最近はそれが顕著になってる。頭を銃で撃ったから?



「――多分だけど、セックスが女の子を傷つけてしまうようなイメージがあるのかも。僕は人を傷つけられない。傷がつく女を思うとちんこがたたない。だから僕は役立たず。だから僕は捨てられてたのかなぁ。なんて思うよ。なんか最近いろいろ考えて、それにユタカの記事を読んでみてかな。そう思った。いろいろわかったつもりだ」



 セックスで傷がつく。



「実はまだちょっと股が痛い」



「ドクターも心配してたよ。ドクターのところへ行こう。目無しは殺したんだろ?」



「うん。もう撃ち殺した」



「死体はどうしたの?」



「マリアが運んでくれた。あいつはあたしの子分だからね。その売ったお金で弾を買った」



「……弾を買った?」



 ピンタの声が棘を持つ。こんなピンタは久しぶり。あたしがおかずを食べちゃったときと同じくらい。



「だって、弾丸がないと銃なんて撃てないじゃん」



 ピンタはそれ以降むっつりと黙り込んじゃった。


 ドクターの診療所まで運ばれて、診察室に放り込まれた後はドクターに身体をいろいろ診られた。いつの間にか銃は回収されてた。


 いつもの通り、これでもか! という位の怒鳴り声だったけど。


 その合間に聞き覚えのある発砲音が聞こえた。


 その時だけはドクターは黙り込んだ。


 しばらくするとドクターは「あい! 終わりましたよ! 次の患者が来るだろうから急いで出て行きなさいな!」


 とあたしを追い出した。


 とっても嫌な予感がしていた。

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