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ユタカの記事 6

 頬を膨らませるメイドロボがかわいくて仕方ありません。自分で書いたキャラにもだえています。誰か一緒に悶えてほしい。

 更新も六度目になると、反響が楽しみになってくる。


 しかし、私は悲しい報告をしなくてはならない。


 私への苦情のファンレターのなかに耐水、防刃ぺーバーによるものがあった。


 手紙の内容はここで記すには憚る。詳細は割愛する。


 私はその手紙を見るなり、胸の動悸は高鳴り、視界は赤く染まるほどの怒りにとらわれた。文字を消すことも、破ることもできないのだ。こんな手の込んだ呪詛に私は怒りが収まった後に悲しさしか出てこなかった。破ることも消すこともできないこの手紙を私は仕方なくホットドッグと食した。飲み込むためにもホットドッグを二本必要とした。五ドルである!


 二本食べている私を恨めしそうに眺めるアシスタントに申し訳ないと思いながら、私は飲み込んだのだ。胃が荒れることは必至だった。アシスタントはすぐに察して胃薬を持ってきた。


 彼女は気遣いができる。


 読者の皆様におかれましては、これ以上私の食道を痛めつけるようなことはお控えいただくよう願う。


 さて、前回の記事では掃きだめの島で働くドクターに向かうところで筆をおいた。


 過去の記事でも取り上げたが、ひげじぃが言うには「医者の真似事をしている奴」ということだ。


 はじめに。


 今回の記事は記載を行う上で、最新の注意を払う必要があった。なぜならば、ドクターは男であり、女であるというとても不安定な存在だったからだ。


 取り扱うのに配慮を必要とするテーマを記事にするのは避けたかった。


 しかし、たまには社会的なテーマを示そう。


 性別を髪型のように変える人物がいる。


 珍しい話ではなくなってきている。


 性差による社会的差別も、問題も強引な医療科学の力で解決されようとしている。しかしながら、やはり自分自身の慣れ親しんだ性を変更することに抵抗がある人がいることも事実だ。


 このシティであっても「女性らしさ、男性らしさ」というものを礼賛するものもいる。


 実は私もそっち側だ。女性には女性らしいふるまいを求めたいし、男性には培った男性らしさを発揮してほしい。


 別に私はどちらも否定しない。それこそ嗜好の話だからだ。


 しかし、お互いのその主張の陰にジェンダーに苦しむ人々がいることも知ってほしい。


 知るだけで随分意識は変わるはずだ。そのために私は記事を書いている。


 少なくとも、私はあいつらを同情的な目で見るのはやめた。おそらく横暴に振る舞うだろうし、私も同様に同じように振る舞ってやろう。そう決めたのだ。


 なぜなら、診療所に入るなり私とピンタは怒鳴り声に出迎えられたからである。


 私の心臓に刻み込む怒鳴り声だ。


 こんな恐ろしいことがあるだろうか。


 診療所が揺れた。比喩ではない。


 私のひ弱な心臓は早鐘のように鳴り始めた。


 変な音を立てるので、壊れたかもしれない。あとから確認しないといけない。医者はいないのか! ああ、ここにいたのだ。ドクターに見せるのは遠慮したい。だって怖いもの。


 ピンタがその怒鳴り声をかいくぐりながら、いくらかの金を渡して商品を受け取っていた。


「マリアには定期的な検診に来るように言っときなさい!」


 慇懃な言い回しであるのに、とても強い口調だ。たまに一人称が「おれ」なのか「あたし」なのか定まっていなかった。なにかあるのかもしれない。


 早く、この場を出たい! そんな一心で過ごしていたところにドクターの注目は私にうつった。


「なんですか! 初めて見る方ですねぇ。シティの奴ですか! 昨日からうろちょろしているのはあなたですね!」


 疑問形ではなくて、言い切るそれだ。間違いではないから何とも言いようがない。


 私は私を説明するのに足りる自己紹介をした。


「怪我とか病気したらきなさい! 腕と手足を持ってきたら、つなげてやります。吹っ飛んだなら、高い金払えば生やしてやります! 思う存分に仕事にお励みください!」


 この島では手足が取れるようなことがあるらしい。気を付けたい。


 ああ、それと。と言って、ドクターは言葉を重ねた。


「死んだら、生き返らせるのは私じゃ無理です。気を付けてください」


 ピンタは私とドクターの話が終わるや否や診療所を後にした。

 

「ドクターはどんな人なんだ?」


 記者なら、直接聞いてこい。とでも言われそうな質問をピンタに重ねてしまう。


「……見ての通りさ。いつも怒っている。怪我した奴が来ると怒鳴りながら治療してくれる。あと気に食わない奴は治療してくれない。だからドクターに嫌われた奴はこの島では自然と死んでいく」


「……嫌われた人ってどんな人?」


「僕かな。怪我しないから」


 ピンタは断言した。怪我をしないピンタはドクターに嫌われている。なるほど道理な気がする。


 私は話題を変えた。興味を袋のなかに移したのだ。意図的にだ。


「ちなみに何を買ったんだい?」


「コンドームとピルと石鹸。僕は稼ぎが良い方だから買えるんだ」


「ホット! あの聞きづらいことだけど聞いてよいかな?」


「いいよ」


「ピンタとマリアはセックスするの?」


「……なんで?」


「いや、コンドームとピルがあるから」


 ピンタは島には似つかわしくない笑い声をあげた。


 本当にそれはこの場にふさわしくない。


 たまにピンタはぞっとするほどの艶やかさがある。


「勘違いだよ。姉さんが飲むのと、姉さんの客が使うんだよ」


「ホットだ! 人類最古の商売! マリアは娼婦なんだ?」


「シティにはいないの?」


「肉体のセックスをするような人は基本的にいない。自然派を提唱する夫婦ならするかも」


 純粋に快楽だけを求めるならプライベートネットのほうが都合が良い。プライベートネット故の性的合意形成の問題もあるけど、それは今回の記事では省く。私はいささかの興奮を覚えながら、ピンタの家に戻った。家に入ろうとしたときにピンタが私を引き止めた。


「ユタカ、まだだ」


「なんで? 日差しが強いよ」


 私はピンタの静止に返事をした。日差しが強いから早く日陰に入りたいのだ。


「……ユタカ、自分がセックスしてるの人に見られたい?」


 私はそれとなく、耳を澄ませた。


 扉の向こうからは一定のリズムの嬌声とベッドが軋む音がしている。


 マリアの声か、客のそれかわからない。


 私の胸はまた鐘を打ち始めた。もう、割れてるのではなかろうか。音はするので、割れていないと思う。


 昨夜、感じたマリアの香りを思い出して、私は不覚にも勃起した。


 読者の皆さんの集中力も限界だろうから、次の更新へと持ち越そうかと考える。


 次の更新で最後である。

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