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ユタカの記事 5

メイドロボットが一番好きです。

 私が回数を分けて記事を書いていることについて、不満の声が上がり始めたらしい。


 しかし、それは大人の事情であるということを懸命な読者にはいくらか察していただきたい。こういった賢明さを求めるのはいささか傲慢であろうか。ペーパーブックに収録するためには複数回分の更新が必要なのです! かといって、長い記事を用意すると、活字になれない読者は飽きるらしい。


 じゃあ、活字のシティネット購読するな。と思うところだが、そんなことを書いたら怒られるので胸の内に秘める。


 やはり、むしゃくしゃするので、いつものように、ホットドッグをアシスタントに買いに行かせた。私がそれを頬張ろうとするとアシスタントは物欲しそうにそれを眺める。


「食べたいのか?」と訊ねると、首肯して示した。


 私は感銘を受けた。彼女には食欲がある!


 私は意地汚いので、ホットドッグを一口も食べさせなかった。


 アシスタントの冷たい視線が印象深い。彼女は私のふるまいに憤り、その右手を握りしめて私に暴力を行使せんとしたが、すんでのところで止まる。私は男にあるまじき情けない声を揚げていたが、そのことは名誉にかけて記載しない。


「なんで?」


「セクサロイドは人を傷つけられないようになっています」


 なんと! 私の嗜虐心を満たす最高のチューニングだ。


 彼女は人間に暴力を行使できない。


 それでは、五回目の記事だ。


 島で二日目の朝は早い。


 まだ日も昇るかどうかの時間にピンタはのそのそと動き出した。


 私はピンタとマリアに挟まれて眠っていたが、どちらかというとマリアの香りを嗅ぐ方が心地よかったので大胆にもマリアの方を向いて眠っていた。呼吸をするたびに上下する乳房を眺めるのが楽しい! このうれしい体勢を崩したくない。しかし、彼が出かけるならついていきたい。そういったジレンマが私を襲った。


 そんな中ピンタが私に声をかけてきた。



「ユタカ。起きてるだろ?」



「……ああ、起きてるよ」



 ばれていたのに驚きだ。私には狸寝入りの才能はない。



「そんなに鼻息荒かったら分かるさ。今から僕は外に行くけど。どうする?」



 ついてくるかどうか? という意味だ。


 ピンタはこういうところで気の利く少年だ。


 私の本分をよく理解してくれている。


「このままマリアと二人っきりになりたいという欲望もあるけれど、二人っきりでいたらどうなるかわからない。一緒させて」



「……あはっ! どうにかしてくれてもいいのにね」



 艶を含ませた声でマリアが返事をした。なんとマリアは起きていた。



「ユタカは鼻息が荒いのよ」



 私は誰かと同衾するような機会はなかったし、作ろうともしなかった。


 私は鼻息が荒くなるらしい。


 出かけるにあたって、ピンタとマリアが私の服装についてアドバイスをくれた。


「ユタカの身体はがっしりしすぎている。これじゃ目をつけられる」



「なにか問題が?」



「なんていうのか、肌がたるんでいるとか太っているとかじゃない。健康的なのが目立ってしょうがない」



 ピンタは家の外に転がっていたボロを私に寄越した。



「我慢してこれを羽織って。全体を覆うようにしてるけど、それでも目立つなぁ……ちょっと猫背にしてみて」



 私は言われるまま従う人形のようだ。


 最後には顔にパウダーまで振りかけられた。


 風呂上りにマリアがつけていたものだ。それをつけることで、肌がすべすべになって、評判がいいらしい。なんの評判かはまだ知らない。


 風呂上りの時とはおそらく量が違う。たっぷりと顔にまぶされた。


 マリアが付け加える。



「随分よくなったわねぇ。貧相な感じ。この島の男みたいよ。何よ? 不満なの? 家に帰ったらボロを脱いで、粉をはたけばいいのよ。我慢なさいな」



 マリアに言われたら、諦めないといけない。


 そんな強さがあった。


 そして、それを許す奔放さを昨日と今日とで私は理解した。



「じゃあ、ユタカ。取材っていうけど、なにが見たいんだ?」



「君たちの生活ぶりを知りたい。生活のシーンを切り取りたい」



 ピンタは了承した。



「分かった。じゃあ、今日は僕の跡をついてきて。分からないことがあれば訊いて。あとは……勝手に人に話しかけないでくれ」



「……なんで、話しかけちゃいけない?」



「……シティの人っていうのは人の気持ちが分からないような奴らなのか? 知らない人が笑いながら話しかけてきたら怖いだろ?」



「……もしかして、私が話しかけたときは警戒してたのか?」



「ちょっとだけね。不気味だったよ」



 ホットだ。



 ピンタ達は自分たちのことをスカベンジャーと自称していた。



 朝の早い時間に彼らは背負い籠と金ばさみをもって出かける。朝の暗い中、動き回る黒い点。それらはピンタと同年代程度の少年少女だ。目だけが異様に光ってるように見えた。



「ユタカ。あまりじろじろ見るな」



 ピンタに叱られた。この島では目が合うことは敵意の現れなのだという。だからか。子供達の多くは目を伏せている。大人も混じっているが、私と目を合わせるとそれをすぐに伏せた。



「ユタカはガタイが良いもん。美味しいものたくさん食べたんだろうな」



 彼らの集団に私たちも混じった。


 私たちは上流の岸、シティの方へ歩き出す。しかし、シティにたどり着くことはない。


 ゴミの岸を見た。


 ピンタはゴミの中をかき分けながら、主に機械類のゴミをあさった。レアメタルを回収したら、ひげじぃが高く買い取るそうだ。


 朝の涼しい時間にゴミを集めてきて、遅い時間の朝飯時に家に戻ってきた。


 マリアはシャワーを浴びた後だったらしく、髪が湿り気を帯びていた。マリアはいつもシャワーを浴びていた。この時はまだ理由が分からなかった。


 マリアが遅い朝食(早い昼食にもなった)を用意している間、ピンタと二人でレアメタルの回収をする。


 私もピンタの見様見真似でする。しかし、私が一つ終える間にピンタは四つ終わらせた。私の不器用さにピンタは驚いていた。どうせなら笑ってくれ。


 マリアがふかした芋を三人で頬張る。塩を振ったそれは素朴で美味かった。


 私とピンタは回収したレアメタルを袋に詰めて、ジャンクショップへ。


 ひげじぃはレアメタルを一瞥した後、金を投げてよこした。


 本当はこの二人は仲が悪いんじゃないのか。


 ピンタはその金を受け取ると、他の買い物に向かった。全てをジャンクショップで賄うわけじゃないみたいだ。



「今からどこへ?」



「姉さんの仕事道具をね……ドクターの診療所さ」



 掃きだめの島には医者がいる。


 今日はここまでだ。もうそろそろ眠くなる人がいる文章量だ。


 次回は診療所の話だ。

ユタカがもうそろそろさよならバイバイです。

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