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良い子の死霊魔術  作者: 手のりかいつぶり
月彦と死霊魔術
9/60

2-7 検証,死霊魔術②

死霊魔術説明回②.ちょっとグロです.

[検証,死霊魔術②]



植物実験と(一部無脊椎動物実験)を無事終了した僕が着手したのは,動物実験である.軍研究室の解剖室に通いつめ,魚から哺乳類まで,いろいろな動物を甦生させまくった.



その結果,まず,骨格さえあれば,どんな生き物でも甦生可能であることが分かった.

植物や無脊椎動物のような骨のない生き物であれば,全体がからっからになっていれば甦生が可能だったが,骨がある生き物は,骨がないとダメなようだ.だから,生き物の皮を剥いで作る剥製を甦生することはどうしても出来なかった.逆に,骨さえあれば,絶滅動物でも,化石しか残っていないような古生物でも,ばっちり甦生可能である.これは,もしかしたら,生物学者とタイアップして,死霊魔術の平和的利用につなげることが出来るんじゃないかと僕はちょっと嬉しくなった.



加えて,骨が一部でもあれば,その部分だけ受肉させることが出来ちゃうのである.ただし,ものすごくグロい事態になってしまうが….部位によってはぴくぴく動くが,全身を受肉させた場合に比べると,どうしても術の継続時間は短かった.もう,狼の頭とか鳥の羽とか,一部しかない骨格は,死んでも甦生させたくない.だって,塞がれてない血管から血も出るし,ぴくぴく苦しそうだし,術が切れるまで僕がしてあげられることなんてないから,2度目の死を待つしかないから….



でも,骨の一部があれば術が効くという減少それ自体はすごく面白いと思った.だって,いわゆる「魂」のようなものがなくても,生物の一部が甦生するんだものね.まぁ,魔力で無理やり甦生させているから本当の生き物の「魂」のありかたとはまた違うのかもしれないけど,身体の末端まで,細胞の1つ1つに「魂」のかけらのようなものが含まれているのかなぁーと想像するのは,(社会にそのまま還元するのが難しい)文系の研究をしていた僕にとってはとても有意義な時間だった.もう二度とごめんだけど.



そして,甦生した生物は,その一番生命力にあふれた時代の姿で生き返ることも分かった.たとえば,産まれたばかりで死んでしまった動物の骨でも,老衰で死んでしまった動物の骨でも,生殖能力に溢れた(まぁ,甦生物が生殖活動を行うことはないが)一番美しい姿で蘇生する.だから,あのネズミも僕の親愛なるジェード(イグアナ)も,あんなにふさふさ,もしくはすべすべであるわけだ.



また,病気にかかることも,怪我をすることもない.そりゃ死んでるから,病気にもならないのは当然だよね.怪我も,甦生すると肉体が頑丈になるようで,よっぽどのことがないかぎり(おもいっきり燃やされたり,天井が落ちてきてペッちゃんこにならないかぎり)「怪我」をすることもない.骨が折れて飛び出してきたり,どす黒い血が出たりすることはあるけれども,それで動きが鈍くなったりすることはないみたいだ.ただ,血は勝手に止まるけど,骨はほっといておいても直らないし,肉の中に押し込んでやっても完全に直るわけではないようだ(術が切れるまでそのまま).



それから,どんな動物でも術者にメロメロになる.あんまり頭が良くなさそうな魚だろうが,絶対いうことをきかなそうな毒蛇や鰐や鮫だろうが,僕よりも頭が良いかもしれない類人猿や狼のような生き物だろうが,甦生させた瞬間,僕にすり寄ってくる.言葉もある程度理解して,言うことも聞く(もちろん,生命の本質とか理想の恋愛観とかそういう抽象的事象は伝わっていないと思う.でも,大人しく,我慢強く耳は傾けてくれる.もしかしたら,飽きっぽいソーレより理解してくれているかもしれない.).



また,完全に息を引き取っていない生き物には死霊魔術はかからない.が,息を引き取った瞬間から術がかかる.ただ,僕は細かい医療のことは分からないし,精密な機器がソシエにあるわけでもないので,この「死」が,いわゆる脳死なのか,それとも心臓死なのか,もしくは,魔術が死と認識する特別なタイミングがあるのかは,今でも良く分からない.少なくとも,呼吸が止まっていて,心臓が動いていなければ,術はかかった.これは,骨格標本を使っているだけでは分からなかったので,実際に生物の死体を探して実験した.



まず,ハードルが低い魚から始めようと思って,釣りに行った.

ソシエ中心市は内陸にある(港町まで魔力駆動車で3時間ぐらい).市内には大きな川が1本と,それに流れ込んでいる川が3本あって,なかなか水がきれいで風光明媚な所である.僕は,「研究費」で釣り具を購入し,役所の裏を流れている川に釣りに行った.



…が,超インドア派の僕に釣られるような鈍くさい魚などおらず,暫し途方にくれてしまった.困ったなーと河川敷をうろうろしていると,魚の死骸を発見.どうやら日本でいうところの鮭のような生き物が遡上してくる川だということが分かった(ソシエもこの時期,冬である).そこで,今度はゴム長を装備して,魚の死骸や死んでいるっぽい魚に術をかけまくった.そして,完全に命尽きた状態でないと死霊魔術がかからないことを検証してまわった.魚の死骸/瀕死の魚は,鳥が集まっているところに行けば見つかった.獰猛で凶暴なカラスっぽい鳥や猛禽類と,僕は魚の死骸/瀕死の魚を取り合ったのである.突かれたり,威嚇されたりして結構怖かった.

が,ぼろぼろの魚に術をかけると,どんなにボロボロでも食いかけ状態でも,ぴちぴちの新鮮なお魚に甦生された.



次に,街を歩いて動物の死骸を収拾した.日本で暮らしていると,道に動物の死骸なんて落ちていることはほとんどなかったけれども,ソシエではまだそこまで役所の手がまわっていない.だから,早朝,河川敷や公園の植え込みなんかをあさってみると,小さなところでは鳥やウサギ,ちょっと大きくなると犬猫なんかの死骸をゲットすることが出来た.そういうのに死霊魔術をかけた.



大変心苦しかったのだが,瀕死の軍馬や実験動物の臨終に立ち会わせてもらって,術をかけたこともあった.これは,かなり気まずかった.なんていったって,可愛がっていた動物が死んでしまう,とみんな悲しい気持ちでいるところに押しかけていって,魔術の実験するんだもんね.そして,死んでみんな神妙な気持ちになっている前で,甦生しなければならないんだもの.ああ,ついに死んでしまった,と悲しんでいる人たちを前に,さっきの死がまるで嘘だったかのように出来立てほやほやの死体を甦生させるんだ.これは,死の厳粛さを損なってしまうような行為だ.だって,ホントは死んじゃっていて,もう生き返ることは無いのに,甦生することによって偽りの生を与えて,加えて,人々に偽りの希望を見せてしまうような行為だものね.

死霊魔術は便利だけど,使うタイミングに気を付けなければいけないと,強く考えさせられた瞬間だった.



ま,そんなこんなで,結局,


・脊椎動物を甦生させるには骨が重要なこと

・一部でも骨があれば,術がかかること

・骨に皮や肉が残った状態でも術がかかること

・死体じゃないと術がかからないこと

・生物として一番良い状態で蘇生されること

・甦生物は術者に従順であること


が明らかになった.



―――――

このような動物実験を経て,ついに僕は,禁断の人体実験を行うことになったのである.

現代日本人として,割と倫理や哲学,歴史に興味を持って生きてきた身として,人体実験を行うのは,とてもハードルが高いことだった.しかも,僕はソシエに来て,未だ日が浅く,ソシエの人々がどのような死生観を有しているのかも知らなかった.

しかし,死霊魔術を十全に理解するには,動物実験だけでは分からないことがたくさんある.もしかしたら,臓器のドナーのように,死の尊厳を尊重しつつ,死霊魔術を世の中の役に立てることが出来るかもしれない.

僕はここに来て迷った.

そして,体調を崩して,病院送りになった.



その日も,僕は人体実験の実現可能性を考えながら,日課の死体集め(スイマセン)をしていた.ソシエ中心市でも朝方から雪が降っていた.僕は雪国の生まれなので,ソシエの寒さは大して気にしていなかった.雪も特に問題なし.足元もばっちりである.だから,その日の朝も図書館の裏の公園を徘徊していた.植え込みの陰を覗いて歩き,あー,この雪が積もった切り株,甦生させて怒られたヤツだなー,一回乾いた植物が湿った状態になっても術はうまくかかるのかなー(水に浸した押し花は特に問題なく甦生した.押し花を水浸しにしても別に生き返ったりしないものね)とか考えつつ歩いていたら,急に立ちくらみがして,雪の上に膝をついた.あー,この目眩が少し落ち着いたら,誰か助けを呼ばなきゃなー,とちょっとベンチの上に横になったところで,意識がフェードアウト.



気づいたら,見知らぬ天井,薬と病気と死の香り.軍病院のベッドの上だった.

事態が把握できなくて,起き上がろうとするも,再び目眩.気づいた軍医さんが来て,状況を説明してくれた.軍医さんは,茶髪が多いソシエでは珍しい黒髪の,50歳ぐらいの女医さんだった.


「あんた,命拾いしたな.もうちょっとで気管支炎なるところだったんだぞ.こんな時期に公園のベンチで寝るやつがあるか.出勤途中の図書館の司書が見つけた時には,あんたは雪の下で,身体はすっかり冷え切っていた.良かったな,凍傷になってなくて.お前,ちょっと無理しすぎだろ.ソシエに召喚された時も,過労で高熱出してぶっ倒れてただろ.見るからに不養生なんだから,せめて体大事にしろよ.ソーレ,真っ青になってたぞ.」


「うわー,目眩がしてベンチに横になったところまでは覚えているんですが,親切な人がいて命拾いしました.あの,先生は,どうして僕が召喚されたことや,召喚時の高熱のことをご存じなんですか.」


「そりゃー,あんたが高熱を出していることに動揺したソーレが,有能で口が堅いアタシを召喚したからね.だから,あんたを診るのはこれで2回目なんだ,リューナ=ツキヒコ=アンヤ,ソーレのお姫様.あんたが寝てる時のソーレ,面白かったぞ.なんてったって,あんたのような30近い男を見て,少女と間違って,盛ってたんだから.フロラが言ってたがな,あんたの水色の寝巻選んだの「わー,エスタ,何話してるんだよ!」なんだ,ソーレ,タイミングがほとほと悪いヤツだな.

リューヤ,お前は1週間入院だ.その健康に対する意識の低さをしっかり反省するがいい.その間,しっかりソーレに甘えるんだぞ.」


「もう,エスタ!」


「はぁ,先生,どうもありがとうございます.」


あたふたするソーレをものともせず,僕らをニヤニヤ眺めつつ,女医さんは去っていった.



ソーレは,病室(8人部屋)の隅から椅子を持ってきて,僕のベッドの脇に腰かけた.

「リューナ!寮の部屋に行ってもいないし,研究所にもいないし,すごく心配したんだぞ.お前のことを見知っていたエスタが気を利かせて,俺に連絡を入れてくれたんだ.研究熱心なのはいいことだけど,まだソシエに来て間もないんだから,あんま無理しないでくれよ.リューナが雪に埋もれてたって聞いて,俺生きた心地しなかったぞ.ほら,まず,フルーツでも食えよ.」


「ごめん,ソーレ.来てくれてありがとう.僕,雪国の生まれだから,雪が降ろうがちょっと寒かろうが大して苦にしてなかったんだけど,やっぱり今まで暮らしてきた環境と随分違ってたみたい.ホント,みんなに心配かけてしまってごめんなさい.」


「命あっての物種だぞ.リューナが死霊魔術の研究に真剣に取り組んでいるのは,セプトさんやマルスだけじゃなくて,トラン様やボイオさんも認めてるんだ.だから,これからも研究続けるためにも,もっと自分のこと大事にしないと.リューナのこと召喚した時だって,君,高熱出して,意識なかったじゃないか.」


「うん.僕,身体と精神の疲れが限界に達すると,高熱出して3日ぐらい寝込むのね.いつものことだし,誰も看病してくれる人もいなかったから,そういう時は一人で休んでそんなに気にしてなかったんだ,心配してくれるような人もいなかったしね.」


「リューナ!心配してくれるような人がいないなんてことないよ.友達が大変な時,頼ってもらえないと,結構寂しいんだから.少なくとも,俺は頼ってほしいと思ってるから.」


「…ありがとう.ごめん.」


日本では,リア充の皆さんのリア充ぶりに打ちのめされ,倒れるほどのダメージをしばしば受けていた僕にとって,ソーレの言葉はとても嬉しかった.そして,僕が感じていた疎外感も,僕自身が産んだものだったのかもしれないと少し反省した.もしかしたら,僕が積極的に声をかけたり,助けを求めたりしていれば,もっと疎外感を感じずに済んだのかもしれないなぁと.僕は,他者に拒否されるのが怖かっただけなのかもしれない.自分でアクションを起こさなければ,拒否されることは無いから.でも,拒否されないだけで,疎外感や虚しさが解消されるわけではない,むしろそういう負の感情が深まっていく一方だった.せっかくご縁があってソシエに来て,ソーレに出会ったのだ.この出会いを大事にしていきたい,自分の気持ちを包み隠さずに表現していきたい,と強く思った.

だから,人体実験のことについて,ソーレに相談することにした.



―――――

「ねぇ,ソーレ.僕,死霊魔術の人体への影響を解明したいと考えているんだけど,相談に乗ってくれないかな.」


「もちろんだよ,リューナ.」


「ここ2か月近く,僕は植物と動物を使った死霊魔術の実験を続けてきた.そして,死霊魔術がかかる条件が大分分かってきたのね.でも,それが,人体,というか人骨や人の死体にどのような影響を与えるかをきちんと検証したいと考えているんだ.やっぱり,動物と人間では随分違うかもしれないし,故人を甦生させる機会が来るかもしれないから.

たとえば,僕は元の世界で歴史の研究をしていた.古代のことだとどうしても史料を読んだだけでは分からないことが多々ある.そんな時,歴史上の人物に会って話をしてみたいと考えたことが何度あることか.または,殺されてしまった人を甦生させることで真犯人発見の役に立つかもしれない.あるいは,相続でもめた時にも死霊魔術の需要があるかも.

死人を甦生させるから,心理的抵抗感や倫理的問題も多々あって,そんなにほいほい使えるものではないというのは良く分かっている.でも,いざ,死霊魔術を世の中を良くするために使おうとなった時,この方面の検証が済んでいなければ,術を実用的に使うことがますます難しくなってしまうと思うんだ.だから,人骨を使った実験と,遺骸を使った実験を僕はしなければならないと考えてる.

ついては,まず,ソシエの死生観やタブーについて教えてほしい.もし,死体を弄るのが死者への冒涜となったりするようならば,僕はそういうことをしたくないから.それから,死霊魔術の実験に協力してくれる人を探すのを手伝って欲しいんだ.」


「そうか,人体実験ねぇ.少なくとも俺が知ってる限りでは,死体に死霊魔術をかけることに対する抵抗感というのは,あまりソシエに無いと思う.だって,死体をばらばらにしたりするわけじゃないんだろ.そういうとこちゃんとしてれば,そこまで問題ないんじゃないか.術者が稀だってだけで,死霊魔術という属性があることはみんな知ってるんだし.だが,協力者となるとなかなか難しいのかなぁ…」


「私が協力しますよ,リューナさん.」


顔をあげると,いつの間にか,大きな花束を抱えたセプトさんが僕らの傍にいた.


「セプトさん!」


「我が一族の霊廟を使うといいですよ.我がコネリ家は,代々魔術で身を立ててきた一族です.死霊魔術の実験台になると知れば,皆,喜ぶに違いありませんよ.300年近く使われてきているので,様々な保存状態の遺骨がありますし,中には火葬された方もいます.伝染病で亡くなったような方は火葬されましたから.それに,霊廟は,我が領地の屋敷から歩いて通える距離にあります.だから,家に滞在して思う存分研究するといい.

だから,思う存分研究に打ち込める様に,まず,身体を治さなければだめですよ.リューナさんが倒れたと聞いて,私も驚いたんですから.くれぐれもお大事にしてくださいね.すっかり元気にならないと,家の領地に連れていきませんからね.」


「そうだぞ,リューナ.今日も研究熱心なのは良いけど,顔赤いぞ.熱全然下がってないだろ.俺も,ついつい研究の話してしまったけど,もう寝ろ.また,帰り寄るから.」


こうしてセプトさんとソーレは,連れだって帰っていった.

僕が1週間後にやっと退院するまでに,ソーレやセプトさん,そしてフロラさんが入れ替わり立ち代わりお見舞いに来てくれた.エスタさんもこっそり,あの水色の寝巻がソーレの趣味だったことを教えてくれた.嗚呼,可愛そうなソーレ.



―――――


退院するとすぐ,セプトさんはコネリ家の領地に僕を連れていってくれた.

霊廟は石積みの丸い形をしていて,バスケットボールコート2面分よりも広かった.1階には代々の領主や奥方の石棺が置かれており,古い骨や火葬された遺骨が納められた骨壺が地下に収められていた.



まだ,雪深い時期だったし,石積みの建物はものすごく底冷えした.だから,僕は病み上がりだからと,新しい高性能なコートや防寒具をあてがわれ,身体が温まるようなお酒を入れた水筒を持たされた.僕が倒れないよう,僕を世話し,僕を監視するために任命された使用人が付けられた.あまりに長時間霊廟にいると,その人が声をかけて屋敷に連れ帰ってくれた.

セプトさんは領地に僕を連れてきた後,一度ソシエ中央市に帰ったが,ちょくちょく様子を見に来てくれた.中心市の研究所にはソーレがいるので,帰りは召喚してもらえばいいから結構気楽に帰省できて良いのだとか.



僕はまず,1階に置かれていた石棺に埋葬されているご領主さまたちに死霊魔術をかけてみた.すると,込める魔力の量によって,「死の舞踏」のような骸骨スタイルでの甦生と,普通の受肉した状態の甦生が可能であることが分かった.骸骨スタイルの方が,込める魔力は少なくて良いようだ.動物を甦生させていた時は特に困らなかったのだが,人間を甦生させると(当然のことなんだけど)みんな裸で目のやりどころに困った.一番初めに,霊廟の戸口から一番近い場所にあった石棺に術をかけてみたら,なんと,ご領主と奥方のお2人が一緒に埋葬されている石棺だった.故に,本当にもう,目のやり場に困ってしまった,お2人ともきちんと受肉した状態で蘇生させちゃったので.人骨に術をかけた場合でも,その人の人生の一番いい状態の肉体で蘇生される.故に,初心というか女性経験皆無な僕としては,ものすごく困った,ホント困った.赤面してフリーズしてしまった僕の代わりに,使用人の人が館から服を持ってきてくれて,助かった.そして,さすがセプトさんのご先祖だけあって(5代前の方だった)研究に大変理解があり,状況を説明したら,面白がってくれて助かった.怒られなくてホント良かった.その後,服が何着か霊廟に常備されるようになった.



また,石棺に収められていたホネよりも火葬された骨の方が,甦生するのに魔力が必要だった.普通の人骨にかけるつもりで術を行使すると,大体骸骨スタイルでの甦生になった.でも,骸骨で舌がないのに,言葉を発することが出来るというのが面白いよね.脳みそ無いのに会話も出来るし.



それから,人体実験して一番興味深かったのが,自我や知識の問題.死霊魔術で蘇生したご先祖様たちには自我があった.これは動物を甦生した場合に,術者にほぼ絶対服従するのと一線を画していた.確かに,甦生した人々は,みんな僕の研究に協力的だった.しかし,僕の命令を全部聞く,という感じでなかった.甦生した方の性格は,生前の性格とほぼ同じであるようだ.それは,館に所蔵されていたセプト家の歴史書や代々領主の日記などを借りて確認した.



また,甦生された人は,生前習得した技能をそのまま有していた.剣が得意な人は剣が得意なまま,絵心がある人は素晴らしい絵をかくし,美声が自慢だった人は素晴らしい歌声を聞かせてくれた.加えて,甦生した後も新たな知識を習得することが出来た.僕は,甦生した彼らに日本の話をした.漢字を書いて見せ,日本の歌を教えた.彼らは僕のプロフィールを覚え,漢字や歌を覚えてくれた.しかし,術が切れ死体に戻り,また改めて術をかけた場合,前回の甦生時に習得した知識は失われていることが分かった.再び話したいと思っても,また自己紹介から始めなけらばならず,かなり悲しい思いをした.ただ,術が切れる前に魔力を注ぎ続けることで,記憶を保ったまま甦生させ続けられることが分かった.また,魔力を注ぎ込む際には,甦生物に手を触れている必要があった.



そして,甦生された人物は,自分の生前の家族をきちんと認識出来ることも明らかになった.それは,セプトさんのたっての願いで,セプトさんのご両親を甦生させた時に分かった.中央市から帰省していたセプトさんは,僕が甦生させたご両親と,彼らが亡くなった後から現在のことを語り合った.彼は,軍務に疑問を持ってソシエ独立のために戦ったことや,平和のために魔術研究をしていること,そして,僕の召喚の顛末についても語った.奥さんや子どもさんのことも語った.そして,3日後に彼らが骨に戻った時,珍しくしんみりした様子でお礼を言われた.



死者を甦生させることは,必ずしも良いことばかりでないことは重々承知している.たとえ甦生させたとしても,その人自身が生き返るわけではなく,魔力で仮初の命を作っているだけなのだから.しかし,注意深く使うことによって,歴史の謎を解き明かし,残された生者の心を明るくすることが出来る術なのだと考えられるようになった.

コネリ家の霊廟で過ごした時間はとても有意義であった.



僕がソシエに召喚されたのは冬の寒い時期であったが,コネリ家の屋敷からソーレの召喚術でソシエ中央市に帰ったころには,雪解けの季節になっていた.

日に日に明るくなっていく市街を眺めながら,僕は,この研究成果を生かす方法を検討するようになった.


動物実験と人体実験を通して,死霊魔術についてますます多くのことを学んだ月彦!次回,第8話では,ついに,死霊魔術の有効活用篇が始まるよ!!

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