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良い子の死霊魔術  作者: 手のりかいつぶり
月彦とソーレ
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外伝1:召喚士ソーレ=ヒュントの煩悩①

ソーレ視点です.月彦が高熱にうなされていた間に何があったのか,愛すべきわんこであるソーレ君の口から語っていただきましょう.

[外伝:召喚士ソーレ=ヒュントの煩悩①]




俺は感動に打ち震えていた.嗚呼,ついに俺の理想の女性と出会うことが出来た,と.少し長めのショートカットの黒髪は見るからにサラサラ.おそらくビロードのような素晴らしい手触りであるに違いない.ちょっと幼い感じの顔も,ほっぺが真っ赤で可愛らしいし,あんまり背が高くなさそうなのも良いな.そして,何よりとても柔らかそうだ.ひゃっほーい!マルスからは,俺が彼女(・・)のお世話係やっていいって言われてるんだよねー.あー,役得過ぎて舞い上がりそうだ!優しくしてあげて,ゆくゆくは,むふふな関係に持ち込む予定だ.

と,召喚士ソーレ=ヒュントこと俺が小躍りしていると,隣に控えていたフロラ=カロルさんが何か言いたげだ.

フロラさんは,この建物がレギア軍の施設だった時代からここで働いていたそうだ.その後,建物の所有が変わるたびに,彼女の肩書も変わり,彼女の雇い主は,レギア軍→ソシエ独立軍→ソシエ政府と変化してきた.となると,彼女っていったい何歳なんだろうなー,見た目俺と同じ20代半ばにしか見えないのに….とつらつら考えていたら,殺意が込められた眼で睨まれた.うわー.噂によるとフロラさん,凄腕の水術士で,軍人でもおかしくないような才能らしい.独立戦争中の兵舎の平和も,彼女のおかげで守られたとか,守られてないとか….うーん,こう考えてみると,独立戦争では通信担当の下っ端兵士だった俺と比べて,彼女の方がよっぽど戦果を挙げているような….っわ,ますます,殺気が増している…!もう,このことを考えるのはやめよう,ウン.



俺は気持ちを切り替えて,フロラさんとの会話に専念した.

「ど,ど,どうしましたか,フロラさん?」

「ヒュントさま,もしかしてこちらの(・・・・・),熱を出しておられるのでは.頬どころか顔全体が紅潮しておりますし,呼吸も苦しそうです.速やかにベッドにお運びして,お医者様の診察を受けたほうがよろしいのではないでしょうか?」

む.確かに良く見ると,熱っぽいような….おずおずと傍によって額に触ってみると(ちょっと俺も顔が熱くなってしまった),すごい高熱である.

「フロラさん!大変だ!!すっごい熱高いみたい!俺,彼女のことベッドに運ぶから,フロラさん,医者呼んできてくれないかなっ」

俺が慌ててそういうと,フロラさんは冷静に,

「彼女はわたくしが寝台にお運びいたします.何より,わたくしがお医者様をお呼びするよりも,召喚士であるところのヒュントさまがお医者様を召喚したほうが早ようございます.」

はっ,確かに!

というわけで,俺は彼女のとても魅力的な体に,合法的に堂々と触れる機会を泣く泣くフロラさんに譲り,独立軍時代からの友人である軍医(50代の独女)を召喚した.彼女なら腕も確かだし,突然召喚してもうろたえることもないし,困った事態が起こることもあるまい,と愚考したからである.

こうして,フロラさんが彼女(・・)を寝台に運び,汗をぬぐっている間に,部屋から追い出された僕はベテラン女医さんの召喚を行った.



「なんだ,突然召喚されたから何かと思えば,またあんたか,ヒュント.お前,また何かやらかしたのか?服の上から見たところ,お前さんには特に問題がないようだが….もしかして,人には見せられないようなところに問題が生じたのかね.「ちょっと,全然違うから」あー,見せるの恥ずかしいから突然あたしを召喚したのー.「ちょっと,そういう問題は無いから!二度とないから!」何よー,人が話してる最中に口突っ込んでくるなんて,躾のなってないわんこちゃんねぇ.何よ,そういう問題じゃないんだったら,こんな遅い時間になんであたしが召喚されなきゃならないわけ?」

「いやぁ,だからさぁ,」

俺が説明しようとすると,部屋の中からフロラさんが出てきた.

「先生,突然,荒っぽい方法でお呼び立てしてしまい申し訳ございません.ですが,急患なのです.ヒュントさまが召喚した()が高熱を発しておられるのです.どうか見ていただけませんでしょうか.」

「そういうことか.事情は分かった.もちろんすぐ診療しよう.おい,ヒュント.そういう事情なら,さっさと説明しろよ,つい邪推してしまったじゃないか.」

くそ,エスタ(彼女の名前はエスタ=カリスという)のヤツめ!なんという邪悪な笑顔だ.確信犯で俺をからかったんだろ,フン.やっぱり腕がいいからと言って水虫(・・)の治療を頼んだのは一生の不覚だった,無念….

俺が悶々としていると,フロラさんが扉を開け,エスタを中に通した.エスタは「お前は男なんだから,淑女の寝室に入るなど破廉恥なことをしちゃいけないんだぞ.大人しく廊下で待ってろ.お座り,伏せ,待て.」というとんでもなくヒドい捨て台詞をはいて,にやにやと部屋に入っていった.わーん,もう泣きそう.



かれこれ小1時間,俺は自分(・・)の部屋から閉め出され,廊下の隅にしゃががんでうじうじしていた.寒い,眠い,お腹空いた.

エスタが部屋から出てきたのは,もう空が白み始めた時間だった.

「なぁ,彼女(・・)大丈夫かな?」

「おう,ただの疲労だな.でも,あいつ(・・・)ここ最近,かなり無理してたっぽいな.熱が高くて苦しそうだったから,特別に治療術かけてやったぞ.後で割増しで料金請求するからな.ま,どうしょうもない事態だったということで,往診料はまけといてやるな.可愛いお姫様(・・・)のナイト役,せいぜい励むんだぞ,わんこちゃん.」

こういい捨てて,実に豪華な胸までの長さの波打つ黒髪をかきあげながら,エスタは去っていった.

心身に大きなダメージを受けた気がする.あー,やっぱりエスタを喚んだのはマチガイだったかー,とぐるぐる考えていると,フロラさんが出てきて,少し熱が落ち着いてきたから,彼女(・・)を彼女のために準備した部屋に移動させることを提案してきた.

フロラさんも,結構良い体格をしているけれど,彼女(・・)を建物の5階から3階まで抱き上げて連れていくのは困難であるに違いない.というか,困難であってほしい.おずおずと俺が彼女(・・)を運ぶことを提案すると,許可をもらえたので,俺は意気揚々と自分に与えられた任務に取り組んだ.彼女・・を寝台に下ろした後,看病はフロラさんに任せ,俺は一回部屋に戻って仮眠をとった.

因みに,彼女が横になったシーツだぜ,うはうは,と部屋に戻ったら,フロラさんの手によって,シーツは既に新しいものと交換されていた.がっくし.フロラさん,有能侍女過ぎる….



ちょっとがっかりしながらしばし仮眠をとった俺は,黒髪の女性(・・)を無事召喚したこと,彼女(・・)が高熱を出しているため,予定していた面接は延期する必要があることをマルスとセプトに伝え,2人の承諾をもらった.

後から考えてみると,この時マルスはニヤニヤ笑いをしていた.マルスがあの笑みを浮かべているときに,ろくなことが起こったためしは無いんだ.あー,あの時の俺,どうしてそんなことに気づかなかったのか.冷静に対応していた気分だったけど,はたから見ればすごく浮かれてたんだろうなー,はぁ.

この時の俺が衝撃の事実に気づくことはなかった.



黒髪少女(仮)を召喚し,最大限に浮かれていたソーレ.彼は,月彦が寝ていた一日の間,何をしていたのか.その謎が,今,ここに明かされる!外伝2に続く.

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