間 雫石葵 ──失踪事件から三十日
私は楓様に会うべく、女学院の近くの喫茶店にいた。楓様は桔梗様よりも上の方だ。私はきちんとした和服を着て待っていた。
やがて楓様が現れた。
「あら、随分と早いのねえ、葵ちゃん」
「お相手は楓様ですもの。当然のことですわ」
「そう? ふふっ、嬉しいわ」
楓様は艶やかに笑う。この妖艶な雰囲気はとても憧れてしまう。何歳なのか分からない大人っぽさ。とても素敵だと常々思う。
「ところで、桔梗様についての噂とは……」
「あの日、桔梗は教室から出てきたの。でも、桔梗をよく思わない同学年の女子が嘘をついた。……まあ、そういう噂よ。信じてもよいけれど、自己責任だから」
「……あの、では、三年生の中で派閥争いみたいなのがあるのですか? 」
「まあ、そうねえ。あなた達に証言した女子はきっと、繰祢派だわ。繰祢が指示したのよ。あの子はそういう子だから」
「……なるほど、よく分かりました」
「それじゃあ、またいつでも連絡して頂戴」
私は楓様から連絡先が書かれた紙を受け取り、喫茶店から出ることにした。──彩龍慈繰祢。彼女を問いつめなければならない。
私は折角なので、和菓子屋に寄ることにした。女学院がある華京地区は八重や楓様などのお家、合計で四家が認めたお洒落なお店しか並ばない。しかもかなり高級のため、私も時々しか買えない。
でも今日は母親からそれなりに貰ったので、妹や両親の為にも美味しい美味しい和菓子を買おう。
「いらっしゃいませ」
「あ、薫」
「葵。久しぶりに来たわね。今日はどうしたの? 」
「妹と両親の為に和菓子を買いにきたの。手頃な物、ないかしら? 」
「あるよ。ちょっと待っていてね」
薫はここ、久遠和菓子屋が繁盛した為に女学院を辞めた。華京地区に移転する際、自ら志願して中等部三年ながらにして辞めたのだ。私は親友だったから悲しかったけれど、それで良かったと思っている。
高等部は女学院の中でも一番人間関係が変なのだ。八重は後継ぎじゃないから、と私と同じ位置にいるし、派閥はあるし。薫の短気な性格で耐えれるのかは怪しいぐらいだ。
薫が紙袋を持ってきた。
「はい、鯛焼き。家族で分けて食べてね」
「ありがとう。はい、お金」
「うん、それじゃあまたね」
薫は少し寂しげだった。




