髭 花桜八重──七月二十日
今日は朝から、お母様の講義を聞いていた。花桜家がどのくらい素晴らしい歴史を歩んできたのか、そしてそれを邪魔しようとした家があったとか。
私はお昼までそれを聞いた。お母様と共にお昼ご飯を食べる。
「お昼から、私は用があるから講義は受けさせてあげれないわ。拷問の歴史はまた今度ね」
「それじゃあ、私は……」
「拷問道具を眺めるとか……まあ、好きなようにしなさい。ただし、大爺様のいるあの屋敷には近づかないこと。いいかしら」
「はい、分かりましたわ」
花桜家の歴史の中に出てきた拷問。それは間違ったことをした悪人を正しいことをする善人に戻すために施す素晴らしいもの。早く聞きたくてわくわくしている。
お昼ご飯の後、拷問部屋に行く。幼い頃から嗅ぎ慣れている血の臭いが充満していて、とても落ち着く。
拷問道具をひとつひとつじっくり眺めていると、後ろから誰かが現れた。すごく黒い。しかも、よくわからない服を着ている。
「桔梗様を見つけたわよ」
「え、お姉様!? 」
「静かに。さあ、行くわよ」
黒い女性に言われるがままに引っ張られる。ああ、その正門は、通ってはならないのに。
連れてこられたのは、花桜家が裏切り者を打ち倒したという橋の近く。──お姉様が目を閉じて横たわっていた。
「茜。澪や葵は? 」
「葵はさっさと二人と一緒にどこかへ行ったわ。澪は泣きながら帰ったみたい」
「そう。じゃあ、茜も帰りなさい」
「分かりましたわ」
茜? 澪? 葵以外の名前はよく分からなかった。でも葵は確実にいたのだ。
「ん……」
桔梗お姉様がゆっくりと、ゆっくりと、目を開けた。
「あら、八重……。久しぶりね」
その優しい声に、私は、胸がいっぱいになった。
しあわせが、満ち溢れていくようだった。




