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華京女学院~闇に咲く乙女たち~  作者: 神崎美柚
第髭話 満ち溢れていく、しあわせ
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參 成瀬茜──七月二十日

 三日ぶりの登校だけれど、とりあえず出席するだけ。私は成瀬家の一員として、活動している。諜報員の役割を与えられている。夜遅くまで貴族の情報を探るのが私だ。

 ああ、本当に眠い。怠い。

 今日は澪の動向を探る。授業が終わったら澪の後をつける。細波家は乾物屋の看板を出しながらも、ここ数年は営業をしている様子がないのだ。近隣のいくつかの商店も同じ為、ついでに様子を見てみようと思っている。

 今日はお昼で授業が終わった。澪は葵と一緒に帰るようだ。私は後をつける。

 ──喫茶店。ここでお喋りとは随分裕福なものだ。確かに成瀬家からお金を回しているけれども、葵にはそこまでお金は行き渡っていないはずだ。葵以外にも母親と中等部一年生の妹がいる。ということは……。

 何やらお喋りをした後、澪だけ先に立ち上がった。お会計を自分でしている。お札を何枚も平気で出すとはおかしい。細波家はそこまで有名な乾物屋でもない。

 乃愛さんが、喫茶店の前にいた。合流の約束をしていたのだ。


「細波家が何か怪しいことに手を染めているのは間違いありません。細波家の娘の財布には少なくとも二十五枚お札が入っていました」

「二十五枚? 商人の中でも下なのに、それはあり得ないわ。追いかけましょう」


 追いかける最中、澪の着ている着物をよく見てみる。見た所、上質な着物だとはっきり分かった。ここ華京地区を歩いているときに浮いてしまっていたら、安物の着物なのだが、それがない。艶やかな色の着物。華京地区の着物店で買ったのだろう。

 彼女が歩いていると、川の所で誰かが倒れた。彼女はあわてる。


「あれは花桜桔梗……だった人」

「どういうことですか」

「花桜桔梗は眠りについたわ。意識の奥深くで、全てを拒んでいるわ。今頃葛藤している頃よ」

「そうなのですね」


 二時間程経っただろうか。葵が洽様や彩菜様とともに歩いてきた。三人とも驚いている。


「八重を呼んでくるわ。茜は四人と会話していて」

「分かりました」


 私はごく自然に、四人に近づく。そして、着物を比べてみる。──洽様や彩菜様は本物の貴族なのに、澪の着物より劣っている。これは、変だ。


「こんにちは」

「茜。どうしたの? 」

「天気がいいからお散歩をしていたの」

「あら、ここはあの事件のあった場所なのに? ──成瀬家のお嬢さん」

「ほほう、こやつが新人か。挨拶もせずにようのこのこと……」

「二人とも、まあ許してあげたら? 元商人だから、分からないことだらけなのよ」

「そうじゃのう」


 澪だけがにこにこ笑いながらこちらを睨んでいる。正確に言えば、洽様が私のことを成瀬家のお嬢さんと呼んだ時から睨んでいる。

 やはり、成瀬家には隠しておきたいことがあるのだろう。さあ、何なのかしら。


「澪、その着物素敵ね。どこで買ったの? 」

「お父様が誕生日にくれたわ。素敵でしょう? 」

「百万の着物じゃな」

「しかも特注。貴族でもないのにそんなのを頼むなんて、どうかしているわ」

「私のお店には澪、来ないわよね? 」

「……商人の娘が可愛い格好したらだめなの? お金をかけたわけでもあるまいし」

「いや、うぬの頭がおかしいだけじゃぞ。うぬは馬鹿じゃろう。百万は大金じゃぞ、馬鹿じゃ、うぬは、馬鹿じゃ。何度でも言うぞ、馬鹿じゃろう」


 彩菜様のその言葉に澪は愕然とした。自分に植えつけられた当たり前の感覚が崩壊させられたのだから。

 澪に当たり前の感覚を植え付けたのは母親である細波小町だ。彼女は商人どころか貴族の間でも有名な人だ。お金を湯水のように使い、夜遅くまで遊ぶ迷惑な女。商人の娘なのに、感覚はその辺の貴族を優に越えていた。

理由は簡単なものだった。乾物屋を夫が繁盛させてしまったからだ。今までは閑古鳥が鳴いていた細波乾物屋も、夫がにぎやかにした。その事によりお金は膨大なものになり、小町は毎日遊んだ。

 しかし、その後小町はどこかへ消えた。大金を抱えて、いなくなった。澪は小町をお手本にして育ったということは貴族の間では有名なことなのだ。だからこそ、彩菜様も洽様も馬鹿にしている。

 ──澪の顔が俯いた。泣いている。


「何よ、別に遊んだって、お金を使ったっていいじゃないの。お金はまだたくさんあるのだから、いいじゃないの。お母様が残した大金があるのだから、いいじゃない……」


 大金。先ほど澪は百万を軽く言った。それでは、彼女の中の大金とはどのようなものだろうか。

 洽様も彩菜様も呆れたのか、葵を促してこの場を離れた。商人が離婚すればどうなるのかは貴族にとって、うんざりするほど見てきたことなのだ。湊さんや乃愛さんから聞いたけれども、離婚し、店に取り残された夫か妻のどちらかが結局はひとりで稼げずに貴族にすがってくるということ。

 それは、破滅という最悪な末路をたどっていく。


「私じゃないわ……この着物を買ったのも、私を育てたのも、お父様よ。なのに、私を責めるのはどうしてなの? 」


 ぶつぶつ呟く澪。私も出来れば離れたいものだ。

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