貳 雫石葵──七月二十日
私は澪と別れ、喫茶店で別の人を待つ。
──遅いなあ。
「ごめんね。待たせてしまって。彩菜の準備に手間取ってしまったわ」
「わ、わらわのせいではないと言っておるだろう! 」
「はいはい。──それでは、報告を始めましょう」
洽と彩菜と私は、楓様の悩みを聞くことが多かった。そして、今回は桔梗様についてのことだった。あの人のことを今でも親友だと思っているそうだ。しかし、帰ってこないのでどうにかしてほしいと。
私は無理だが、彩菜や洽ならば容易い事。そして、その結果は。
「無理だったわ。どんなに捜しても見当たらないの」
「わらわも小さいなりに頑張ったのだがなあ」
「でもそろそろ戻ると思う、って口をそろえて言われたわ。貴族の娘の家出がここまで長続きしないはずだとか」
「そもそも桔梗様は世間知らずなはず、とも言われたのう。桔梗様は熱心に本は読むが、外には滅多にでておらんからなあ。そう言われてもおかしくはないのじゃ」
「──そう」
「大人達にとっては、四大貴族の内、一番の権力者である花桜家の娘がいなくなるのは好都合なのよ。私もこの年だからよく宴会とかに招かれるけれど、お酒が入ると大人達は口々にいろんな事を言うわ。花桜家が消えれば良いのに、とか。大抵が花桜家への悪口なのよね」
「今の当主の弥刀が愛想が悪いから? でも、それは……」
「弥刀を今の性格にした花桜家を嫌っておるだけじゃ。まあ、もう恨みを抱く相手は死んでしまったがのう」
「さて、と。ご飯を食べたら私のお屋敷に来ない? 」
「もちろん華京川は避けて行くんじゃろう? 」
「もちろん、と言いたいけれど、気になるのよね」
「わ、わらわは嫌じゃ! 」
「はいはい。とりあえず食べよう」
注文をし、運ばれてきたら私達は食べる。
いくら名家の娘でも、彩菜はまだ十二歳だ。怖いのは当たり前だろう。私だって、通りたくない。
ご飯を食べ終え、洽は彩菜を説得するべく、あるものを見せた。──彩菜がよく行っている望月洋品店のカタログだ。ちなみに、かなり高価な為、私のように商人の中でも貴族に近いお家でも買うことは不可能らしい。
「この中から好きなもの買ってあげるから行こう」
「もちろん行くぞ」
「……単純ねえ、本当に。その内誘拐されそう」
「わらわには頼もしい護衛がいるから大丈夫じゃ」
彩菜の後ろに先ほどからいる顔ののいかつい男性。矢島家の雇った護衛なんだろうけれど、顔からして近づきたくなくなる。
その護衛と共に喫茶店を出る。しばらく歩くと華京橋が見えてきた。その近くに誰かがいた。
「澪と……そちらの方は? 」
「葵、この人は多分桔梗様だよ。詩を書いた和紙をいくつか持っているもの」
「ほほう。こやつが……って戻ってきたのか!? 」
洽と彩菜は驚いている。目を覚ます様子がない桔梗さん。その美しさは本物だ。私や八重に優しくしてくれた桔梗さんそのものだ。
──随分とやつれてしまっているのかと思っていたけれど、ぼろぼろなだけだ。顔が薄汚れている。
八重を呼ぶべきなのだろうか。




